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フェスティバルとオムライス

「な、なんでここにっ……!?」


 本当に予想外だったから、僕は動揺してしまった。でも兄さんは気にしない。


「そりゃ、手紙で書いてあっただろ。出場するって。それで気になって様子を見にきたんだ。あ、大丈夫。ちゃんと変装してるから」


 あ、そっか。それなら安心か。よく感じたら魔法で変装してるんだ。よくこの町の警戒網をごまかせるなぁ。

 確かに手紙で書いてたけど、まさかくるとは思わなかった。


「それで、大変そうだな」

「うん、もうすぐパンクしそう」

「そっかそっか。よし、じゃあ兄ちゃんに任せろ。な」

「え?」


 任せろって?

 思う間に、兄さんの隣に女の人が現れた。おお、いきなり? っていうか、え。

 女の人はフィブリアさんとほとんど同じ格好だった。

 トレース、したみたいだ。


「パンを焼くのは俺に任せろ。見て覚えたから。どんどん生地を作ってくから」

「う、うん?」

「じゃあ私は前に出て捌いていくねん」

「おう、頼んだぞ」


 女の人は優雅な仕草で、外に出ていく。どうしてか、フレッドさんたちが気に留める様子はない。ほんの僅かだけど、魔力を感じた。これは確か、テンプテーション?

 誰かに害があるものじゃない。

 すごく繊細に手加減されてる。この魔法って、本来は相手を催眠状態に陥れるのに。


「ちょっとフィブリア。何てこずってんのよ」

「ん? この……ぶふぉっ!? ま、まあああああまままあっ!?」

「やだ騒がないの。ほら、とっととさばくわよ」

「いやいやいやいやいやいやいや」

「理由は後。頭でっかちなのは相変わらずなんだから」


 優雅な仕草で女の人はフィブリアさんの鼻頭をつついて、接客に入った。

 それからなんとスムーズなこと。

 混乱し始めていた列があっという間に整理された。僕の方にも余裕ができて、次々と作業を済ませていく。ああ、すごい楽。

 兄さんだから、何かをいわなくても通じる。

 気付いたら欲しいものがあって、つまずくことがなくなった。

 これなら、なんとかなるかも!


「集中、集中っ……!」


 僕は頬を叩いてから、調理に意識を集中させた。

 じゅ、じゅじゅーっ。

 美味しく、美味しく焼けますように。


 結局、僕らは一回も休むことなく、お客さんをさばきつづけた。


 売り上げはあっさりとお菓子の時を上回った。

 周囲のお店がどうなっているのかが分からないので、僕たちが特別繁盛できてたかどうかは分からないんだけどね。でも気にしてられない。

 とにかく初日はなんとかクリア。

 これが毎日続くとなったら、さすがにちょっと大変だよね。

 店じまいをして、僕は肩を回す。

 回復魔法で疲労感はないはずなんだけど、なんかこう、ね。


「だろうと思ったから、道中でこういうの仕入れてきたぞ」


 いつものニコニコ顔で、兄さんは紙袋を手渡してくれた。なんだろう。ほのかにだけど、いい香りがする。お花かな?


「あけてもいい?」

「もちろん」


 がさがさっと音を立てて開けると、そこに入っていたのは白い粒々の入ったケースだった。

 なんだろう、これ。

 手に取ってみると、ふわっと柔らかい香りがする。うわぁ、ほっとする。ラベンダー系の何かかな。アロマとか?


「入浴剤だよ、入浴剤」

「入浴剤?」

「そ。それいれて湯船につかれ。そうしたら疲れが取れるから」

「へぇ、そうなんだ。やってみるね。ありがとう、兄さん」

「うんうん。それと、これも仕入れてきたぞ。何かに使えると思ってさ」

「わぁ、すごい。うるち米だ!」


 これ、炊くとすっごく美味しいんだよね。

 もち米しかなかったから、すごく助かる!


「へぇ、これがうるち米ですか。初めてみますね」


 話題にのってきたのは、フレッドさんだ。娘さんもまじまじと覗いてくる。

 東の町では滅多に入ってこないものだもんね。

 そうだ! 今日はこれを使ってご飯を作ろう。何がいいかな。


「みなさん、まだお時間ありますよね? ごはん作るので、ぜひ召し上がっていってください」

「おー、タクトのごはん」


 僕の提案に真っ先に反応したのは、サナだった。どうもお腹すいているようだ。そりゃそうだよね。あれだけ動いてたら。一応、おやつの時間とかは作ってたけど。

 みんなも賛成してくれたので、僕は早速作ることにした。

 

 まずはご飯から!


 流水でしゃばしゃばってお米を洗っていく。

 この時、とがないようにね。米が傷付いちゃう。さらさらっと流れるように撫で回す感じで。後は水を流してまた水をいれる。これを繰り返すだけでしっかり綺麗になるよ。


 綺麗になったら適量を水にいれて、と。


 ここで取り出すのは、バターと濃縮したコンソメ。それとみじん切りのタマネギと、細かく切った生ソーセージ。

 ぽちゃぽちゃっと入れて軽くかきまぜて、後は炊くだけ。火加減がとっても大事だからね。こまめに《加速》させて短縮しつつ、都度調整して……。

 炊きあがったらむらす時間。


 出来上がったら、必要分を取り出して、ケチャップを入れて一気にまぜる!


 混ぜ終わったら、フライパンでさっと炒める。

 この時、粗めに切った(加熱済み)の生ソーセージをいれるよ。これでケチャップライスの完成。


 次に卵。


 ちょっと多めにひいた油に、溶いた卵を入れて、よっと。

 ぷくってなった泡みたいなのを軽く潰して、と。薄くて平たい卵焼きにしたら、ケチャップライスを入れて、とんとんとん、と包む。


 はい!


 よし。卵やぶれなかった! えらい!

 後はケチャップをそえて、と。

 へへーん。オムライスのできあがり! んー、いい匂い。生ソーセージの香ばしさが際立ってる気がするなぁ。


「さぁ、みなさんご飯ですよー」

「おおー」

「待ってた待ってた。タクトの飯久しぶりだなァ」


 すぐにみんながやってきてくれる。

 嬉しいなぁ。

 僕はどんどんとテーブルに並べていく。あ、スープも忘れずに。もちろんベルやおばちゃんの分もあるよ! アークさんたちもね。


「うわぁ、すっげぇ!」

「おやまぁ、キレーなオムレツだねぇ。早速いただこうかしらね」


 みんながわいわいと盛り上がる。

 うんうん、この雰囲気はいつも大好きだなぁ。

 あれ? そういえばフィブリアさんは? どこだろう。えっと……馬車の上? 何か話してるっぽいな。呼びにいこう。

 僕はそっと馬車から出て、はしごを登る。

 あ、フィブリアさんと、あの女の人だ。向かい合って座ってる。


「あー……やっと魔力が抜けた……」

「あはは、ごめんねぇ。ちょっと強めにかけちゃった。あははははー」

「あはは、ではありません! 魔王様っ!」


 開口一番、フィブリアさんは目を怒らせて雷を落とした。ひえっ。僕が怒られたわけじゃないけど、縮こまっちゃうよね。

 っていうか、魔王様?

 魔王様って、あの魔王ってことなのかな?


「っていうかいきなりなんでこんなトコに現れてるんですかっ!?」

「え、えっとー。タクトくんのご飯食べたくなったから」

「意味の分からないことを言わないっ! っていうか、なんでタクトのこと……」

「ん? そりゃ、私は今勇者と一緒にいるからね」

「ゆ、勇者とっ!?」


 へぇー、そうなんだ。

 ちょっと驚きかも。兄さんならやりかねない、かなぁ?


「その方が色々と都合いいからね。お互いの世界を平和にするためには」

「……まったく……魔王と勇者がそろって姿見せるとか、前代未聞ですよ……」

「そのあたりは理解してるわよ? だからちゃんと姿隠したじゃなーいあっはははは」

「そういう問題ではなくてですね?」

「いいじゃんいいじゃーん。たまにはハネ伸ばし。あんたが抱えてた厄介な問題もなんとかしてあげたのは私なんだし?」


 人差し指で唇を撫でながら、魔王さんはふふって微笑む。

 問題?

 ああ、あれか。フィブリアさんが反対派の頭にされてたってやつ。確かにどうなったのか気にはなってたなぁ。兄さんだからなんとかしてると思ってたけど、そっか、魔王さんに頼んだんんだ。


「ま、魔王様自ら……?」

「部下の不始末は長がつけるものでしょー? だからそこはいいんだけど」


 魔王さんはしなっと綺麗な四肢を伸ばす。


「でも、ご褒美は欲しいじゃない?」

「あのですねぇ……」


 おお、フィブリアさんが困ってる。もうちょっと眺めていたいけど。ご飯冷めちゃうし。


「あ、あの。ご飯できましたよ?」

「やだすぐいくわ」


 一瞬で魔王さんは振り返ると、するりと馬車の中へ入っていった。ってどこから?


「はぁ……まったく。タクト。俺もいただこう。ここで食べたいな」

「はい」


 外で食べるのもいいよね。僕もそうしよう。

 早速もってくる。

 うん、夜風か気持ちいいなぁ。


「いただきます、と、オムレツじゃないのか」


 すっと黄色い卵を割って、フィブリアさんは口を開けた。うん、みんなオムレツって思っちゃうんだよね。最初は。でも違う違う。

 ちょっとしんなりしてるケチャップライス。二つの味わいがあるソーセージ。僕は卵と一緒にはくっと一口。


 ん、んんんん~~~~っ。


 このしっとりしたご飯! コンソメの旨味と、ソーセージの脂と、ケチャップの甘みと酸味のバランス! 卵がそれをくるっと包み込んでくれて、美味しいなぁああ!

 これ、うまくできてる。

 フィブリアさんも眉をはねあげながら、笑顔をこぼした。


「うん。美味いな。これはたくさん食える」

「それならよかった」

「このソーセージがいい味出してるなぁ」

「直前に入れたのもあるので、すごくジューシーですよね」

「うむ。しかしこのコメが美味しく吸い上げてくれてるし、ケチャップの甘さがしつこさを感じさせないのがスゴいな。いいぞこれは」

「割とお手軽ですしね。明日もがんばりましょうってことで」

「ん、そうだな、明日もがんばらないとな」

「はい」


 夜空を見上げて、僕とフィブリアさんは笑った。

 さぁ、二日目もがんばりましょう。



オムライスって美味しいです。いろんなバリエーションあるので、出していきたいですね。


次回をお楽しみに。


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新連載はじめました! 追放ものです! ぜひ読んでお楽しみください!
料亭をクビになったけど、料理人スキルが最強すぎたので傭兵やることになりました。
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