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事件と卒倒

 事件は、フェスティバル三日目にやってきた。

 なんとなくだけど、朝からいやな気配がした。二日目も大盛況だったから、その疲れが残ってるのかなって思ったけど、兄さんからもらった入浴剤がよく効いてるから、それもないはずだし。


 でも、なんか違和感あるんだよなぁ。


 うーん。

 考え過ぎかな?

 とりあえず朝ごはん作ろう。今日は何にしようかな……って?


「……あれぇ?」


 冷蔵庫を開けて、僕は目が点になった。

 あ、あれ?

 一回しめて、もう一回あけて。


 あ、あれれれれぇ?


 慌てて僕は棚を漁る。

 がららっと開けて――しめた。ちょっとまって。さすがに理解が追いつかないんだけど、一体何があったの? あれ? え? えええ?


「しょ、食材が一つもない……」

「ん、どうしたんだ?」

「あ、フィブリアさん。おはようございます。それがですね」


 ロフトから降りてきたフィブリアさんに、僕は冷蔵庫を開けてみせた。


「……お?」


 それだけでなく、棚も、全部。

 フィブリアさんは顔をひきつらせた。空っぽなんだ。全部。


「お、おお?」

「小麦粉どころか、調味料さえ何一つ、です」

「ど、どういうことだこれ?」

「わかりません……」


 僕はただ困惑していった。


「これじゃあ、朝ごはん作れないですね……」

「いやそういう問題じゃないだろう!? これは事件だろ事件!」

「え?」


 事件?

 分からないで唇に指先当てると、フィブリアさんは大きくため息をついた。それから目を怒らせる。

 わぁ、怖い……。


「あのなぁ。食材どころか、調味料がまるごと綺麗さっぱり無くなってるんだぞ!」

「それはそうですけど」

「この馬車には、お前に私に、サナ、そして勇者と魔王様がいるんだぞ。これだけいるメンツに誰一人気付かれずに、あれだけあった食料を全部奪えるなんてことがあり得ると思っているのか?」

「んー言われてみると確かに変ですね」


 鈍い僕ならともかくとして、気配に鋭い兄さんが気付かないとは思えない。

 それに、荒らされた形跡なんて何一つなかったし、そもそもこの馬車にどうやって入ってきたんだろう。この馬車にはもちろん内側からロックをかけてあるからね。

 それに、近づいてきたなら、スレイプニルさんが絶対に気付く。

 でも、それさえないってことは……。


 僕は頭を捻る。


 あり得るとしたら……なんだろう? 神様のいたずら? うん、分からない。

 僕はあっさりと考えることを放棄した。


「……おいタクト。お前今、考えることをやめただろ」


 瞬間、フィブリアさんからジト目で睨まれながらつっこみをうける。ええええ。


「えっ!? なんでわかったんですか?」

「少しは隠そうとしろ、少しは」

「いや、だって、僕が考えても分からないですし、あはは」

「あのなぁ……料理になればトコトン考え抜くくせに……」


 はぁ、と大きくため息をつくフィブリアさん。困ってるようだ。

 僕はその隣で自分の着替えを引っ張り出した。


「とりあえず、ないものを嘆いても仕方ないですし、まずは市場へいきましょう。そこで材料を仕入れられるでしょうし」

「本当に呑気だな、お前は……」

「腹が減っていてはなんとやら、ですよ。お金はありますし」


 外に出る準備をさっと済ませて、僕は馬車から出る。ん? あれ?

 すごく湿っぽい空気が入ってくる。

 視界が……すごく悪い。一メートル先が見えない。


「町の中なのに、すごく霧が出るんですね」

「いや、そうじゃないだろ?」


 同じくフィブリアさんが降りてきて、すぐに魔力を放った。周囲を索敵してるみたい。


「これは……ただの霧じゃないな」

「確かに、ちょっとだけ魔力を感じますね」


 よく気をつけなないと感知さえできないくらい僅かだけど。

 これに気付けるなんて、さすがフィブリアさんだなぁ。

 けどこの濃霧は、自然の霧を集めてきたって感じ。一から霧を魔力で生み出したわけじゃないと思う。それならもっと魔力があると思うし……ということは、どこかから持ってきたことになる。


 この町の外には、確か大きい河川があったからね。


 あそこなら、霧が出てても不思議はない。たぶん、比較したらすぐに分かると思うけど。

 僕も周囲を調べてみる。霧はどうも町中に広がってるみたいだ。中々の広範囲で、これを誰にも気付かれず展開するって、スゴいことだと思う。

 そもそもこの町は、防衛能力に関してすごく意識が高いから。


「……ふむ?」


 フィブリアさんが怪訝な表情を浮かべた。


「誰かくる」

「え?」

「グランのようだな。ずいぶんと慌てている様子だが」


 こんな朝早くに、グランさんが?

 仕込みのある料理人や、市場の人ならいざ知らず、一般人ならまだ寝息を立てている時間だ。どうしたんだろう。

 それに、慌ててるって……。

 少しだけ待っていると、グランさんが現れた。ほんの数人、騎士を連れてきている。護衛だ。

 グランさんと僕らのいる馬車は距離が近い。だから馬車の手配よりも走ってくる方が結果的に時間が短く済む。

 グランさんぐらい偉い人になると、あまり選択しないことだと思うけど。わざわざ走ってくるなんて、疲れるだろうし。


「おお、ご無事でしたか!」

「あ、はい。無事です。というかグランさん。どうしました? こんな朝早くに」

「大変なことになりましてな」


 はぁはぁと荒い息を立てながらグランさんはまくしたててくる。すごい勢いだ。


「食材が……調味料が……すべて、この町から消えてしまったのです!」

「……この町から?」


 言葉の違和感に気付いたのは、やっぱりフィブリアさんだった。


「我らも食材を全て失った。この現象が、町全体で起こっているということか?」

「はい! ホテルだけでなく、市場からも、あらゆる家庭からも! 根こそぎ、全部!」


 フィブリアさんの確認に、顔面蒼白のグランさんはハッキリと肯定した。

 って、嘘でしょ……?

 僕は言葉を失った。

 市場からも?


「そんな……それじゃあ、朝ごはんが!」

「「そこですか」」


 グランさんとフィブリアさんは同時につっこみを入れてきた。あ、あれぇ?


「ともかく、町中から食材が消失したんです! こんな怪奇現象、初めてですよ!」

「僕も聞いたことないですね」

「被害者はいないのか?」

「誰かがケガをしたとか、そういう人的被害は出ていないのか?」


 フィブリアさんの問いかけに、グランさんは頭を振った。


「ええ。今現時点で、ではありますが……騎士団からそのような報告は上がっていません。すでに市長自ら陣頭指揮をとっておられる状態です」

「それでグランさんがこちらに?」

「ええ。安全の確認をと。タクトさんたちは馬車におられると耳にしましたので」

「そうですね。一応報告ですけれど、ウチも全滅です」

「やはりそうですか」


 落ち込んだようにグランさんは俯いた。

 ああ、そんなにご飯が食べられなくて落ち込んでるのかな。


「あ、でも多分スト」

「ええそうなんです、我らもやられてしまいましてね」

「えぐう……」


 い、痛い……。

 フィブリアさん、いきなり脇腹を膝うちしないで……結構、きくっ……。

 うずくまっていると、フィブリアさんはハハハ、と笑いながらグランさんと話を進めていく。うう、ひどい。

 あ、でも、そっか。僕のストレージは誰にもいっちゃいけないんだっけ……。ついうっかり口を滑らせるところだった。


「そこでですね、タクトさんにもご助力をお願いしたく思いまして」

「助力、ですか?」


 フィブリアさんがちょっと引く。え、いや、なんで?


「もちろん助けますよ?」


 痛みから復帰した僕は即答する。すかさずフィブリアさんがジト目で見てくるけど、今回も仕方ない。だって、町が大変なんだから。


「あ、俺も俺も」

「はいはーい私も」


 すると、馬車のカウンターの窓をあけて顔を覗かせたのは、兄さんと魔王さんだった。

 声に驚いてグランさんは顔をうつして、ぴしっと固まった。

 あれ? ああ、そっか、兄さん有名人だもんね。今は変身魔法で見た目を誤魔化してないから、そのまんまだし。

 勇者が現れたらびっくりするよね。


「え、えっと……?」

「あ、どうも。勇者です」

「どーもーっ。魔王です」


 二人が軽い感じで自己紹介をすると、グランさんは首をかしげた。


「ゆうしゃ……まおう……?」


 確認に頷く二人。


「はうっ」


 あ。気絶した。

 僕とフィブリアさんは慌ててグランさんを抱き支えた。


「あれ?」

「当たり前だああああああああっ! 考えろっ! このアホ勇者っ! まぬけ魔王っ!」


 やっぱり首をかしげる二人に、フィブリアさんの絶叫が突き刺さった。



大変お待たせしました……。

ちょっとかなり苦戦しまして。その分、お楽しみいただける話のさわりになっているはず。

次回はメシテロします。


お楽しみに。


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お読みいただき有難うございます
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新連載はじめました! 追放ものです! ぜひ読んでお楽しみください!
料亭をクビになったけど、料理人スキルが最強すぎたので傭兵やることになりました。
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