お説教と本音
空を走る。
古代魔法を発動させて、僕は音さえ置いてけぼりにして走る。傍にはサナもいた。
「ひ、ひいいっ」
魔法使いはさっきから悲鳴をあげてばかりだ。ごめんね。もうちょっと頑張って。
距離的には、もうそろそろのはずなんだけど……。
ううん、僕の感知能力じゃ、完全に拾い切れない。確かに反応はあるのに。
「タクト、あっち」
すると、サナが指を向けてくれた。
「サナ! ありがとう!」
「いそごう」
「うん!」
ぎゅん、と方向を変えて僕は急降下を始める。
――いた! フィブリアさんだ!
すぐに助けないと! あ、でもその前に着地って、ああ、勢い強くなりすぎる。でも、フィブリアさんなら大丈夫だよね、たぶん!
「フィブリアさぁぁぁぁ――――んっ!」
僕は大声を出しながら警告をして、着地体勢に入る。
すぐに気付いたフィブリアさんは見上げて、目を白黒させて何か叫んだ。
僕はそこへ着地する。
――ずっどおおんっ!
盛大な音を立てて、地面がくぼみながらめくれあがる。生まれた衝撃波は、周囲に強風となって吹き荒れた。
逃げ出した野盗だろう連中はちょっとコケて地面を転がったけど、フィブリアさんはさすがだ。綺麗に勢いを殺して着地する。
「タクト!? どうしてここに!?」
「助けにきたにきまってるじゃないですか!」
「ばかっ、ダメだ! すぐに逃げるんだ!」
「ば……ばかとはなんですか! このばかっ!」
僕はついカッとなっていい返してしまった。でも、でも!
「いきなりいなくなられて、僕がどれだけ心配したと思ってるんですか!」
「タクト……けどこれには事情があってだな」
「事情なんて知りませんよ! とにかく、僕は助けにきたんです!」
説教も何もかも後だ。今はフィブリアさんを解放しないと。
ぐっと調べると、フィブリアさんはかなり魔力を消費させられていた。ちょっと心配だ。補給してあげないと、魔力枯渇を起こすかもしれない。
「なーにが助けにきた、だ、このクソガキが……」
分析していると、野盗たちが起き上がる。
みんな、ギラギラと睨んでくる。ちょっと怖いなぁ。けど! 悪いことしたのなら、お説教しなきゃいけないよね。
大人でも子供でも、やっちゃいけないことは、やっちゃいけないんだ。
「今すぐフィブリアさんを返してください。こんな悪いこと、なんで!」
「……はぁ? 何ほざいてるんだ。全部テメェが悪いんだろうがよォ」
「そうだそうだ!」
野盗に続いて出てきたのは、見覚えのある人たち。あ、そうだ。屋台の人だ。やっぱりこの人たちだったんだ……。
なんで、そんな。
「僕の、せい?」
「ああ。そうだよ。俺たちはテメェのせいで捕まった。コイツらは、テメェのせいで出店禁止になった。どっちも生きていく糧を失ったんだよ。テメェ、真っ当に生きてるつもりなら、働くってことがそのまま生き死にの直結問題だって分かるよな?」
「でも、それは……」
「テメェがしゃしゃりでてこなきゃ、俺たちはこんなとこにいなくて済んだんだ。ムショにもいなくて済んだし、路頭に迷うこともなかった」
……――っ。
僕の、せい。
僕が、しゃしゃりでたから。
僕は、誰かを、色んな人を笑顔にしたかった。そのために、困ったことがあったら、助けるようにしてた。でも、そのせいで、誰かを不幸にしていた?
「この偽善者が」
「助けるんだったらなァ、俺たちみたいなのも救ってみせろってんだ!」
「そうだそうだ! 生意気な!」
口々に飛んでくる罵倒。
僕は言い返せない。だって、だって。僕は、この人たちを――……
「そんなことない」
堕ちそうになった思考を、サナの声が止めてくれた。
顔を上げると、サナは真っすぐ野盗たちを見つめている。
「お前たちのいいぶんは、ぜんぶエゴだ」
たった一言で、サナは切り捨てた。
「悪いことは悪い。だから、つかまったんだろう。そこをむしして、タクトにせきにんをなすりつけようとするな」
「てめぇ!」
「そうだ、その通りだ、タクト!」
今度は、フィブリアさん。
「こんな下らない奴等の言葉に耳を貸すな! 君は、お前は悪いことなどしていない! 確かに色々と面倒ごとにいちいち首を突っ込むが、けど、お前はそれで人々を助けてきただろう! その事実から目を逸らすな!」
「そうだぞ、タクト」
「フィブリアさん……サナ……」
「タクトは、わたしを救ってくれた。わたしは、あやうく、やま、はたけ、ひとびとを、かいめつさせるところだった。たいざいにんになるところだった。でも、それを助けてくれたんだ。そして、わたしのかぜを治してくれた」
サナは小さい足で、前にでていく。
「タクトはなー。おいしいごはんをつくれるんだ。お前たちより、よっぽどえらいんだ。そんけいできる、だいじなひとだ」
ああ、サナ。
僕をそんな風に思ってくれていたんだね。
「フィブリアはなー。ちょっとくちうるさいけど、やさしいんだ。わたしに、にんげんかいで生きていけるだけのちしきを、くれようとした。めんどうみがいいんだ。フィブリアも、わたしにとって、だいじなひとだ」
フィブリアさんが、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くさせる。
うん、僕もそう思う。
フィブリアさんは、とっても優しいんだ。大事な、人なんだよ。
「だから、わたしのだいじなひとたちに、てをだすな」
「ガキが、さっきからえらそうに! ぶちのめすぞ!」
「お、やるかー?」
背中に隠しもっていたのだろうか、野盗たちが一斉に棒を抜いた。
ちょっと待って、あんな小さい子に、寄ってたかって暴力しようってこと? そんなの、絶対にダメだ! させちゃいけない!
僕はとっさに前へでる。
とたん、野盗の一人がオーブを掲げた。なんかドス黒い色だ。とてもイヤな感じがする。
「おっと。テメェは手を出すな。知ってるんだぜ。お前、勇者の弟なんだろ?」
「……!」
「そして、コイツは魔族大元帥だろ? ははっ。まさか人間様に負けたクソ魔族が、こんなトコにいるとは思わなかったぜ」
なんで、それを……?
「見通しの魔法道具だ。俺が確か、貸し出したはずだ……」
答えたのは、やっと目を覚ましたらしい魔法使いだった。
って、それも製造禁止の魔法道具だよね? この人、いったい何をやってるんだ……。
「その通り。それで、テメェらを鑑定したってトコ。いやぁ驚いたぜ。お前ら、正体バレちゃあマズいよな?」
「まさか、それをネタにしてフィブリアさんを……」
「おーおー、カンが鋭いことで。さすが勇者の弟サマ。そうだ。それでコイツを脅して、ここまで運ばせたってわけだ」
取り出したのは、例の魔法道具。すでにかなりの魔力が注がれている。
「いっとくけど、手を出すなよ? お前やコイツが手をだしたら、即座にバラすようになってるんだ。テメェらの正体をなぁ! はっはっは!」
「……そうか」
ずい、と前に出たのは、サナだった。
「だったら、わたしはだいじょうぶだな?」
「え?」
野盗たちの目が点になって沈黙が落ちると、同時にサナが変化を始める。
そう。
レインボーの鱗を持つ、巨大なドラゴンに。
「あ。えっ。」
「わたしはかんけいない。お前たち、おせっきょうだ」
「ちょっ。」
待つはずがないよね。
もちろん僕もフィブリアさんも止めるつもりはない。今、この状況を打破できるのはサナだけなんだから。それに、ちゃんと手加減してくれるだろうし。
サナは威嚇で口から炎を天に向かって吐き出す。すごい熱風がこっちにも届いてきた。その残滓を口か漏らしつつ、サナは野盗に顔を接近させた。
「あひょん。」
もうそれだけで、野盗たちは腰を抜かしてへたりこんだ。
うん。悪いことしたら、そうなるんだよ。僕はその間に、フィブリアさんへ魔法を放つ。拘束している紐を切断して解放だ。
サナも動く。
全身から魔力を解放して、野盗たちが持っている魔法道具を一気にダメにする。
次々と白い煙をあげて故障していく魔法道具たち。後ろで魔法使いの悲鳴が聞こえたけど、自業自得なので無視だ。だって、作ったらいけないもののオンパレードだもん。
ここで処分しておかないとね。
「て、ててててててててめぇっ、こ、こここのっ! こうにゃったら!」
けど、残ったのはあの例の魔法道具。
野盗の一人が立ち上がって、その黒くてよくないモノを解放した。
――って、あ。
ぐわっ、と黒くてドロっとしたものが、ランプみたいな魔法道具からあふれ出る。もう止めることはできない。
あっというまに、それはどろどろとした、巨大なヒトガタになった。
サイズは、サナよりも大きい。
「……む」
サナが身構える。強敵と認識したみたい。
「仕方ないっ。タクトっ! ありったけ使えっ! 全武装解除許可だっ!」
とたん、脱出したフィブリアさんが僕に向かって親指を立ててから、相手に向かって親指を下げた。ああ、なんて下品な。後で注意しないと。
でも、今は。
僕はキッと、黒くてどろどろしたアクみたいなヒトガタを見る。
「はっはっはっは! んなの無駄だぜ! こいつはこの世ならざるもの! テメェらなんて」
すう、と僕は息を吸う。
「――《正座》っ!!!!」
ずどんっ!
叫んだ瞬間、黒くてどろどろしたヒトガタは正座した。後、野盗たちも。
「……え?」
ぽかんと、野盗が正座した格好で首をかしげる。
うん。悪いことしたんだから、そうしないとね。
「《いいから、戻りなさい》」
僕が命令すると、黒くとどろどろしたヒトガタは、しゅんって肩を縮めてから、消えた。うん、よしよし。偉いぞ。
「えっ、えっ? あい? え。」
「いいことを教えてやろう、アホな野盗どもめ」
フィブリアさんはストレッチをしながらほくそ笑んだ。
「勇者の弟――タクトは、世界最強なんだぞ」
「いやいや、そんなことないですって」
僕は慌てて否定したけど、なぜか全員からため息をつかれた。
あれ、なんで?
とりあえず。フィブリアさんを救出したし、なんか変なのもなんとかできたし、後は野盗たちを拘束して、お説教だ。
やっぱり規格外はなはだしいタクトでした。
まだちょっとストーリー続きます。
次回はお仕置き??
お楽しみに!
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