料理フェスティバル開幕!《出会い編》
「あ、あの、これって……」
僕は思わず店長さんに訊いてみた。
仕入れ不可能って、どういうこと?
「ああ。あんたは初参加かい。市場にきたのはいいことだけど、ちょっと遅かったね。さっきもう納品先は決まったんだ。金を倍出してくれるんなら、考えるけどね?」
ずばっと言われて、僕はたじろいだ。
お金を倍だして仕入れたら、料金があがっちゃう。それだけでなく、先に仕入れ先を決めた人たちのを横取りしたみたいになっちゃう。
それはちょっと、な……。
「いえ、ありがとうございました」
やられた。
僕は下唇を噛んだ。たぶん、スタッフだと思う。開会式に出席していたのは、みんな料理人ばかり。でも、調理を補助するだろうスタッフはほとんどいなかった。
ということは、もう隠れて交渉をしていたんだ。
まずいなぁ。
格別、ルール違反なんかじゃないんだと思う。実際の最終的な交渉は、料理人本人がやっているんだろうから。これは僕の事前調査が甘かったせいだ。
グランさんも、さすがにこういった細かい攻防までは分からない。
……もしかしたらアドバイスしてくれていたのかもしれないけど。
ともあれ、今はこの状況の打破が大事なんだ。
なんとかして一定以上の品質の果物屋さんをおさえたいけど……。僕はまた市場を練り歩いて探す。果物屋さんはすぐに見つかるけど、いいなって思った店はもう誰かによって確保されていたし、値段交渉まで始まっている次第だ。
あそこには混ざりたくないしな……。
「それにしても、なんでこんな果物屋さんばかり……」
グランハルトの近くに、有名な果樹園ってあったっけ。確かに規模の大きいプラントはあったと思うけど。それにしても規模が大きい。
「お、タクトじゃないか」
ざわざわとする中、声は後ろからかけられた。振り返ると、マルタさんがいた。
「マルタさん!」
「よぉ」
「お久しぶりです。あれ、どうしてここに?」
「おー。俺の本店は人気店っていったろ? だからここのフェスティバルに出場するんだよ。っていっても、俺は調理補助のスタッフだけどな。あっはははは」
マルタさんはちょっと恥ずかしそうに笑った。
「けど、タクトは自力で勝ち取ったんだな。あれだけ売れてりゃ当然だけど」
「いえいえ、そんな」
「謙遜すんな。それよりも、どうかしたのか? えらく考えてる様子だったけど」
「ああ、それがですね……」
僕はマルタさんに事情を打ち明けた。果物屋さんの仕入れができないことを。
それと、疑問も。
すると、マルタさんは何度も頷いてくれた。
「あ、そっか。タクトは町にきたばかりだから、余計に知らないんだっけ。まったく、グランのおっさんももう少し気を配ってくれりゃあいいのに」
「何かあるんですか?」
「ここ最近の優勝店は、全部スイーツ系なんだよ。で。そうなると、当然スイーツ系の店が増えるだろ? だから、果物とか、クリームとかの乳製品、小麦粉なんかの取り扱いがいきなり増えるってわけ」
あ、なるほど。
だから仕入れの品質にすごくバラつきがあるんだ。品質が悪い店は目利きがない、つまり期間限定のにわかってこと。これは経験者じゃないと分からない部分だなぁ。
お店って、長年の経験や積み重ねでよい品質を生む側面があるもんね。
僕はお菓子――スイーツ系で勝負を挑むことになるから、争奪戦に巻き込まれたんだ。
うーん。
ということは、情報不足でスタートダッシュでおくれを取った僕は不利なんだ。
このままだと値段は高い上に、品質が悪いものを買うことになっちゃう。
ちょっとそれは……。
「よくわかりました。ありがとうございます」
「おう。大変そうだけど頑張れ」
「マルタさんは肉で勝負するんですか?」
「ああ、そうだな。ウチは肉でしか勝負できないから。これでも上位には食い込むんだぜ」
さすがマルタさんだなぁ。
そんな店でスタッフをしているんだから。考えたら店を一つ任されてるんだから、当然か。うん、でもすごいことには変わりない。
「おっと、そろそろいかないと。それじゃあな。また」
「はい。色々とありがとうございました」
立ち去るマルタさんにお礼をして、僕はまた市場を物色する。
果物屋さん――なんとかして探さないといけないんだろうけど、他の材料も考えておかないといけない。もち米とかもね。
けど……。
本当にそれでいいのかな。
お菓子、スイーツ系は、店も多い。言い換えれば、それだけお客さんの数も割れるってことなんじゃないかな。と考えると、完全に新規で出す僕は、ちょっと厳しいんじゃ?
もちろん味で勝負したら、負けない自負はあるけど。
これだけ大きい大会なら、必ずそれ以外の要素が大きく関わってくると思う。そもそも品質で一歩も二歩も劣りそうな状況で、あまりにも不確定要素が大きいと思う。
それに。
僕のレシピはお菓子だけじゃない。
「新しいレシピ、考えてみようかな」
でもそのためには、すぐにレシピを考えないとな……。
うん。なんとかなるよね。
「とりあえず、お昼ご飯の材料でも買おうかな。お腹空いたし」
ホテルでケータリングがでるみたいだけど、フィブリアさんもサナもあまり食べる様子なかったから。
まだ作った豆腐があるし、それを使ったご飯でも……と。
「お、おーいっ! タクトお兄さん――――っ!」
野菜を物色しながら歩いていると、遠くから声をかけられた。
あれ、すっごく聞き覚えのある声。
声のした方を見ると、ベルがいた。
って、ええ? なんでベルが!?
僕は驚きつつも、人ごみの中を抜けながらベルに向かう。
ベルは腰巻型のエプロンをつけて、えっへんと両手を腰にあてて仁王立ちしていた。
なんだろう、貫禄がなきにしもあらず。
「どうしたの? なんでこんなところに」
東の町からは馬車でも三日はかかる距離だ。
ベル一人でやってこれるような場所じゃないよね。
「うん? もちろん商売のためだよ?」
「商売?」
「そそ。だって一大フェスティバルだろ? 商売の香りがぷんぷんしやがるぜぇええっ! ってなるじゃん?」
「う、うん?」
僕は商売人じゃないからちょっと分からないけど。
「だからさ、家族全員でやってきたってワケ。それに、東の町から出場する店の人たちの手助けにもなるしね」
「あ、そっか。仕入れ先は自由になってたもんね」
「そういうこと」
ベルはえっへんと頷いた。
となると、お肉はどうやって手配してるんだろう、って思ったけど、なんとかしてるんだろうな。ベルがすごく慣れてる様子だから、きっと何年も経験してるんだろうし。
「ねぇねぇ、タクトお兄さんはやっぱお菓子系で勝負するの?」
「うーん。最初はそのつもりだったんだけどね」
顎に手をあてながら返事をすると、ベルはにやにやと笑った。
「じゃあさ、ちょっと面白いものがあるんだけど、試食してみない?」
「面白い、もの?」
「そそ」
ベルは僕の返事を待たずに袖を引っ張った。
そのままついていくと、市場の奥に、ベルの店は構えていた。わー、規模も大きくなってる。手広くやるのかな?
ちょっと意外に思ってると、おばさんがすぐに僕に気付いた。
「あ、タクトさん!」
「どうもこんにちは」
「あらまぁあらまぁ。ようこそいらっしゃって。どうしたんだい? またウチのアホ息子が強引につれてきたのかい?」
「強引かどうかはアレですけど、手で引っ張られました。面白いものがあるって」
「お兄さんって割と正直だよね」
「え、だって誤魔化してもヘンでしょ?」
なんでジト目で見られてるんだろう?
うん、いいや。
とりあえず話を進めていこう。面白いものって気になってるんだ。
「まったく。ウチのアホ息子が迷惑をかけまして……」
「いえいえ」
「でも、タクトさんなら構わないかな。うん、面白いものって、これのことなんだよ」
おばさんは店の奥に入って、紙に包んだものを持ってきた。
手渡されて、僕は広げる。
なんか温かいなぁ。
「これって……ソーセージ?」
「そ。腸詰」
別に珍しいものじゃあない。
最近は色々なバリエーションがあって、一言では表せられないんだけど、割とポピュラーだったりする。加熱加工されてるから、保存性もあるし、食べやすいし。
ん? でもこれって……。
僕は観察して気付いた。
「これって、生肉ですか?」
「その通り。さすがだねぇ」
おばちゃんはにこやかに肯定した。
「へぇ、それならすごく珍しいですね」
「開発そのものは以前からあったんだけどね。でも、配合とかが難しくって。香辛料だって安いものじゃないし、それで時間もかかってたんだよ。でも、今回完成したってワケ」
「そうなんですか!」
「早速、食べてみるかい?」
「はい!」
じゃあ、とおばちゃんは店の奥に入って、調理してくれた。
あれ、焼くだけじゃない。
色々と作業してる。僕はじっと観察しながら方法を覚える。お、ふわあっといい香りがしてきたぞ。うーん。お肉の香り! それだけじゃなくて、香辛料とハーブの匂いもかすかだけどする。
うわぁ、よだれが出てきたよぉ!
「さ、どうぞ」
「いただきます」
おばちゃんが戻ってきた頃にはもう待ちきれなくて、僕はすぐにフォークを刺した。
ぷちゅっと皮が弾ける音がして、刺したところからじゅわって肉汁が。
うわ、うわ、うわぁ。
絶対に美味しそう。
この焼き目もいいなぁ、もう全部食欲をそそられる!
「はぐっ」
ぱきゃっ。
じゅ、じゅわあああああ。
うわああああああああああっ。
皮が音を立てて弾けたと思ったら、いきなり脂が! しかもとんでもなく美味しい!
甘さよりも先に塩気がくるのは、肉がしっかり塩漬けされているからだ。しかもそこに香辛料とハーブが入ってるから、倍増されてる。
ぱきゃ、ぱきゃ。
噛んでも噛んでも歯切れがいい! お肉の旨味が溢れてくるよぉおおお!
僕はあっというまに一本食べちゃった。
「これ……とんでもなく美味しいっ!」
「だろ? タクトお兄さん。うちの自慢の一品なんだ!」
「うん、うん。びっくりするくらいジューシーだよ」
「肉があらびきっていうのもあるんだけどね。黄金の比率なのさ」
「すごいですよ! でもお高いんじゃ?」
「いや? 案外そうでもないよ? 数さえ量産できればセーブできるよ」
……。
これは、天啓、かも。
僕はすぐにレシピを構築させた。
「じゃあ、あの。僕にこのソーセージ、卸してくれませんか?」
僕はそう提案した。
ソーセージってたくさん種類があります。美味しいものは本当にたまらないですよね。
次回をお楽しみに!
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