あやかしの森
大変お待たせしました。
かなり苦しんだ一話です……
町から北へ三里ほど進んだ、森の中。そこに、痕跡は続いていた。フィブリアさんと兄さんの術で追いかけてきたんだ。ちなみに特例として僕の魔法で連れてきた。
森の規模はそこまで大きくない。
けど、痕跡はこの森で完全に拡散されてしまっていた。
「つまり、ここから先は手探りってことですね」
森の入り口でいうと、フィブリアさんは深刻な表情で頷いた。
「森全体に拡散されている、ということは、ここであやかしは拡散されたことになる。つまり、現時点で存在を認知するのは非常に難しい」
「あやかし――幻獣は基本的に世界と同一だからねぇ。意思を集結させないことには、会話すらままならないわよ?」
魔王さんの意見に、兄さんも難しい顔を浮かべていた。
「だな。それでも森の中には要素の強い場所があるはずだ。それらをある程度集めれば、意思疎通くらいはできると思うぜ」
「中々に苦労しそうだがな」
「とりあえず魔力を餌にしてある程度集めればいいのね」
なるほど。魔力で……。
うーん。
たぶん、なんとかなるんじゃないかなぁ。
「おい、聞こえてたか、タクト」
「はい。なたぶん、なんとかできそうだなって」
「なんとか?」
フィブリアさんが怪訝になるのをみて、僕は指先を振り始めた。
「要するに、あやかしさんのもとを一か所にあつめて、魔力を媒体に復活させてあげればいいんですよね?」
「ものすごく簡単にいうとそうだ」
「なら、なんとかできそうだなって」
「……本気か?」
「論より証拠。やって見せた方がいいぞ、タクト」
兄さんに促されて、僕は頷いた。
「《コフィン》」
発動させたのは古代魔法の法則を組んで作り上げた魔法。あやかしさんの気配はもう掴んでるから、あとはそれに反応させる。
両手を広げると、緩やかに光が拡散していく。これでしばらく待つだけ。
「こんなものかな」
森の隅々まで広がっていくのを確認して、僕は手を二回はたいた。すると。
ぎぎぎぎぎぎ、と、錆びた鉄の音をたてて、フィブリアさんが顔だけをこっちに向けてきた。
「おい、今のって……」
「はい。古代魔法をちょっといじって、魔法を作ってみました」
あれ? なんで空気が固まるの?
「おま、おまおまおまっ!? なんつうことをしているのだ!?」
「ちょっと肩をがくがくしないでっくだっさぃっ」
「するわ! 全力でするわあああああ!」
ええええええ!
だって仕方ないでしょ、普通の魔法ならうまくいきそうになかったんだからぁぁああ……
そんな叫びも空しく、フィブリアさんがちょっと疲れるまで僕は揺らされまくった。うえぇえ……ひどいよぉ……。
「おいフィブリア。教育がなっちゃいないんじゃないのか?」
「お前がそれを俺にいうのかぁあああああああっ!?」
「ま、まぁまぁ。予想の範囲外だったってことでショ? 中々ないものねー……っていうか、どのレベルでのとんでもないことをしでかしたのか、たぶん本人分かってないわよ?」
兄さんに掴みかかるフィブリアさんをなだめつつ、硬直から復活した魔王さんは苦笑をこちらに向けてくる。
首をかしげると、やっぱりね、と、肩をすくめた。あれぇ?
「お前マジか」
「できちゃったから……」
兄さんに真顔でいわれ、僕は気まずくなって目をそらす。
「確かにやって見せろと言ったのは俺だけど、さすがに古代魔法を開発するとは思ってなかったなぁ」
「古代魔法の開発?」
僕、そんなことした覚えないけど。
おうむ返しにきくと、フィブリアさんが頭を抱えながら説明を始めてくれた。
「古代魔法ってのは、使えるだけでとんでもないんだよ。それは前に重々説教したと思うんだがな」
「うん。だから一般の人の前では使わないようにしてますよ?」
「今回はそれの一万倍くらい酷い」
「酷い」
「古代魔法の要素を使った魔術、つまりそれは新しい古代魔法の開発になる。これは、古代魔法の原理そのものを理解していないといけない。そこまでは分かるな?」
言い含めるようなゆったりした口調に、僕はうなずく。
「そんなやつ、現代にには観測されてない。様々な種族で、魔術に精通した賢者は存在するが、その誰もが古代魔法の原理を解き明かせてはいないんだ」
「りゅうのいちぞくでもいないぞー」
サナの追い討ちに、僕はうーん、と唸る。
あれ、そんなに難しかったっけ……? 本が分かりやすい解説がついてたからなぁ。
僕の微妙な表情に、フィブリアさんは何かを感じ取ったらしい。
「……古代魔法というのは、原理は良く分からないが、記載の通りの魔術式を膨大な魔力で強引にトレースして再現したらとんでもない効果を発揮するものだ」
「なるほど。だから危険なんですね」
「そうだ。原理を理解していないのに、ただ使えているから使っているからな。制御が当然困難になるし、どんなイレギュラーが起こるか分からない。それなのに、ぽんぽんとアレンジをかけて新しい古代魔法の開発をするというのがどれだけ危険か……っ!」
「待ってください、熱くなっちゃダメです。どうどう、どうどう?」
「俺は馬か何かかっ!」
「ああああああああ痛い痛い痛いっ!」
こめかみをグリグリするのはやめてええええええっ!
っていうか、フィブリアさん僕にお仕置するときだけは異常に素早くない!?
「だって、古代魔法の本に全部丁寧に解説があるじゃないですか……今の魔術書よりずっと分かりやすいですよ?」
「んん?」
その言葉に、みんなが反応した。
……あれ?
「おいタクト」
兄さんが真顔になっていた。
「お前、古代の魔法書、完全に解読してるのか……?」
「うん。やることないから、つい」
沈黙。あ、あれぇ?
「おいフィブリアっ!」
「まてなんで俺だ!? 一切合切関係ないだろうが! そもそも俺がこいつを認識する前のできごとだろう! だったら責任は貴様にあるだろうが勇者っ!」
「俺は忙しかったんだよ!」
「っていうか、古代魔法書を解読してるなんて、本当にびっくり人間なのねぇ」
いいあいを始めた二人にわって入りながら、魔王さんが微笑む。
「いや、それほどでも」
「ベタだけど褒めてないわよ?」
「あれぇ……」
僕はがっくりと肩を落とす。
「まぁ、そんな非常識オブ非常識に目をつむれば、とっても役立つ魔法じゃないかしら」
「それはそうだけどな……」
「心がヤバいけどな」
「サナもびっくりー」
「「本当にびっくりしてる?」」
間がのびるサナの声に、兄さんとフィブリアさんが同時につっこみした。息ぴったりだなぁ。
「あ、そろそろですよ」
魔力を感じる。
魔法があやかしさんの欠片を集めて、結晶化、一気にヒトを象っていく。光を放ちながら、あやかしさんは男の子に変化した。
北方を思わせる厚手の民族衣装に、大きい葉っぱを傘がわりに持ってる。
「うぅ……いきなりなんだ……?」
「あやかし、だな」
「そうだ。いかにも。僕はこの森のあやかし、アトレだ。強制的に魔法で呼び寄せて、いったい何の……用……事…………だ…………?」
ふんぞり返りながらいいつつも、どんどん語尾が小さくなっていく。
「勇者に……魔王……な、なんでぇ────っ!?」
ぺたん、とアトレくんはしりもちをついた。
あー、そっか。勇者と魔王がセットになってたらそりゃ驚くよね。
「ほら、兄さんったら」
「そ、そそそ、それに魔族大元帥に、始祖の龍……でも、一番ヤバいのはあんただっ!」
あれ? なんで僕に指が? ははーん、何か勘違いしてるんだね。これだけ強い人たちがいたら、当てられて感覚が変になってもおかしくないもんね。
僕はなるべく安心できるように微笑んで、手を振る。
「やだなぁ、僕は一番平凡ですよ?」
「嘘つけ!」
「嘘じゃないですって」
「おいどういうことだ勇者と魔王っ! なんで嘘の色が見えないんだ!」
兄さんたちに訴えるアトレくん。
何かに気付いたか、兄さんはぽん、と手を打ってから苦笑した。
「あー、《看破の目》か。あんた大層なもん持ってんだな。でも扱いきれてないようだから教えておく。それは《嘘をついていなかったら嘘にならない》んだ」
「そんなことは……!」
「つまり、そういうことなんだよ」
兄さんは敢えて含むような言い方をしてから、そっと耳打ちした。
それだけで、アトレくんの表情が色々と変わって、がっくりと肩を落とす。
その反応に、みんなが同情したように頷く。あれ? どういうこと?
「ある意味理不尽だ……」
なんで落ち込んでるか分からないけど、今はやることしないと。
「それで、ここに来てあなたを呼び出した理由なんですけど」
僕は切り出す。こういう時は単刀直入が一番だよね。
何故かびくっとするアトレくん。
「町の食材を根こそぎ持って行ったの、君でしょ?」
「……誤魔化したら跡形もなく消し飛ばされそうだから答えるけど、その通りだよ」
「不穏なこといわないでくださいって」
僕は苦笑する。そんな物騒な真似できないよ。
「なんで、そんなことしたんです?」
問いかけると、アトレくんは俯きながら顔をそらした。気まずそうだ。
答えるのを待っていると、アトレくんはぽつりと口を開く。
「母さんが……病気なんだ」
次回はがっつりメシテロします!
お楽しみに!
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