大繁盛ともちもちのちまき
三万PV突破しました。
――わいわい、がやがや。
――ざわざわ。わいわい。
「いちご二つですね、ありがとうございます」
「はい、こちらはマスカット二つとブルーベリー三つですね」
「かしこまりました。ゆずを七つで」
「ありがとうございます。りんごが五つでございますね」
今、何時だろう。
次々とカウンターに投げ入れられてくるオーダーの紙をみながら、僕はひたすらにお菓子を作っていく。隣では、調理補助のスタッフとして入ってくれているフレッドさんや娘さんが必死でゼリーを作ってくれている。
コンロだけじゃなくて、加熱式の魔法石に鍋をくべて作っているし、グランさんが追加で持って来てくれた調理器具もフル稼働だ。
なのに、それなのに。
供給が本当にギリギリだ――――っ!?
昨日もとんでもなく忙しいと思ってたけど、そんなの比じゃないくらい今日は忙しい。作っても作っても作っても、次々と消えていく。あわわわっ。
「そうだ、いちごをどんどん手配してくれ。ああ、マスカットも!」
「アガーが底をつきそうだ。もういっそ全部買い上げるか?」
「もち米、追加もってきましたー!」
キッチンの裏側で、バタバタとスタッフさんとグランさんが食材の調達に奔走してくれている。もうキッチンの秘匿だとか、そんなこと言ってられない状況だ。
それでもフィブリアさんはキッチリとカウントしつつ、後で記憶を綺麗に除去するつもりみたいだけど。
今はでもそこが問題じゃなくて、とにかく供給を切らさないようにしなきゃ。
「はい、いちご、マスカット、ゆず、ブルーベリー、りんご、全部できました!」
僕は声掛けしつつ、また慌てて作っていく。
手が痛くなりそうなので、ずっと回復魔法をかけてる状態だ。汗を拭いながら、僕は求肥に包丁を入れていく。ここは綺麗に、丁寧に、素早く。
繰り返しの作業のおかげで、もう慣れてしまった。
ああ、ゼリーの品質も確かめておかなきゃ。
フレッドさんと娘さんはとっても息があってて、それでいて料理も上手だ。手際がいいし、何より丁寧。僕のレシピを忠実に再現してくれてて、味に劣化がない。
これは助かる。
だからちらって確認するだけで十分。
「ありがとうございます、完璧です」
「じゃあ次、マスカットいきますね」
「私はゆず」
残りを素早く確認して、次々と調理にかかってくれる。
暑いだろうから、室内を適温にして、水分も補給できるようにしておかなきゃ。冷たい水にレモンとはちみつを入れて、と。塩をひとつまみ入れるのも忘れずに。
見つからないように魔法で作っておく。
「お金いれる木箱がもういっぱいですー!」
「またか!?」
「あれだ、エール用の樽もってこい! それで一時的にしのぐぞ!」
売り上げの方もとんでもないことになってるみたい。
ちょっと顔を引きつらせつつ、僕は作ることに専念する。外ではフィブリアさんが列を整理している。すごく綺麗なんだけど、よく見てる暇がない。
結局、グランさんと奥さんが手配したスタッフ総出で、お昼らしいお昼もとれないまま一日が終わった。
夕日が沈んで、屋台の終了の時間を迎える。
夜間営業は居酒屋の出店許可をもらってないといけない。僕らは当然確保してないから、そのまま店じまいだ。
「や、やっと終わりましたね……」
フレッドさんのやつれた声に、誰も答えられない。もう死屍累々って感じで、みんなぐったりさんだ。僕もシンクにもたれかかって、大きく安堵の息をはく。
つ、疲れたぁ。
あれだけ材料を仕入れたのに、キッチンは空っぽ。ぜーんぶ綺麗に売り切れた。果物とかもち米とかはさすがに余ってるけど。でも、作った分は全部なくなった。
町の人全員がきたんじゃないかってグランさんは途中でいってたけど、あながち間違いじゃないかも……。
売り上げもすごいコトになってるみたい。
グランさんが経理の人も呼び出して計算してもらってるけど、数人がかりだ。
「売れるとは思っていたが、まさかここまでとはな……」
「甘いお菓子の出店は、他にないからでしょうね」
タオルで額を拭いながらフィブリアさんがいうと、フレッドさんが答えた。僕の作った飲み物で喉を潤してる。あれが大分活力源になってくれたみたいだ。
そうじゃなかったら倒れてるかも。
いや、倒れそうだったから、何度かさりげなく回復魔法かけてたんだけど。
あ、みんなにドリンクを作ってあげないと。
僕ははちみつとレモンを用意して、冷蔵庫で冷やしておいた水をコップにそそぐ。
大きいピッチャーだ。これもいつの間にかグランさんが手配してくれてた。
「確かに、屋台をたくさん回って、どこにも甘い店ってなかったんですよね」
「せいぜいがジュースを出すくらいだったな」
あのパインジュース美味しかったな、と思い出しつつ、僕は今更の疑問を口にする。
「そういえば、なんでなんでしょうね」
「ほら、今度のお祭りあるじゃないですか。あの大会で、串焼きで優勝したんですよ、我が町の店が。それ以来、串焼きとか、そういうのが主流になりまして」
「一種の聖地みたいなものになったんですよ」
それで、どこもそういう店になっちゃったってことか。
ある意味で専門性を極められるから、味がとっても進化する。実際、ここの屋台はどこも美味しかったからね。
でも、柔軟性もそれだけ失われてたんだね。
僕はそういう先入観がなかったから思いつけたんだ。
「そこでこの高品質な甘いものですからな。見た目も美しいから女性を虜にしつつ、甘さもすっきりしてるから、男の我々でも食べやすい」
「濃い味の合間とか、本当にちょうどいいですし、デザートとしても最適。それに持ち帰りもできる大きさで値段も手ごろ。しかもバリエーションもある。文句のつけようがない」
グランさんにフレッドさんが続く。
うん、べた褒め。
これはフィブリアさんがいっぱい協力してくれたからなんですよね。じゃなかったら求肥で包むなんて思いつかなかったかも。
「しかし、それでもここまでお客が集まるとは思わなかったがな」
ドリンクを注いで渡すと、フィブリアさんは早速喉を鳴らして飲む。
僕は数個のピッチャーにドリンクを作って、みんなに配っていく。さすがに一人ひとり注いであげるのは無理だったのでお任せしたけど。
「売り上げは間違いなく過去最高、新記録でしょうな」
「あ、売り上げの何割かはお渡しした方がいいですか?」
みなさん、ここまで頑張ってくれたわけだし、こう、特別ボーナス的な。
「そんなの気にしないでください。給料はちゃんと私の方で出しますから」
「ええ……でも」
「それなら、ご飯でも振る舞ったらどうだ、タクト」
提案してくれたのは、フィブリアさんだった。そうだ、いいアイデア!
うん。それなら自然だし、お返しにもなるよね。
僕は早速冷蔵庫の中を見る。ゼリーとかの材料はほんとうに空っぽだけど、昨日、グランさんからもらった食材がいっぱい余ってる。これで何かできるんじゃないかな。
うんうん、野菜もお肉もあるし、なんとかなりそう。
よーし、じゃあさくっと作っていこう。
まずはもち米。
水にさらして、と。本当は数時間置いておくんだけど、待ってられないので《加速》の魔法で時短。見つからないように、と。
その間に材料を切っていこう。
お肉は色々と部位も種類も豊富なので、細かくそれぞれ切っていく。スジとか、そういうのは除去して、と。大きさもまちまち。
それから野菜をざくざく切っていく。サラダも作るし、こっちも切り方を変えていって、と。うん、これでオッケー。
次にお肉に片栗粉をまぶしてから、オリーブオイルで炒めていく。火が入ったら野菜もいれて、と。細く切ってるから、火はすぐに通る。
ある程度のところで、きのこのだし汁、醤油、塩、はちみつを混ぜたものを入れて煮立たせる。味をよーく染み込ませて、と。
次はさらし終わったもち米。
これをお米が透き通るまで炒めてから、具材をいっぱい入れる。
じゅうぶん混ざったら、皮で包んで、蒸していく。
ここはじっくりとね。
その間にもう一品作ろう。
小麦粉に卵、水をいれてさっくりといて、氷を入れる。そう、てんぷら粉。
下処理を済ませたお肉や野菜に衣をつけて、ひたすら揚げていくだけ。
ただ、野菜と肉とでは温度が違うから注意して、と。
じゅわわわわわぁぁ…………。
うーんいい音。
心地好い音を耳にしつつ、僕は次々と天ぷらを完成させていく。天ぷらを取り出す時、さきっぽだけ油に浸すことで余計な油は落ちてくれる。こういうところをしっかりして、油もしっかり切っていく。
さくさくとさせるコツの一つだよね。
天ぷらにしたのは、オクラ、タマネギ、ニンジン、シイタケ、ネギ、バッケ、たらの芽。どれも下処理もしてるから、美味しい。
塩も、レモン塩、ゆず塩、岩塩と用意した。
味が選べるのっていいよね。
さて出来上がり!
後は冷たいドリンクを用意して、おっと、蒸しあがりも終わった。
せいろの蓋を開けると、ぼわぁって温かい湯気が上がる。うん、いい仕上がり。
「できた! みなさん、どうぞ召し上がれ」
僕は大皿に盛りつけて、次々とスタッフさんたちに持っていく。配膳はグランさんたちも手伝ってくれた。
グランさんは所長なのに、よく動いてくれるんだよね。すごくいい人だなぁ。だからみんなにも慕われてる感じがすごくした。フレッドさんも手伝ってくれるしね。
「わー、ありがとうございます」
「天ぷらだ!」
「すげぇ、いただきます!」
幾つかのグループに分かれて、スタッフさんたちが輪を作る。
「三種類塩を用意してるんで、色々と試してくださいね」
僕はそれぞれにドリンクを渡しながら伝えて、自分の席につく。
まずは天ぷら。
僕はゆず塩が好きだから、ちょんちょん、とつけて。まずはニンジン!
薄くて仄かに黄色い衣に、鮮やかな赤み。キレイだなぁ。
でも、熱くてサクサクしてる間に、と。
いただきます!
向かい側では、フィブリアさんも同じくニンジンを一口で食べる。
「んんっ」
「あー、さくさくだぁ」
でも、ニンジンそのものはほくほく!
じわーっと、優しい甘さが口の中に広がっていく。ニンジンの甘さって、失敗するとくどくなってえぐみも出ちゃうんだけど、今回は大成功だ。しっとりした甘さになってる。お塩がすごく効く~~~~っ!
フィブリアさんもほっこりと微笑んで、頬に手を寄せる。
美味しそうだなぁ。嬉しい。
「次食べよう、次。これは、オクラか」
「ですね」
僕はタマネギだ。
ざくざくっ。と、いい感触。そしてこっちも甘い! ニンジンよりもさっぱりしてるけど、それだけにジューシー! ううん、これも噛めば噛むほど美味しい!
「オクラいいなぁ。衣はサックサクなのに、中はとろっと粘りがある。苦みもないし、すっきりした美味しさだ。これはエールが欲しくなるな……! シイタケもいい、このじゅわっと旨味がしみだしてくるのがたまらん……!」
「まぁまぁ。これを食べてからにしてください」
僕は皮で蒸したもの――ちまきを手渡した。
そして自分も持って、皮をむく。
姿を見せたのは、小麦色になったご飯だ。具材もたっぷり挟まってるのがよくわかる。
「ほう、これは……」
ほわっと広がる湯気に乗っかる、温かい香り。おにぎり型に握った形。
フィブリアさんはやや小さく一口。
「……ほむう」
はふ、と湯気を口から漏らして、もぐもぐと噛みしめる。
あ、すっごく幸せそうな感じ。目がとろーんってなってる。分かるなぁ。だってこれ、間違いないもん。匂いがすっごく豊かなんだよね。
僕も遠慮なく、と。
「なんて味わい深い……もちもちだ。濃厚な出汁の味がじわーってくるんだな。それに、肉と野菜、キノコの旨さがそれぞれでやってくる」
「美味しいですよねぇ」
ほっこりしてると、スタッフさんからも喜びの声があがってきた。
「すげーっ!」
「癒されますねぇ……」
「疲れが取れるような、優しい味だ」
「色んな味が楽しめますね」
うんうん、みんな喜んでくれてる。
よかったよかった。
食べ終わったら、みんなで後片付けだね。
なんて思ってると、フレッドさんがやってきた。
「そうだ、タクトさん。相談というか、アドバイスなんですけど」
「アドバイス、ですか?」
「営業日なんですけど、一週間に一日か二日にしてはどうでしょう。毎日だと、さすがに食材の供給が追いつかなくなる可能性がありますし、そうなると品質が落ちますから」
ああ、そういう部分で問題が起こるのか。
今回も大分追加発注したもんなぁ。市場が傍にあるからかき集められた荒業だもんね。でも、限界があるってことだ。
「それに、毎日じゃなく、定期的に営業することで、飽きを防ぐこともできますし」
「プレミアム感ってことか」
「そうです!」
「仕込む時間と品質を維持しつつ、売り上げもカバーできる、か、いいですね、それ」
正直、今日の売り上げだけでかなりのものだしね。
それに、空き時間ができるってことは、近くの町とかに足を伸ばせるし、お菓子の改良も色々と試せるし。うん、そうしよう。
「営業する日が事前に分かれば、私どもがちゃんと応援しますので」
「ありがとうございます」
バックアップしてくれるって、ありがたいな。
よし、じゃあ営業日を決めて、近くの町に出かける算段をつけよう。
えへへ、何が待ってるかなぁ。美味しいもの、あるといいな!
ちまきの美味しさはこの時期、とってもほっこりできますね。
超繁盛のお話でした。
次回はちょっとおでかけです。要チェックですよ!
ぜひ、応援お願いします!





