閑話、勇者だって休みたい
――夜。
城の窓に、ふくろうが飛んでくる。音もなく窓を開けてやると、黒いふくろうは嘴に手紙を加えていた。タクトからだ。
このふくろうは、俺とタクトの間だけでやり取りしてる、専用の使い魔だ。
「ありがとうな」
ふくろうに餌をやって、俺は手紙を開ける。
これで何通目だったかな。割とうまくやっているようなんだ。無事に国境を越えて、東の町へ入れたみたいだし。
まぁ、その前にトラブルに首つっこんで解決したり、野盗をとっ捕まえたりしたみたいだけど、フィブリアがうまくフォローしているみたいだ。
よしよし、俺の人選に狂いはない。
アイツはバカ真面目だからな。
「えっと……今回は何があったのかな?」
俺は報告書の仕事をいったん片付けて、手紙を読む。
すると、ぎぃ、と扉が開かれた。
「お、勇者。手紙か?」
入ってきたのは、ネグリジェ姿の綺麗な女性――魔王だ。
どうして魔族の王が王国にいるのか。理由は単純だ。
俺は別に魔王を殺したわけじゃあない。
確かにタイマン勝負を挑まれて、勝ったことには違いないけど、魔族がだって人間だってことが分かってたから、手を組めないかなって思ったんだ。
実際、魔族があんな姿になるのは、瘴気に対抗するためだけだし。
ここにいると、そんなことはないから、フツーに人間の姿だ。今頃、フィブリアだって人間の姿に戻っていることだろう。
だから、これを利用して、俺は魔王を引き取った。
魔王はまだ魔王だからな。影響力はあるんだ。……まぁ、余計な一派が反乱を企ててるみたいだったから、潰しにいったけど。
「ああ、タクトからだ」
「弟くんか」
魔王はベッドに腰かけながら、さらさらした髪を耳にかける。
「元気にしてるみたいだな」
「ああ。相変わらず天然発揮してるみたいだけどな」
「あははは。お前そっくりだな。フィブリアもさぞや苦労してるだろう」
「部下を笑うとか、さすが魔王だな」
「当たり前だ。心配なんて何一つしてないからな」
自信満々に魔王は威張り散らす。
確かにフィブリアは信頼に値する人材だからな。どこまでも真面目だから、しっかりと任務をやりきるタイプだ。ちょっと潰しがきかない頑固者だけどな。
「それにしても、弟を逃がすとは大胆なことをしたもんだな?」
「ん? そりゃそうだろ」
俺は明かりの魔法を追加しながら、イスにもたれかかった。
「タクトは今まで、俺のせいでずっと閉じ込められてきたんだ。せっかく戦争が終わって平和になったってぇのに、それでも、アホの連中が閉じ込めようとしやがったからな」
「王国の汚点になるから、だっけか?」
「一部では、命まで奪おうとか話がでたみたいだ」
「あっはははは! アホか! 弟くんを仕留めるなんて、この世界の誰にもできないって!」
腹を抱えながら笑いまくる魔王。いや事実だけどな?
実際、タクトは俺でも勝てない。たぶん、腕一本で倒される。性格的に戦闘をしないから表にでないだけで、本気で暴れたら手がつけられないからな。
「でもよくおさえたね?」
「そりゃ、色々と手を回したからなぁ」
俺はしみじみ言う。
あれは疲れた。けっこー疲れた。
正直、弟を解放する手立ては完了してた。でも、弟を一人で外にだすわけにもいかない。フィブリアが現れてくれたのは天恵だと思ったな、マジで。
「あ。そうだ、手紙にはなんて書いてあるのさ」
ベッドから起き上がって、魔王は肩越しに手紙を除いてくる。
「あれまぁ、丸っこい字を書くんだね。でも勇者よりはマシ」
「悪筆で悪かったな」
言い返しつつ、俺は手紙を読んでいく。
えっと?
「…………風邪ひいたドラゴンを、助けた?」
「あっはははははは――――っ!」
とんでも内容を口にしたら、また魔王が笑い転べる。
「すっごいねぇ、弟クンは。しかも始祖のドラゴンじゃないの!」
「本当に頭が痛くなってきたな……」
「弟クン、なんで勇者にならなかったのさ」
「王国が長男信者だったのと、性格だろ」
「ふーん、お人好しなのは一緒なのにね?」
「は?」
怪訝になって返すと、魔王はそっと俺に抱きついてきた。
「フツー、魔王と和平交渉して、協定結ぼうとはしないものだぞ?」
「あーへいへい、そうですか」
「拗ねちゃって、可愛い。他には、えっと……?」
「しかも仲間にしたらしいな」
「笑える。素直に笑える。世界最強のパーティじゃないの?」
フィブリアだって魔族大元帥だからな。
正直いって、手をだせるヤツはいないと思う。戦争の時だったら、さぞや武勇を誇ったことだろう。でも、今は平和だしな。
「そんな連中が、レストランを開いて誰かを笑顔にする。最高じゃねぇか」
「勇者の理想だね」
「だなぁ。お、料理フェスティバルにも出場するみたいだな」
「へー、そうなんだ?」
魔王はまた手紙を覗きこんで、何回かうなずいた。
「じゃあさ、ちょっとだけ様子見してこようよ」
「様子見?」
「そそ。どんな美味しいものを出すのかも興味あるしねー。ね、いこ?」
「おいおい……まぁ、いいか」
久しぶりにタクトの飯も食いたいしな。羽休めにいくとしますか。
今回は勇者と魔王のお話でした。
仲いいなこいつら。
次回から新しいお話がスタート!
お楽しみに!
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