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いももちと魔族の生活

 兄さんに送り出されて、約二時間。山道なので状態の悪い道を馬車は――揺れなかった。何やら古代遺跡メガリスに眠る異世界の技術がふんだんに使われているようで、振動がほとんど伝わってこないんだ。

 それと、移動屋台の馬車を引いているのは、あの伝説の神獣、スレイプニル。八本脚の馬で、空さえも飛べるすごい神獣だ。

 兄さんが召喚したら、フィブリアさんが盛大に慌てて、隠蔽魔法で見た目は普通の馬に仕立ててた。神獣のままの方が綺麗だとは思うんだけど、色々と弊害があるらしい。


 そんなものなのかなぁ。


 とは思いつつも、ようやく僕は説明書を読み終えた。

 兄さんが用意してくれた馬車には、色々とすごい機能が詰め込まれてる! 一番驚いたのは、声に魔力をこめて「チェンジ」と言えば、内装ががらっと変わること!

 厨房だった車内が、生活空間に早変わり。

 ふかふかのベッドに、お風呂まで完備されてる。

 拡張性もあって、ロフトみたいになってる天井部にも布団があった。フィブリアさんは天窓があるのが気に入ったらしくて、そこで寝るそうだ。ちゃんとベッドももう一つあるんだけどね。

 でも、フィブリアさんがいいっていうならそれで構わない。


「それで、これから東の町へ出るのか」

「はい。国境を越えたら、まずそこによるといいと思います。比較的大きい町ですし、市場もありますから、食材も仕入れられますし」


 これは兄さんのアドバイスでもある。

 とりあえず王国からはすぐに脱出して欲しいそうなので、ここから一番国境に近い東へ向かうことにしたんだ。

 僕にとっては、一番最初の外国。


 ああ、どんな世界が待ってるんだろう!


 もうワクワクが止まらない。

 うずうずしていると、フィブリアさんが不意にくすっと笑った。


「どうしたんです?」

「いや、本当に変わったヤツだな、と思ってな。勇者が目を離せないわけだ」

「僕、そんなに浮世離れしてます?」

「今まで目にしたことがないレベルで浮世離れしてるな」


 キッパリ真顔で言い切られた。

 うーん。そうなのかな。僕としてはフツーのつもりなんだけど。世間って難しいんだな。

 

「さて、準備するか」

「準備?」

「こんな格好で人里に出たら、誤解を生むだろう」


 そういって、フィブリアさんは鎧を完全に外した。

 さらに、びきびきと音を立てて身体中にあった鱗や角が消えて、肌や髪の色が変化していく。って、ええ。そんなこともできるんだ!?

 って驚いたけど、そういえば魔族って上位になると変身魔法とか使えるんだっけ。フィブリアさんは大元帥っていってたから、使えて当たり前か。


「ふう。やはりこの姿は楽だな」


 しばらく見守っていると、フィブリアさんは変身を終えた。

 手でかきあげるだけで、さらさらとなびくセミロングに、きりっとした顔つき。灰色と翡翠のオッドアイが綺麗。すごくしなやかで流線形の体つき。

 ん? っていうか。


「今、楽っていいました?」

「ああ。いったぞ。これが真の姿だ」

「ええ? そうなんですか!? 人間そのものじゃないですか!」


 僕は驚きながらいうと、フィブリアさんは頷いた。


「というか、人間だ。魔界は瘴気がひどくて、この姿じゃ命がない。だから、その瘴気を取り込めるように変化するんだ。魔力を変化させてな。それが叶わない赤子とかは、生まれたらすぐ保護魔法をかけるんだ」


 へぇーっ!

 すごい、なんかちょっと今かしこくなった!

 知られざる魔族の真実を知ったって感じ。適応進化ってやつなだよね、すごいなぁ。


 思わずじっと見つめると、フィブリアさんがちょっと引いた。


 あれ、なんで?

 っていうか顔が赤くなってるけど。微妙に顔そらした? 嫌がっているというよりかは、不思議そうな感じ?


「お前はすぐ信じるんだな?」

「え、だって本当のことでしょ?」

「まぁ、そうなんだが……ちょっと信用するの早くないか? 何度でもいうが、俺は魔族だぞ。それも大元帥だ」

「何度でもいってますけど、その言葉。種族とか肩書とかって、関係あるんです? それにフィブリアさんだから信じるんですよ?」


 僕はきょとん、と首をかしげながら逆に訊き返す。

 だって、そんなのどこに関係があるんだろう。


「お前はまた……」

「それに、本当にキレイですね」

「…………っ!?」


 素直にいったら、フィブリアさんは耳まで真っ赤にさせた。あ、かわいい。


「お、おお、お前は本当にっ、もうっ!」

「なんです?」

「気にしないでいい! 本気で気にしないで良い!」

「わ、分かりました」


 圧に負けて僕は頷いた。これはあれかな、話題とか変えた方がいいのかな。


「そういえば、スレイプニルさんって、ご飯とかどうするんでしょうね」

「ん? スレイプニルは神獣だ。空気を吸うだけで生きていける。食事なんて必要ないぞ」

「え、そんなの不憫」


 思わず口にすると、フィブリアさんは盛大に眉を寄せた。

 あれ、僕変なこといった?


「どこがどう不憫なんだ……?」

「だって、美味しいものを知らないってことじゃないですか! 一大事ですよそんなの!」


 強く主張すると、フィブリアさんはますます不審そうな顔を浮かべた。

 なんでそんな表情するか分からないけど、でも、美味しいものを食べたことないってことでしょ? それってすごく不幸だと思うんだ。

 僕はずっと山から出られなくて寂しかったけど、美味しいご飯があったから、気にならなかったんだもん。

 よし、そうと決まれば早速作ってみよう。

 ついでに僕らのお昼にもなるものにしようかな。材料は家にあるのを持ってきたけど、あまりないんだよね。たっぷりあるのはじゃがいも。


「他にあるのは……タマネギとでんぷんか……あと砂糖と、醤油と、お酒と……あ、バター。これなら、あれが作れるね」


 持ってきたボックスの中身を漁って、僕は何度も頷いた。

 お昼ご飯、と言われると微妙かもしれないけど……味付け次第だよね。

 一応、チーズとベーコンもあるし。これを上手く活用すればいけるはず。頭の中でレシピを組み立てて、早速調理開始!

 早速僕は魔力をこめて「チェンジ」と唱え、内装をキッチンに変身させる。


「おいおい、本気で何か作るのか」

「仲良くなるにも必要ですしね。まずはじゃがいもを茹でます。皮をむきますね」


 魔法で水を呼び出して、鍋にくべる。

 コトコト煮込んで、じゃがいもに火が通ったら、一度水を捨ててからもう一度加熱。こうすることで水分をさらに飛ばせて、お芋の風味が強くなるんだよ。

 粉が吹くくらいになったらおっけー。

 ここにバターをちょっと入れてから丁寧にマッシュして、粗熱を取る。


「いい匂いだな」

「まだまだこれからですよ」


 粗熱が取れたら、デンプンをいれながら混ぜて、と。後はちぎって綺麗に形を作るだけ。平らに丸く、チーズみたいにね。

 できたら表面にバターを塗って、きつね色になるまでじっくりフライパンで焼く。焼き目がちょっと強いくらいが美味しくなるんだよね! 焦がしたらダメだけど。


「焼いてる間にソースも、と」


 こっちは簡単。

 水にお砂糖を入れて、醤油、お酒を入れて色が変わるまで火を入れて、ここに水でといたデンプンをいれてトロみをつければ出来上がり。砂糖の量を調整すれば甘めがいいか塩気がいいか選べるのもいいトコロ。


「焼けた!」


 うん、いい焼き目! お手軽お手軽。

 さて、お皿に移して、あとはソースをかけて、と。


「いももちの完成! さ、フィブリアさん、試食してみてください。ちょっと熱いですよ」

「いいのか? うむ。このソースはすごく甘い匂いだな。いただくか」


 フォークを刺して、フィブリアさんはアツアツを一口。

 ああ、大丈夫かな、そんなかぶりついて。ってやっぱりハフハフ言った。

 舌が火傷してなきゃいいけど。


「んっ! うまいな! これは!」


 そんな心配をよそに、フィブリアさんは目を見開いて喜んでくれた。よかった。

 僕も試食に一つ。

 バターを塗って焼き目を入れてるので、表面はサクッとしてるんだ。でも、中はすっごくもちもち! うーん! この甘辛ソースもいい! あまじょっぱい中に、お芋の風味とバターの仄かな香りが入ってくるんだ!


 うん。いいできだ。じゃあスレイプニルさんに持っていこう。


 馬車を止めてもらって、僕は外に出る。

 お皿にいっぱい盛ったいももちを、スレイプニルさんに掲げた。

 食べて、という意志が伝わったのか、スレイプニルさんは少しだけ戸惑いつつも、ばくっと口に入れた。

 もむもむ。もぐもぐ。

 あ、目がとろーんってなった。美味しいみたいだ!


「美味しそうに食うな」

「ほら、スレイプニルさんも美味しいの食べたいんですよ」

「そのようだな」


 フィブリアさんは微笑みながら、思いっきりがっつくスレイプニルさんを見守った。

 うんうん。良かった。

 それじゃあ、僕とフィブリアさんのお昼ご飯も作りますか。まだいももちのタネはたくさんあるからネ。


 今度はちょっと変わり種。


 細かく刻んだベーコンとタマネギを炒めて、塩コショウで味を調えて、と。

 後はこれとチーズを、整形する前のいももちの真ん中において、くるんで、平らにして、と。後は同じように焼くだけ。こっちはちょっとバター多めにね。


「俺たちのお昼ご飯も、いももちなのか?」

「はい。ちょっとアレンジいれてますけどね。どうぞ」


 出来上がったいももちを渡すと、フィブリアさんは早速かぶりついた。

 かみきって、すぐに気が付いた。


「ん! チーズとベーコンか! うまいな! ん、この食感はタマネギもあるのか」

「はい。おかずっぽくしてみました」


 とろーっと断面からチーズが伸びて、ベーコンの香ばしさとタマネギの甘い匂いがふわっと広がってくる。アツアツだからもうたまらないよね!

 僕たちはあっという間に食べ終えた。

 食後は口の中がスッキリするハーブティー。美味しいんだ、これ。


「うむ。お腹にしっかり溜まるな」

「余ったものは冷凍保存できるので、夜食とかにも使っていきましょう」

「料理のこととなるとしっかりものだな」

「毎日作ってましたからね」

「そうか。うん、本当に料理が上手だな。朝ごはんの時も思ったが、これなら立派なお店ができるんじゃないか?」

「本当ですか? 嬉しいなぁ!」


 フィブリアさんに言われると余計に嬉しいや!

 心が温かくなりながら外を見ると、スレイプニルさんが動き出した。っていうか、あれ、なんだろう、凄く早いような?


「スレイプニルがすごくやる気を出しているな。これならすぐにでも国境へ到着するんじゃないか?」

「うわー、楽しみ!」


 兄さんからの話と、地図でしか知らない東の町。

 いったい、何が待ってるんだろう! 美味しい食材と出会えるといいな!



デンプンはカタクリ粉です。

いももちはジャガイモ一つにつき大さじ一杯の分量でぴったりです。簡単で本当に美味しいので、是非ぜひ試してみてください。


中に包むのが面倒なら焼いた後、チーズ乗せるのも美味ですよ。


次回の更新は明日予定です。

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新連載はじめました! 追放ものです! ぜひ読んでお楽しみください!
料亭をクビになったけど、料理人スキルが最強すぎたので傭兵やることになりました。
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