コーンスープパスタとあやかし
たっぷりフィブリアさんのカミナリが二人に落下し終わったところで、ようやくグランさんが目を覚ます。そこで兄さんと魔王さんをまた目の当たりにして卒倒したけど。
久々に気付の魔法を使った気がする。
なんとか三回目にして卒倒しなかったグランさんにフィブリアさんが事情を説明しているのを耳に、僕は朝ごはんの支度をしていた。
そう。ストレージには食糧があるんだ。
これをどう誤魔化すかは全部フィブリアさんに丸投げした。うん。僕は美味しいご飯でみんなを笑顔にしたいから。
それに、今回の怪奇現象はちょっとした事件だし、腹減ってはなんとやら。
僕は早速調理にとりかかる。
使うのは、コーン、サトイモ、キノコ、タマネギ。
まずはサトイモのあく抜きから。
皮をむいて、細かめに切ってから塩もみして、水から煮立つ。沸騰してからも少しだけ煮込ませて、後は流水でぬめりを取る。ちょっと面倒だけど、大事な作業。
次にタマネギ、キノコをみじん切りにして、バターでじっくり炒める。火が通ったら、サトイモを入れていく。
火が通ったら、コーンの実を入れて、さっと炒める。
軽く火が通ったら、次は牛乳で煮込む。
ここにコーンの芯もいれて煮込むよ。その方が美味しくなるんだよね。
コトコトって煮込んだら、芯を取り出す。後はミキサーみたいに細かく刻んで、とろっとろにしたら、一度だけ裏ごしして……コーンの粒を入れて、と。これで完成!
とろっとろでクリーミーなコーンスープのできあがり!
これだけでも美味しそうなんだけど、まだいくよー。
次はパスタを茹でる。
芯がちょっと多めに残るようにして、さっとコーンスープの中へ。
後はまぜまぜしたら、パスタがいい具合に火が通る。
「そしたら刻んだベーコンをかけて、はいおっけー」
付け合わせは、ダイコン、パプリカ、キュウリのピクルスとカットフルーツ。これで朝ごはんのできあがり。
僕はにこにこしながらテーブルに持っていく。
「みなさん、朝ごはんできましたよー」
ことん、と置くと、ばっとみんなが集まってくる。お腹すいてたんだね。
「おー! まってましたー」
「今日のご飯は何だ? タクト」
「さっきから甘~い匂いがしてきてて、お姉さん我慢できなかったのよねぇ」
「自分をお姉さんとか言わないでください、魔王様」
「あの、私もご一緒して本当によろしいので……?」
口々にいうみんなに僕は配膳する。
「はい、召し上がれ」
そういうと、みんなは一斉にフォークとスプーンをとった。グランさんだけはちょっと戸惑った感じだけど、ご飯の前ではみんな平等。美味しくいただきます。
僕もテーブルに座って、まずはコーンスープ。
サトイモが入ってるから、すくうと粘り気があってちょっと重い。口に含めると、すごく滑らかな食感がやってきた。
「んんっ、甘いっ」
思わず声が漏れるくらいだ。
フィブリアさんもコーンスープをまず口に入れた。
「うむ。甘い。けど、塩気というか、旨味もしっかりあるんだな」
「コーンもシャキシャキなのねぇ、魔族の世界じゃこんな美味しいものなかったわぁ」
「このぼたっとしたのは初めてだなぁ。本当にタクトは料理が上手い」
「パスタうまー」
サナはパスタを口にいれて、ちゅるんっとすう。
よかったよかった。好評だ。
僕もフォークでパスタをまく。ボタっとしたスープがからみつく。ベーコンも巻き添えにして、ぱくっと一口。
しみうま~~~~っ。
程よい柔らかさになっているパスタのちゅるちゅる感に、スープがじんわり染み込んでる。コーンのすっきりした甘さから、キノコとサトイモの旨味に切り替わっていく中で、存在感を発揮するのはベーコンだ。
強烈に圧縮された塩気の強い肉感。
食感のアクセントにもなって、マイルドの中のスパイシーさだ。
「これは、見事なパスタですな……」
グランさんも驚いてくれていた。よかったよかった。
「ああ、ピクルスもいいな」
「こりっとした食感と、鼻から抜けるような酸味。爽やかだわぁ」
「スープの風味でいっぱいになった口の中をさっぱりさせてくれるな。うん、俺はダイコンがお気に入りだぞ、タクト」
「うまー、うまーっ」
うん、美味しいよね。
ピクルスの漬かり加減は完璧だ。少しだけ柔らかくなった野菜たちは噛み切るのにちょうどいい歯応えで、きゅっと酸味がしみだしてくる。瑞々しい味わいは本当に安らぐ。
みんな、がっつくようにして食べてくれた。
「あー、美味しかった」
デザートのカットフルーツまで綺麗に食べ終えて、フィブリアさんはゆっくりとフォークをお皿の上に置いた。
みんなも同じくらいに食べ終わる。
フルーツも瑞々しくて美味しかったぁ。果実って本当に幸せな甘さだよね。
「さて、作戦会議といこうか」
テーブルをさっと片付けると、早速兄さんが話題を切り替える。
「率直に、今回の怪奇現象は人間や魔物の仕業じゃあない。もちろん魔族でもない」
「そうねぇ。私の部下たちにこんな器用な真似ができるのはいないわ」
「器用な、真似……確かに、町中の食料を誰にも気付かれず盗み出すなんて……」
兄さんと魔王さんの言葉に、フィブリアさんも頷く。
そう。不可能だ。
僕たちが使う魔法では。どうやっても痕跡が残る。もちろん隠すことも可能だけれども、そういう類のものじゃあない。そもそも、これだけの大規模な魔法を隠すことなんて、まず不可能だ。僕が知らないだけかもしれないけど。
「その、町で宮廷魔導師を派遣しておりますが、術式が読み取れないとの報告が上がっております」
「術式が読み取れない?」
「はい。その、宮廷魔導師が知らない術式とかではなく、術式そのものが読み取れないと」
みんなが、その言葉に違和感を覚えたと思う。
宮廷魔導師は魔法使いでも上位しかなれない。だから、魔法には精通している。そんな魔法使いが術式を読み取れないなんて。
それって――
「まるで、魔法じゃないみたいですね」
「んなバカな……」
「あら、でもちょっと待って。それってありうるんじゃないかしら」
「魔王様?」
魔王さんは少しだけ考えてから、指を鳴らした。
「ありうるわよ、やっぱり。魔族でも人間でもない、ましてや精霊でもない。この世とあの世をいったりきたりできる、唯一の例外」
……? そんなの、いるの?
疑問になったけど、フィブリアさんはすぐに思い至ったらしい。兄さんも「あ」と声を漏らして手を打った。
「「あやかしか」」
二人の声が揃って、魔王さんは頷いた。
「そう。あやかし。正確にいえば、幻妖種ね」
――あ。
あやかし! 本で読んだことがある。でも、空想上だって、ほとんどの本では書いてあった気がするけど。実在するの?
だとしたらすごいなぁ!
目をキラキラさせていると、すぐにフィブリアさんが気付いてため息を漏らした。あ、今はそっちじゃないか。
「君の興味の行方不明さは本当に……」
「いやぁ、気になるとつい」
「褒めてないからな。まったく。しかし、あやかしの可能性は確かに高い」
フィブリアさんは何度も頷きながら、何かぶつぶつ言い始めた。呪文だ。
「あやかしには、あやかし用の追跡術がある。使ってみよう」
「フィブリア、あんたそんなの使えたの?」
「ええ」
「毎回思ってるけど、無駄に器用よね」
「無駄っていわないでください……」
魔王さんのあっけらかんとした物言いに、フィブリアさんは疲れた声で返す。
でも、あやかし用の術ってどういうものなんだろう。
僕もまったく知らないや。
「とにかく、あやかしは魔法ではなく、物質そのものに干渉します。奴等は半魂半神の不定形さがウリですから」
「確かに?」
「なので、物質そのものにどう干渉したのか、を追跡すれば分かります」
フィブリアさんはふわっと魔力を周囲に展開した。
「あやかしに気配はないからな。存在をとことん希薄化されたら気付けない」
「うむ。奴等は世界の構成物質そのものと同化するからな。だが、だからこそ、流れの不自然な部分が痕跡として残る。そこを感知してやれば、追跡できる」
フィブリアさんから、魔力の波紋が次から次へと放たれる。範囲は馬車くらい。慎重で濃密だからこそ、そこまで広範囲は探せないんだ。
うわぁ、本当にすごいな、フィブリアさんは。
しばらくすると、部屋の中に変な足跡が出現した。あと、彗星の尾びれみたいなのも。これがあやかしの痕跡か。
「すごい、浮かんできましたな……!」
グランさんは少し興奮したようにいう。うん、その気持ちが分かる。
「これは、子供の足跡か?」
「まだ若いあやかしのようね、どうやら」
「これなら、俺でも追えそうだな」
鼻歌を交らせながら、兄さんはフィブリアさんの術を再現する。さすがだ。
でも、分かりやすい術式で構成してるフィブリアさんだからこそ、だと思う。
「見ただけで術式を真似るのか、これだから勇者は……」
「まぁ確かに勇者って天才バカだけど……弟クンは?」
「え? 僕も再現できます。だって、そこまで難しくないですし」
魔王さんに振られて、素直に答えると、フィブリアさんは顔をひきつらせた。
「私が何年かけて構成した魔法だと思っているんだ……」
「フィブリア。世の中には気にしちゃいけないものってあるわよ」
「ええ、そうですね」
言いながら、フィブリアさんは肩を落としたのだった。
あれ、でもなんで?
いや、ええ……。あ、な、なんとかしなきゃ。
「と、とにかく、これで追跡できるわけですし」
「そうだな。さっさと追いかけて特定しようぜ」
兄さんは頷くと、フィブリアさんの術よりも強化した魔法を発動させた。
お待たせいたしました。
次回をお楽しみに!
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