料理フェスティバル開幕!《試作編》
「よし、お肉げっと」
おばちゃんとの交渉を終えて、僕は市場巡りを再開した。
おばちゃんから、なんと、あのアークさんが店をやっているって情報を手にしたんだよ。
グラハム粉の活用法を教えたあの人だ。
実際、どうしてるのかなって気になってたんだけど、無事みたいだ。それどころか、店をやってるってことは、そこそこ躍進できたんじゃないのかな。
ということで早速向かう。
えっと、確かこのあたり……あ、いた。
誰かに小麦粉を売ってるけど、あれは主婦だな。お店の料理人とかじゃなさそうだ。よかった。まだ誰とも仕入れの交渉していなさそう。
「どうも、こんにちは」
僕が声をかけると、アークさんはきょとん、としてから、すぐに手を叩いた。
「ああ! あの時の!」
「お久しぶりです。お元気そうですね」
「はい! あ、あのパンおかげさまで大好評でして! めちゃくちゃ親方にも褒められまして、なんとかなったんですよー!」
「みたいですね、よかったです」
「お礼したかったんですけど、もうどこに行かれたのかも分からなかったんで……でもこうして出会えるなんて! 神様に感謝しかないです!」
アークさんは僕の手を両手でしっかり握りながらいってくれた。
ああ、この人は本当に。
それからしばらくアークさんの話を聞いた。
やっぱり、グラハム粉の一件で、お店を任されるようになったみたい。今回はフェスティバルがあるからってここまで出店しにきたそうな。すごいなぁ。
しかもアークさんは商才があるみたい。
お客さんがきたらぱっぱと手際よく販売したし。
「それで、どうしてこちらに?」
「うん。僕もこのフェスティバルに出店するんですよ。屋台で」
「ええええええっ! それってすごいじゃないですか! じゃあ仕入れ先とかを探してるってことなんですか?」
アークさんはおおげさなくらいに驚いて、それから喜んでくれた。
純粋だなぁ。
「うん。そうなんです」
素直に頷くと、すかさずアークさんがまた僕の手を取った。
「じゃあ小麦粉使います!?」
「もちろん」
「それなら、是非これを使ってください! 自慢の新作なんです!」
「へー」
早速その小麦粉を見せてもらう。
おお。
見事な強力粉だ。これならいいパンを作れそう。あとは牛乳とかバター次第だけど。
「この粉にぴったりな材料を揃えてる店もしってますよ!」
「僕の心を読んだの?」
「なんですかそれ?」
「いや、ううん? ちょうど考えてたところだったから」
「ああ、だってそんな顔をしてましたもの」
「そうなんだ……」
僕って分かりやすいんだろうか。
ともあれ、こんな上質の粉を手に入れない術はない。僕は早速交渉を済ませて仕入れを決めて、次に乳製品を扱っている店へ案内してもらった。
そこはまだ若い人が切り盛りしてるんだけど、すごく上質だった。
「へぇ、すごいなぁ」
これ、バターもたくさんある。悩むなぁ。
「パン作りなら、何がいいんだい? 例えばクロワッサンなら、この発酵バターとかがオススメだけどね。すごく香りがいいから」
「うーん。確かに甘めのパンがいいかなって思ってるんですけど、お肉の味を際立たせたいので……」
「なるほど。それならこのあたりがどうかな。牛乳もいれるんだろう?」
「そうですね」
「じゃあこっちがおすすめ」
指定された商品は、確かにいい感じだ。うんうん、これなら……。よーし。
僕は早速商品の仕入れ交渉を済ませる。
思ったよりも安く仕入れられてひとあんしん。大分材料費抑えられたなぁ。次は野菜だな。こっちも簡単に見つかった。
「うん、これでよし。早速試作していこう」
材料を買い込んで、僕は馬車へ戻る。
屋台にもよって、さっと食べられるものをフィブリアさんとサナに渡してから、僕は作り始める。二人は外の景色が気に入ったみたいで、外にテーブルを出して食べるみたい。
まずはパン。今は牛乳とバターの相性を確かめたいから、アレンジも何もしないでオーソドックすに作っていく。同時並行でソースも作っていくよ。
新鮮なトマトが手に入ったからね。
まずはさっと湯引きしてから皮をめくって、と。
次に魔法で細かく潰して、ペーストにしていく。滑らかになったら、鍋に入れて中火にかけて、と、後はうらごしする。
ここに、すりおろしたタマネギ、ニンニクを加えて、よく混ぜて煮込む。
よし。
ここでお酢とローリエを入れて軽くひと煮立ちすれば、トマトケチャップの完成!
スパイスを入れたら大人の味になるけど、今回はマイルドで甘めに仕上げてるよ。
試しに味見して……うん、いい感じ。
次はマスタード。
これは調味料を混ぜてねりあげるだけ。
すごく簡単なんだけど、ちょっと生クリームを加えて、辛さを弱めてある。お好みで粒マスタードを足せるようにして、調整できるように、だ。
ふう、こんなものかな。
「ん、パンも焼き上がったね」
あつあつのパンは、綺麗に焼けていた。
コッペパンだ。粗熱を取ってから、切れ目を入れていく。
これらが終わったら、ソーセージを焼いていく。
ちょっとコツがいるんだよね。これ。
まずは沸騰していないお湯をかけて、表面がちょっと白くなるのを待つ。これで皮をちょっと強くしてから、ゆっくり焼いていく。
一気に加熱すると火傷しちゃうからね。
表面に焼き目がついたら、ちょっとお湯を入れて蒸し焼きに。後はその水分が完全に跳んだら完成。
生のソーセージだから、しっかり中まで火を通さないといけないからね。
「後はこれを挟んで、と」
パンにソーセージを挟んで、ケチャップとマスタードを塗る。
これで基本のホットドッグの完成。
さて試食試食、と。
ぱきっ。
ん。
美味しい。
ふわふわの甘めのパンにソーセージの塩気。そこにケチャップの酸味とマスタードの辛味、それぞれの深いコクが相まって、旨味が口の中で炸裂する感じ。
「んー、でもなぁ」
美味しい。
やっぱり生ソーセージの旨味がすごい。
でも、他の素材がそれに負けてるというか、頑張って主張しようとして、ケンカしてるっていうか。合格点ギリギリって感じかな?
「ほう、美味しそうなものを食べてるんだな」
「いーなー」
半分くらい食べたところで、フィブリアさんとサナが馬車に戻ってきた。
ちょうどいい、試食してもらおう。
僕はホットドッグを作って、二つに切り分ける。
「新しい試作品なんですけど、食べてみてください」
「ん? お菓子で勝負するんじゃないのか?」
「はい。お菓子でお店を出しても、そこまでお客さんがこないと思います」
それだと、多くの人を笑顔にできない。
優勝とか、そういうのには興味があまりないんだけど、でも、美味しいものを色んな人に提供したいもの。
フィブリアさんは「そんなものなのか」といいつつ、一口。
「うむ。美味しいな」
「でもーなんかー」
「まとまりがない感じはする、かな。それぞれはとっても美味しいと思うんだが」
「そうなんですよね」
うーん、ホットドッグ。すごく奥が深い。
いや、奥が浅い料理なんてほとんどないんだけどね。
とにかく生ソーセージの威力が半端じゃないんだ。薄めの皮だから、ぱりっとぱきっとしてて、肉汁があふれ出てくる。
それに負けないように、と思ったんだけど、ちょっと方向性てきに間違ってたかも。
「よし、色々と試してみるしかないですね」
「お、私たちも手伝うぞ」
「おーっ」
二人が手をあげてくれて、僕は微笑んだ。
それなら、遠慮なく。
ホットドッグ。
これで勝負を挑むためには、一種の極致にたどりつかないといけない。
お店はたくさんある。
そして、お客さんはいくつかの店舗を渡り歩くはずだ。そうなると、手軽に食べられて、一つでお腹がいっぱいになりそうなものは避けると思うんだ。僕だったらそうだし。
後、匂いや見た目の彩りも大事にしないと。
「よし、じゃあまずはパンのサイズと分量から……」
徹底的に研究と試作の繰り返しだ。
そんなことをしていたら、一週間はあっという間に過ぎた。
そう。フェスティバルの本番だ!
いよいよ本番です。
次回をお楽しみに!
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