手作り豆腐とフェスティバル
「ん……朝か」
穏やかな朝日に照らされて、フィブリアさんが目を覚ます。
もうすっかり体調も戻ったんだけど、昨日の営業日は大変だったからね。すごく疲れてばたんきゅーって寝ちゃった。
僕もぐっすり寝てしまってて、起きたのはついさっき。ちょっと焦っちゃった。
まだまだ朝も早いんだけどね。
「ん? もうキッチンに立つのか? 朝ごはんには早いと思うが」
「ええ。でもその朝ごはんのために、必要な作業がありまして」
僕はエプロンをつけながら返事をした。
「作業?」
「はい」
「お前は本当に料理のこととなると、とことんこだわるなぁ」
「えへへ、それ、兄さんにもいわれましたね」
「もう少し世間の方にもそうなってほしいんだが」
「いやいやー」
あれ? ちゃんとやってるつもりなんだけどなぁ。まだまだってことかな?
でもフィブリアさんがいるし、大丈夫大丈夫。
「ちなみに。古代魔法はもちろん使用禁止だからな」
「……あ、そのことなんですけど」
「ん?」
「その、グランさんたちの目の前で、使っちゃいました」
ぴき。
と、フィブリアさんが硬直した。う、うん。素直に報告しただけ、なんだけどなぁ。
フィブリアさんはぷるぷると震えながら、何度も頭を抱える。あら?
「……緊急事態だったからな? 緊急事態だったからな? 俺のせいでもあるから、その、強くはいえないんだが……やり方はあったよな?」
「そこまで考えてる余裕はなくて。あ、でも、心の中で謝りましたよ!」
「いやそういう問題じゃなくてだな」
フィブリアさんは即座に手振りを交えてつっこんできた。
「はぁ、今回だけは不問にする。あの御仁なら、気付いても分かっていないフリをしてくれるだろうからな」
「そうなんです?」
「聡明な人だからな。それで? キッチンでなんの作業をするんだ?」
「ああ、お豆腐を作ろうと思いまして」
「おとうふ?」
フィブリアさんは聞き覚えがないみたい。
きょとん、と首を傾げた。人間の世界では、大豆が広く流通している地域は結構あったりするんだけどね。
僕は棚から鍋を取り出す。
中には水と、大豆が入っていた。
昨日の晩からずっと漬けていたんだ。この工程が一番時間を食うので、仕込んでおいたんだよね。ふふ。綺麗に浸かってるなァ。
「随分と大きくなってるんだな、大豆」
「はい。じっくり時間をかけて、水を吸っているので。この作業を浸漬っていうんですよ」
「ほー」
豆の状態を確かめて、うん。ばっちり。白くてちょっと可愛いかな。
「これをザルにあけて、しっかりと水を切ります」
この水を切る時の、ちゃっちゃって音、僕はわりと好き。
水気が取れたら、水と一緒に粉砕していく。ここは魔法で。一気にじゅいーん。
あっという間に大豆は細かく砕かれて水に溶け切って、滑らかになる。泡立ってもいるんだけどね。
これを鍋にいれて、加熱。
こげつきやすいから、丁寧に混ぜながら一度沸騰させる。
沸騰したら火を止めて、ちょっと冷ましてから今度は弱火でことこと。
じゃあその間に、と。
「ん? それはなんだ?」
僕が棚から取り出したボウルと布を見て、フィブリアさんは質問してくる。
「これですか? こし布っていいます。ものをこしたりする時に使うんですよ?」
「こす」
「見てもらう方が早いですね。こう、ボウルにかけるようにセットしておきます」
魔法で《加速》させて煮込み時間を短縮させて、と。
煮込み終わったら、こし布にかけていく。
一気にどばーって入れないようにね。
「入れ終わったら、この布を絞ります」
「絞るのか」
「熱いから最初は何か道具使ってくださいね」
僕は耐性魔法をかけて、両手でじゅっと絞っていく。湯気がいい香り。
ぼたぼたぼたってボウルに落ちるのは白い液体。これは豆乳。ぎゅーっと何度かに分けて絞り落とす。
こし布の中に残った絞りかすは、おから。
もちろん捨てない。すごく栄養があるし、旨味もあるし、美味しいんだよ。後で味付けしてサラダにしよう。
でも今は豆乳の方に用事があるんだ。
「この豆乳を鍋に入れて、ゆっくりゆっくり温めます」
この時の温度が大事。失敗は許されないよ。
じっくりと温まったら、にがりを入れる。
この時、にがりはぬるま湯で溶いておく。これをゆっくり流しいれて、終わったら数回だけ静かに混ぜるだけ。この時混ぜすぎたら、固くなっちゃうからね。
よし。後は蓋をして、じっくり固まるのを待つ。
今回作るのは、絹ごし豆腐なのでこれで完成。濃厚な豆乳を使ってるから、美味しいぞ!
もし木綿道具を作るなら、豆腐をいれる箱を用意して、そこにいれて圧縮するって行程があるんだけどね。
「うん、できました」
「手間をかけたんだな」
「お豆腐ですからね。そのぶん、とっても美味しいですよ」
これは今日のスープに使うよ。
使うのはおなじみの昆布だしと、キノコの戻し汁。後は塩だけで味付けをしてシンプルに。コトコトっとキノコを入れて煮込んだら、お豆腐を入れてひと煮立ち。これで完成。
次におからを使おう。
細かくきったニンジンとキノコを使うよ。
まずは油をしいて、ニンジンとキノコを炒めて、さっと火が通ったら、おからと、出汁、醤油、みりん、お砂糖、塩を入れて味を調えて煮込むだけ。
焦げ付かないように注意してね。
これでしっとり、おからの煮物のできあがり。
「後は、炊き込みご飯だ」
これはもち米を使って、出汁で味付けをしたものだよ。
あつあつのうちに、手に水をつけて、塩をまぶして、さっとにぎる。
あまり固くならないように、と。
よし、これで朝ごはんのできあがり。
さぁ、食べよう。
「む……おいしそうなにおい」
サナも起きてきた。
すぐにフィブリアさんが目をこすりながら寝ぼけるサナを連れて、朝の支度を済ませにいく。ちゃんと顔を洗って、歯磨きしてくるんだよー。
サナが戻ってくるまでに、テーブルに用意して、と。
うん、いい匂い。
今日はさっぱりな朝ごはんだね。
「たべるー」
サナが戻ってきたタイミングでスプーンを用意して、と。
おにぎりも程よく熱が取れて、手に持っても大丈夫だね。でもまだほくほく。
「じゃ、いただきます」
まずは、おからの煮物から。
しっとり炊きあげられたおからは、仄かに色がついていて綺麗。
「あむっ」
んっ。しっとり! ほろほろ! じゅわじゅわって味が出てくるなぁ。ちょっと甘めに作ったから、口当たりが本当に優しい。火の通ったニンジンも柔らかいけど、キノコの歯ごたえもあって美味しいなぁ。
これはずっと噛んでいたいけど。
でも、この味が残っている間に、もち米のおにぎりを一口っと。
もち、もちもちっ。
水分がたっぷりあって、もちもち食感。味付けがされてるから、これだけでも美味しいんだけど、おからの甘さが手伝ってさらに美味しくなる。
これがたまらないんだよねぇ。
「うまー」
サナも口いっぱいに食べる。
おからは大丈夫かなって思ったけど、全然いいみたいだね。好き嫌いないのはいいこと。
「うむ。これは味わい深いな」
フィブリアさんもお気に召してくれたみたいだ。じっくり味わってくれてる。
うんうん。ほっこりする。
じゃあ、次は豆腐のスープ! これが僕にとってはメインなんだよね。
お椀をもって、ずずっとまずはスープ。
んんんっ。
シンプルで美味しいなぁ。出汁の味がふわぁっと広がって、塩で際立ってる。あっさりしてて口の中からすぐに消えちゃうから、また欲しくなる。
「スープがいいなぁ」
「うまっ、うまーっ。ほかほか」
二人も美味しそうに食べてる。
僕は微笑みながら見て、ゆっくり豆腐を崩す。柔らかい豆腐は溶けるように崩れた。
それをスプーンですくって、と。
ちゅるん。
口の中に豆腐が入ってくる。
滑らかに舌に馴染む食感。あっさりと溶けちゃう! とろとろだぁ。でも、そこから豆腐の濃厚な旨味が広がってくる。
うん、甘い!
甘いけど、コクがあって、じわーって口に溶けていく。
うんうん、これこれ。これが豆腐だよね!
「美味しい……」
ほう、と息が漏れちゃう。豆腐は大成功だなぁ。
「とろとろー、やわやわー」
「なるほど、これが豆腐か。柔らかくて、温かくてたまらないな」
うんうん。
豆腐は二人ともすっごい好みみたい。
僕らはゆっくりと朝ごはんを食べた。今日は営業がないから、時間をたっぷり使える。朝って大事だね。
後片付けを任せて、僕らはグランさんの家へ向かった。
呼び出しがあったんだ。
いよいよ、料理フェスティバルがあるからね。
グランさんと、出場するお店の人たちと挨拶して、壮行会が行われた。
東の町から出るのは、全部で十一店舗。ちょっと中途半端なのは、僕が特別枠だから。
後は、グランさんの馬車が先導で、町へ送ってくれるんだ。ちょっとしたキャラバンって感じだね。
ちょっと恥ずかしいけど。でも楽しみだなぁ。
新らしいお話スタートです。
豆腐って美味しいです。手間がかかりますけどね……。
次回をお楽しみに。
応援、お願いします!





