お仕置きと市場
ぎゅっぎゅ。
「これで、よしっと」
野盗たちをひとまとめに括りつけて、僕は手をぱんぱんとはたいた。
使ったのは、魔法で生み出した糸。すごく強靭で、サナでも振りほどけないってお墨付きなんだよね。フィブリアさんは顔を引きつらせていたけど。
でも、これくらいしておかないと。
また逃げられたらイヤだし。
そのフィブリアさんは、木陰で休んでる。サナから魔力を供給してもらって、今は一休みしてる。今、動かすのはちょっと辛そうだし。
「おー。みごとだ、タクト」
「うん。我ながらよくできたと思う。えっへん」
背中を撫でてくれるサナに、僕は胸をはった。
あ、でも今回はサナにすごく助けられたなぁ。フィブリアさんにも助けてもらったけど、今回は勇気を一番もらったと思う。
「く、くそう……覚えてやがれ……」
「うん、覚えておくよ」
恨み節のように唸った野盗に向かって、僕はいい返す。
「君たちがまた悪いことしたら、怒りにくるから」
「……は?」
「今回は、僕、ものすごく怒ってるんだ」
この際だ。正直にいっちゃおう。
僕だって、我慢の限界くらいあるんだから。
「僕にとって、大事な大事なフィブリアさんをこんなひどい目にあわせて。僕はものすごく怒ってる。でも、気が済むまで殴ったら君たちと同じだから、それはしない」
だからお説教するんだけどね。
「それと、さっき、君たちがまた悪いことしたらっていったけど」
僕は魔力を使って、ゴーレムを呼び出す。「おいそれって古代魔法……」ってフィブリアさんが後ろでぶついてるけど気にしない。
だって、使用許可下りたんだもん。
遠慮なく使わせていただきます。
呼び出したゴーレムたちは、僕の膝くらいしかない大きさ。ぽこぽこしててカワイイ。
正直いって、殺傷能力とか、そういうのもない。
でも、とびっきりの能力は与えた。
「もう二度と悪いことはしませんって誓うくらいにはお説教するよ」
「あぁ? んだそりゃ。テメェ、俺らをなめてんのか! 確かに俺らはテメェの足元にも及ばねぇがな、その気になったら……」
「さぁ、いって、おちびちゃんたち。罰の時間だよ!」
僕は野盗の言葉を無視してゴーレムに指示を出す。
ぽこぽこと可愛らしい音を立てながらゴーレムは歩いて、野盗たちに近寄る。
「な、なんだよ……やんのかコラっ……って、あひっ!?」
野盗の一人が意気込んでいたのに、変な声を出した。
それもそのはず。
だって、ゴーレムはいきなり手を巨大化させて、わさわささせたのだから。それも、野盗の全身、というか、足裏とか、横腹とか、首筋とか。
「あひ、ひ、ひいいいいっ!?」
「ぎゃああああああっ! そこはやめ、や、やめてぇえええええっ」
「きゃひっ、きゃいんきゃいんきゃいんっ!」
「うっぱあああああああっ! 首は、首はああああああっ!」
当然のようにわきあがる阿鼻叫喚。
そりゃ、全身こちょこちょされたらそうなるよね。
サナはその様子を見て、けたけた笑っていた。
「タクト、お前な……」
そして苦言を呈してくるのはフィブリアさん、うん、フィブリアさんだ。
「大丈夫です。ほんのり温かくてフィットするけどサラサラしてる触り心地に拘りましたから」
「いや、そうじゃなくてだな。お前は本当に、能力の無駄遣いというか……」
「うーん、そうですか? お仕置きにはぴったりじゃないです?」
「むしろこの上ないくらいキツいお仕置きだけどな?」
はぁ、とため息。
「タクト」
「はい?」
「その……済まなかった。勝手に、何も言わずにでていってしまって」
「あ、それは怒ります」
僕は素直に伝えた。
フィブリアさんは申し訳なさそうに頭をうなだれさせた。うん、しっかり反省してるみたい。もっとも、僕は強いお説教をするつもりはないけどね。
だって、フィブリアさんは、僕を守ろうとしたんだ。
秘密を握られて、その秘密をバラされないように、たった一人で。なんて使命感なんだろうって、僕は本気で尊敬する。でも、でもね。
「僕は確かに頼りない、世間知らずのおばかですけど……でも」
「でも?」
「フィブリアさんが困ったことは、僕になら、なんとか解決できるかもしれないじゃないですか」
正論を真っすぐぶつけると、フィブリアさんは呻いた。
あ、でも、ちょっと僕もヤバいかも。
「本当に、もう。どれだけ心配したと思ってるんですかっ……!」
涙が、こぼれる。
すると、フィブリアさんがそっと僕を抱きしめてくれた。
「ああ。悪かった。本当に済まなかった。そこまで心配かけさせてたなんて」
「フィブリアさんは、自分の存在が大きいってことを自覚してください」
「うん、そうだな。そうする。本当にごめんな」
「もういきなりどこかへ行かないでくださいね」
「うむ。約束しよう」
ぎゅっと、フィブリアさんはお母さんみたいに力強かった。
その胸で僕は少し泣いてから、落ち着くのを待って帰った。
ちなみにそんなやり取りをしてる間に、野盗たちは泣き叫びながらもう二度としませんって誓って気絶したのは追記。
▲▽▲▽
うーん。久しぶりの市場って気がする。
東の町へ戻った翌日、僕は市場へ繰り出していた。フィブリアさんはまだ疲れが残っているので、馬車でお休み。サナが護衛として残ってくれた。
なので、今日は僕一人ってこと。
相変わらずここは人が多いなぁ。賑やか賑やか。
「さて、お目当てのものは……と」
「あ、おーい! お兄さん!」
市場を物色していると、声がかけられた。
振り返ると、見覚えのある少年が駆け寄ってきている。ああ、確か。
「半分地面に沈んだ男の子の片割れ」
「そんな覚え方してたのかっ!?」
「あはは、冗談だよ冗談。お久しぶりだね。元気にしてるようでよかった」
少年は袋いっぱいに食材を抱えてる。たぶん、おつかいを頼まれたんだろうな。
「うん。あ、すごくお店繁盛してるね、おめでとう!」
「ありがとう。おかげさまでね」
「俺は何もしてないけどねー。あ、でも何個か買わせてもらったよ。美味しかったー」
「そっかそっか、嬉しいな」
「次の営業日、わかったら教えてくれな。あ、っていうか今日はどうしたの? 買い出し?」
まだ僕が何も手にしていないのを見て、少年はきいてきた。
「うん。ちょっとお肉がたくさん欲しくて」
「それだったらウチにきなよ!」
あ、そういえばお肉屋さんだっけ。すごく美味しいお肉をもらったんだった。
うん。いいアイデアだ!
「じゃあ寄せてもらっていいかな? 結構買い込むと思うけど」
「ありがたい話だよー。近くだから、こっちこっち」
「うん。あ、でも野菜とか買いこまないと」
「それなら通り道に行きつけあるよ。こっち」
さすが地元。詳しいなぁ。
僕は少年の後をついていく。
「あ、そういえば名前いってなかったっけ。俺、ベル。よろしくな」
「うん、よろしくね、ベル。僕はタクトだよ」
東の町は隣国なので、名前を名乗っても構わない。それに、そもそも僕の名前を知っている人なんていないしね。王国なら関係者が手を伸ばしてくるかもしれないのでダメだったけどね。
ベルの案内でついた店は、とっても新鮮な野菜をたくさん扱っていた。
うわぁ、すごい。
野菜を仕入れる時はここからしたいなぁ。うん、いい感じ。
タマネギとパプリカ、トウモロコシ、シイタケ、ネギを購入して、僕はベルの家に向かった。そのお店から、歩いて五分もしない。
「わー、立派なお店だね」
「市場だけど、ウチは家を借りて商売やってるからね」
「なるほど」
お肉の管理は大変だもんね。
「いらっしゃい! ってあら、あなたは! まぁまぁ、ベル、どうしたんだい」
「道端でばったり出くわしてさ。それで、お肉が買いたくて市場に来てたみたいだから、家まで案内したんだよ」
「おやまぁ、そういうことだったのかい。それならお安くしときますよ! ウチのお肉は美味しいからねぇ!」
「はい。それはもう。いただいたお肉すっごく美味しかったです」
あれだけ旨味が凝縮されてるのに柔らかかったんだよね。あれは本当に素晴らしかった。
あの品質のお肉が手に入るなら、絶対に成功すると思う。
「どんどん買っておくれよ! 何にするんだい?」
「ありがとうございます。あの、それなら専門の人にお任せするのがいいと思うんですけど、実は……」
「それだったら、いいものがあるよ。ちょっと待っておくれ」
おばちゃんは、にやっと笑顔を浮かべていってくれた。
「期待しててくれな、タクトお兄さん」
「もちろん。腕によりをかけるお肉が出てくるはずだね」
僕は期待に胸をわくわくさせて、おばちゃんが戻ってくるのを待った。
次回はメシテロ回です。
お楽しみに!
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