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解毒と料理フェスティバル

 翌日の朝。

 僕はフレッドさんとグランさんの迎えの元、グランさんの屋敷に招待された。特別にスレイプニルさんを引き連れて、屋敷の敷地へ招き入れてもらう。

 グランさんのキッチンを借りてもいいんだけど、使い慣れてる方がいいからね。

 それに、微妙な温度管理はやっぱりこのキッチンじゃないと。


 朝ごはんの時間に合わせて、僕は揚げパンを作っていく。


 一つはグランさんの娘さんように、特別調合。

 残りは、みんなの朝ごはん用に。朝から揚げ物ってどうなのかなって感じだけど、たまにはいいよね。それにサラダと牛乳をつけて、と。一応それなりに作っておく。

 昨日みたいに店が忙しかったら、これでつまめるし。

 後、スレイプニルさん用でもあるしね。


 からからからからっ。


 揚げパンがキレイなきつね色になったのを見て、さっとお皿に開ける。余計な油を全部吸い取って、と。

 それと、娘さんは僕のお菓子を気に入ってくれたらしいので、それも一つオマケに、と。こっちは覚醒の劇薬は入ってないよ。


「見た目からして美味しそうだな。てっきりお菓子を作ってくると思っていたのだが」

「あの薬の苦みは、甘みで誤魔化すのは無理というか、むしろ逆効果というか。とにかく、甘さではどうにもできなかったので」

「ふうむ。そんなものなのか……とにかく、早速試させてもらって構わないか?」

「はい。時間もあまりないことですしね」

「うむ」


 グランさんは早速お皿を受け取って、娘さんの部屋に向かう。

 朝なのに起きてるんだろうか、と不安になったけど、お腹が空いてるはずだから大丈夫らしい。僕とフィブリアさんも後ろについていって、部屋に入ると、確かに娘さんは起きていた。

 うっ、すごくだらしないというか、ちょっと臭う……。

 お風呂もまともに入ってないんだな、これはきっと。部屋もぐちゃぐちゃだ。


「さぁ、食べなさい」

「ん、美味しそう……」


 抑揚のない声で応じつつ、娘さんは早速パンを掴む。

 パン粉をまぶして揚げてあるから、しっかりと香ばしい。くんくん、と匂いを嗅いで、娘さんは早速かじる。


 さく、と、少し離れてても気持ちのいい音。


 あ、フィブリアさんが昨晩、欲しがったのも分かる気がする。

 娘さんはしばらく半分目を閉じた状態でもむもむと噛みしめて、固まった。

 ぱっ、と目を開けて。

 一気にがつがつがつっ! と食べていく。わぁ、すごい勢いだ。僕としては緊張の一瞬だったんだけど、うん、今回もちゃんと苦み成分はちゃんと取れたみたいだ。


「はふっ、はぐっ、ごくん」


 娘さんは口から湯気を何度も吐き出しながら、あっという間に食べ終わった。でも口の中がとても熱くなったんだろう、氷の入った牛乳を一気に飲む。

 豪快だなぁ。

 ぷはぁ、と大きく息を吐いて、口周りの油と牛乳を袖で拭ってから、娘さんは両手をこちらに向けた。


「もう一個」

「はい、たくさんありますよ」


 手渡すと、娘さんは遠慮なく大きく口を開けて食べていく。

 びっくりするくらいの食欲だ。

 アツアツなのに、ざくざく食べていって、指先についたパン粉まで吸い付いて取る。そしてまた牛乳をあおって、目の感じがここで変わった。

 じゅわ、と、黒く滲むような、どろどろした何かが娘さんの身体から抜けていく。


「……あれ、あれ?」


 目を何度もぱちくりとまばたきさせて、娘さんはコップから口を離した。

 それから周囲を見渡して、グランさんと目を合わせる。


「あれ、パパ? あれ、あれ?」

「おお……っ! 戻ったか!」

「へ? あたし、なんでこんな汚い部屋に。っていうか、え、ええ?」

「ベレッカぁぁぁぁあっ!」


 グランさんは混乱する娘に抱きついた。と、同時に、いつの間にか脇に控えていたフレッドさんも飛び出して抱きつく。二人とも、大粒の涙をこぼしていた。

 うん、呪いが消えた。

 念のためフィブリアさんに視線を送ると、安堵した様子で頷いてくれた。


「大丈夫だ、呪いの消滅を確認した」

「ですね、よかった」


 僕はほっと胸を撫でおろす。

 ちょっと大変な依頼だったけど、無事にこなせたみたいだ。よかったぁ……!


「しかし、このカオスな状況、どうやって収拾つけるんだ?」

「……うーん、そうですねぇ」


 わんわんと泣く男二人と、混乱しまくる女性。わー、どうしよう。

 遠い目で見守っていると、家に戻ってきたグランさんの奥さんがやってきて一喝。あっさりとなんとかしてしまった。うん、強い。




 ▲▽▲▽




「本当にお世話になりました」


 応接室で深々と頭を下げたのは、グランさんの奥さんだ。目に隈がしみついていて、娘さんをすごく心配していたのがよく分かる。

 どうも、一晩中かけて呪いに強い魔法使いを探していたらしい。

 スロスの呪いは魔法ではどうにもできないんだけど、それでも、と思っての行動だったみたい。

 そして、驚きなのはフレッドさんだ。なんと、娘さんの旦那さんなんだとか。そうか、だから夜でも役場でグランさんに付き従ってたんだ、と納得した。

 ちなみにその二人も応接室にいる。とても嬉しそうでニコニコだ。娘さんはしっかりと入浴中だ。


「いえいえ、よかったです」

「家のゴタゴタに巻き込んでしまったのに、本当にもう……」

「なんとかできてよかったです」


 なんかむず痒いなぁ。

 人を笑顔にするのは好きなんだけど、こう改まってお礼をいわれるのは慣れてないんだよね。なんかもじもじしちゃう。

 ちょっと顔が赤くなってるかも。


「娘の命を助けていただいたばかりか、このような美味しいお食事まで。素晴らしい料理の腕前でいらっしゃいますのね。タクトさまのお菓子、私もいただきましたけど、とても驚きましたのに、このパンもお見事です」

「ありがとうございます」


 料理を褒めてくれるのは素直に嬉しいな。


「この御恩、必ずお返しさせていただきますわ。ねぇ、あなた」

「当然! そうだ、報酬のお話、しっかりとできていませんでしたな」

「いや、別に構わないのに……」

「とんでもない! ちゃんとした依頼でもあるのですから、受け取っていただきますぞ」


 と言われても、兄さんから路銀はたっぷり貰ってるし、お店で利益も出てるから、お金とかは必要ないんだけどなぁ。本当に気にしなくていいのに。

 ちょっと困ってフィブリアさんに助けを求めてみる。

 けど、フィブリアさんは受け取れ、と目線でいってくるのみだった。


「まずはこのチラシを見てくだされ」

「チラシ? これは……」


 差し出された紙を見ると、そこには文字が躍るように大きく刻まれていた。


「出店……フェスティバル?」

「そうです。毎年、ここから東へいった、ヴァルハルトの町で開催される祭りです。ここでは各地から出店が集まってきて、お店を開くんです。大きいお祭りで、毎年盛り上がるんです。それに、毎年どの店が一番おいしかったか、投票形式で決められるんです」

「へぇ、そうなんですか!」


 あ、でも、それは耳にしたことあるかも。

 一位を得たらとても名誉なんだ。お店を開くとなれば援助もしてくれるみたいで、料理人が一度は目指すんだって。

 そっか、もうすぐなんだ。


「我が町からもいくつか出店しておりましてね。毎年、売り上げのいい店を派遣しているのです。盛り上がるお祭りなので、それぞれの地方から出せる店が限られてしまっておりましてね。やむなくそういう措置にしております」

「一位を出した町となれば、それだけで観光客が見込める、か」

「そうです。フィブリアさんは聡明でいらっしゃる」


 なるほど、誘致にもなってるんだ。


「その出店権利を、お渡しします。是非参加してみませんか?」


 …………っ!


「全国、とはいきませんが、この国の東半分で一番を競う大きい祭りです」


 そこなら、もっとたくさんのお客さんと触れ合える。もっとたくさんの人を笑顔にできる! うわ、うわ、うわああっ。


「いいんですか?」

「もちろんですとも。それと、食材に関しても全力で援助させていただきますぞ」

「ええ。他にもできることがあれば、なんなりと」

「そこまで? 本当にいいんですか?」


 本当に願ったりかなったりだけど、それは。

 グランさんは役場の所長さん。だから、きっと手に入りにくい食材とかもなんとかしてくれるんだと思う。これは助かる。


「構いません。それでも返しきれないくらいの御恩を受けたのですから」

「それなら……喜んで引き受けさせていただきます」

「早速のぼりを手配させていただきますわ。それだけで集客効果もありますし。それと、スタッフも手配いたします」

「お手伝いってことか?」


 フィブリアさんの確認に、グランさんと奥さんが頷いた。


「はい。行列整理や注文の受付、会計といった作業はもちろん、食材の買い足しなども援護させていただきます。逆に、そうじゃないと大変なことになると思いますし」


 わぁ、至れり尽くせりだ。いいのかな、本当にこんなにしてもらって。嬉しいなぁ!


「ありがとうございます」

「いえ、お時間を取らせてしまって申し訳ありません。それじゃあ開店の準備もあるでしょうし、すぐに派遣させますね」

「もちろん僕もお手伝いしますよ」

「フレッドさん……ありがとうございます!」


 これは腕によりをかけなくっちゃ!

 すごくわくわくする、それに心がほっと温かくなる。いいな、この感じ。

 ウズウズしていると、フィブリアさんがくすっと微笑んだ。


「君は本当に素直なんだな」

「えへへ、そうですか?」

「まぁそこがいいところでもあるんだがな」

「あ、そうですわ、フィブリアさん」


 奥さんが思い出したように手を叩いた。


「はい?」

「フィブリアさんはすごくお綺麗でらっしゃるのに、その、服装とかメイクとか、そういうのに拘りがなさそうに思えるのですが」

「確かに、最低限のことしかしてないけど……それが?」

「いけませんわ! 妙齢の淑女たるもの! ちゃんとしなければ。私、たくさん化粧品をもっておりますの。お肌とかにあうのを選んでくださいまし。それに服もプレゼントさせていただきますわ。さぁ、みなさん!」

「え? え? ええ? ちょっと?」

「任せてくださいまし。大丈夫です。そこまでお肌が綺麗なら、ベタベタしたメイクなんてむしろ邪魔ですもの。もっとその美しさを映えるようにさせていただきます!」

「いえ、そうでなくて、え? おいタクト、助けろ」

「んー……フィブリアさんが綺麗になるなら、いいんじゃないかな」

「おいいいいいっ!? え、ちょ、腕を、あれ、なんでこんな強いの!? え、ええ、えええええ……」


 がしっとメイドさんたちに両腕を掴まれ、フィブリアさんはずるずると部屋から連れ去られていった。うん、大丈夫、だよね?



すごい勢いで認められていくタクトくん。すごいです。

次回の更新は明日の朝予定です。


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お読みいただき有難うございます
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新連載はじめました! 追放ものです! ぜひ読んでお楽しみください!
料亭をクビになったけど、料理人スキルが最強すぎたので傭兵やることになりました。
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