とろとろスープと難題解決
しゅるる。エプロンをつけるこの音。僕は結構好き。
明日の仕込みをしてから、僕は早速依頼に取り掛かっていた。食材はグランさんから山ほど貰っている。こんなにたくさん食材があるのは初めてかも。
手元にあるのは、丸いビンに入った覚醒の劇薬。
スロスの呪いは、これ一滴で解呪できるんだけど、これがとてつもなく苦い。僕も飲んだことあるけど、丸一日はずっと苦みが続くんだよね。
なんとかして飲ませないといけないんだけど。
「この苦みをなんとかする、ねぇ」
「絶対に無理だろ」
テーブルに突っ伏しながら、フィブリアさんは唸るようにいった。
覚醒の劇薬を飲んだことがないから、と、フィブリアさんは試してしまったのだ。結果、悶絶しまくった。今は味覚を麻痺させる魔法でなんとかなってるけど、苦みのせいでかなり疲労したみたい。
慎重なフィブリアさんにしては意外な行動だったなぁ。
「どうやってクリアするつもりだ?」
「まずは分析ですね」
苦みというのは、味覚の五大要素の一つ。仄かな苦みは、味に深みを与えるんだけど、強いとなると、フィブリアさんみたいにダウンしちゃう。
そもそも苦みって、毒のように、身体に害を与えるものって本能的に認識されてるし、特に子供のうちは苦みを感じやすいから余計に嫌う。
でも、苦み成分には、熱に弱いものとか、特定の成分と合わせると弱くなるとか、色々と種類があるんだ。対策はある。
だから、まずは何がそれだけの苦みを出しているのかを分析しないと。
幸いにして、覚醒の劇薬は過熱にも強いし、いろんなものと混ぜ込んでも効用は消えない。繊細なものが多い魔法薬にしては珍しいんだ。
上手に活用しないと。
僕は数滴、覚醒の劇薬を小皿に垂らす。
「《神眼鑑定》」
魔法を発動させる。ぐっと魔力が吸い上げられる気がするけど、大丈夫。
この鑑定は細かく分析できるから重宝するんだ。時間がかかっちゃうんだけどね。
「おいおい、そんな魔法まで使えるのか?」
「はい。魔法書に記されてあったんですよ。翻訳されてなかったんで、解読するのにちょっとだけ時間かかっちゃいましたけど」
「……もう驚かない。驚かないぞ」
あれ、なんでフィブリアさんが頭をまた抱えてるんだろう。
「タクト。その魔法書は古代神聖言語で書かれていたものだろう」
「ええ、確かそんな感じでした」
そうそう、思い出した。
確か、精霊さんが驚いてたんだっけ。すごく褒めてくれたなぁ。
「そこに書いてあった魔法は全部表で使用禁止な」
「ええっ!?」
「当たり前だっ! それは古代魔法といって、世界でも使い手が数人しかいないレベルの伝説魔法だぞ! そんなぽんぽんと使えるものじゃない! 一つでも使えたらもう、世紀の大魔術師扱いだ。勇者でも二つしか使えないんだぞ」
「え、そうなんですか? 僕、十二種類全部使えちゃうんですけど」
あ、フィブリアさんが硬直した。
そんな驚くことかなぁ? 兄さんだってきっと全部使えるんだよ。僕よりしっかりしてるから、隠してるだけだって、うん。
「規格外も本当に程々にしろよ?」
「そんな、またまたぁ」
「いいか。魔法に最も長けている魔女族やエルフ、竜族だって全部使えるやつはいないんだ」
「それは、彼らはそれぞれの魔法を習得してるからじゃないですか」
特に竜族の竜魔法はとんでもない威力で有名だし、一回兄さんが連れてきたことがあったから、そのすごさはよく知ってる。
また遊びたいなぁ、元気かな。兄さんに手紙送って、寄ってもいいか聞いてみよう。
「あのな。やつらの魔法も確かに優れているが、所詮は古代魔法の劣化版でしかないんだ。いっておくが、古代魔法の一発で山一つは軽々と破壊できるんだぞ」
「ああ、それは知ってます。七年くらい前ですか、小さい頃、暑いから部屋を涼しくしようとしたら制御に失敗しちゃって、山一つ氷漬けにしちゃったので」
「……小さい頃? 山一つ氷漬け? って、制御? おま、おま、おまええええええっ!」
「いたたたたたたたたあぁっ!?」
だめ、それだめ! こめかみグリグリはだめですうううう!
涙目になりながらタップすると、やっとフィブリアさんは解放してくれた。うう、ひどいよぉ。すっごい痛かった……。
「世界法則を乱れさせる魔法も扱える上に、お前は本当に……! 戦争とは違うんだぞ!」
「さすがにもうそんなことしませんよ?」
「当たり前だ。はぁ、もう」
「まぁまぁ」
「張本人がなだめてどうする。とにかく、表では絶対に使うなよ」
再度釘を刺され、僕は頷いた。
お、解析が終わった。白い湯気があがって、色々な成分が表示される。
「ええと、苦み成分は……うわぁ、オンパレード」
「どれとどれだ?」
「ここからここまでですね」
「ほぼ八割じゃないか……それは苦いはずだ……」
思い出したのか、フィブリアさんはすごく嫌そうな顔を浮かべた。
気持ちはすっごく分かる。僕も考えたくさえない。
でも、今は克服しないと。
この大量の苦み成分は、製造工程で作られたものばかりだ。だから、本来の効能とは関係がない。取り除いても大丈夫なんだけど……。
中々に大変だ。
「どうにかなるのか?」
「そうですね……一つ一つは取り除けそうです」
「一つ一つ?」
「煮て焼いて揚げて冷まして混ぜて蒸して凍らせて解凍したりすれば」
「なんだそのフルコンボ」
「しかも苦み成分の少しでも残せば、また全部復活しちゃいますねコレ」
「嫌がらせでは? 何かに包むとかしないのか?」
「染みだしてきちゃいますね」
だから原液だと飲めたもんじゃない。
服用方法としては、ハチミツに砂糖、生クリームにミルクを混ぜたものに一滴垂らして、一気飲みするんだけど……。これだけの苦み成分があると、無意味というか、むしろ苦みが強くなるだけだ。
うーん。
何かレシピがあったかな。
「無茶難題も過ぎるだろ。強引に拘束して飲ませるしかないんじゃないか?」
「けど、スロスの呪いはとんでもない力を発揮しますよ」
「そうだった。相手は人間の娘だったな……」
スロスの呪いは、人を怠惰にする。でも、それだけじゃあない。呪いは蝕みながら、魔力を吸い上げる。だから、抵抗する時は容赦なく魔力を尋常じゃなく消費してしまう。
しかも、どんな魔法も受け付けない。
だから、なんとかして自然に服用させないといけない。
しかも第四段階なら、もう時間もない。
「……時間、そうか、これならいけるかも」
「何か思いついたのか」
「はい。フィブリアさん。キノコを使いましょう。えっと……他にも必要な食材が……うん。全部揃ってますね。これならいけると思います」
僕は早速調理にとりかかる。まずは下ごしらえだ。
使うのは三種類のキノコ。どれも旨味成分たっぷり含まれてる。ここに一滴だけ覚醒の劇薬を一滴だけたらして、よーく混ぜてから水分を拭き取る。
後は、急速冷凍!
冷蔵庫の機能を最大限に活用しよう。対象をセットして、一気に冷凍、と。
うん、便利便利。
「本当にとんでもないな、この馬車は……」
「あはは、なんでもできちゃいますよね」
「まったくもって恐ろしい」
「さて、冷凍している間に、材料を切っちゃいましょう。っていってもタマネギですけどね。それとスープの準備、と」
まずはスープから。
余ってたキノコの戻し汁で鶏の骨を煮込んで出汁を取る。圧力鍋と《加速》の魔法で一気にやっちゃおう。
その間にタマネギをみじん切りにして、と。次にバターをフライパンにのせて溶かす。焦がさないようにゆっくりとね。
十分に溶けたらタマネギを入れて混ぜ合わせて、と。
あ、もう冷凍が終わった。早いなぁ。さすが急速冷凍。
じゃあ急速冷凍したキノコをいれちゃおう。
凍ったままいれて、と。全部がしんなりするまで炒めて、火が通ったらお酒と小麦粉を少し入れて、軽く煮込む。後は牛乳をいれてよーく混ぜて、と。
よし、こんな感じかな。
できたら風の魔法で、キノコを砕いていく。それこそ、スープに溶け込むまで。完成したら、圧力鍋で取った濃厚出汁と合わせて……と。滑らかになったら、細かめに切ったベーコンを入れて、塩を入れてもうひと煮立ち。
完成したらコショウをちょっとだけ入れてから、粗熱を取っていく。ゆっくり冷まさないとね、ここは。
これでキノコのクリームスープの出来上がり。
「次に生地を作っていきます」
「パン生地か」
「はい、そうです」
今回作るのは、基本の方。
材料を混ぜて、しっかり一次発酵をさせて、ベンチタイムもいれて、と。
発酵が終わったら切り分けるんだけど、この時に、キノコのクリームスープをいれて、包んでから二次発酵。
終わったら、卵液に浸して、パン粉をつけて、油で揚げる!
じゅわわわわわわぁ……。
これで蒸されながらも揚げられてる状態になる。
火加減に注意しながら、きつね色になるまで揚げて、できあがり!
キノコのクリームスープ揚げパンだよ!
これで、苦みは消せたはずだけど……。食べてみるまで分からないんだよね。ここが怖いところ。フィブリアさんは今、味覚を麻痺させてるから、僕しか味が分からない。
もし失敗してたら、後がない。
緊張しつつも、しっかりと油を切ってから、と。あちち、まだちょっと熱いけど……一口。あーん。
さくっ。
んんっ。パン粉がからっと揚がってる。
パン生地ももちもちになってるっ! これはたまらない、かも!
もう一口っ。
ざくざくっ。とろ、とろとろーっ。
んんんんっ。あちちっ。
「はふはふっ」
温められたスープが口の中に入ってくる!
あつあつだけど、とろとろで、じゅわーって旨味がしみだしてくる。苦みはない。良かった。うまく苦み成分を取り除けたみたいだ。
うん、美味しい。
旨味の中に、甘さもあるし、ベーコンの肉らしいコクと塩気。食感も楽しい。
「ふうふう」
湯気を吐き出しながら、僕は次々と食べていく。
手頃なサイズにしたから、一個は楽々食べられた。ぺろりといけちゃうなぁ!
「お茶お茶っと」
アツアツで身体もぽっとしてきた。僕は冷えた牛乳をコップに注いで、ごくごくと飲む。んー。いい感じっ。
うん、これなら大丈夫そうだ。すぐにでもグランさんに連絡しよう。
「タクト」
「はい?」
「俺の味覚が元に戻ったら……すぐに食わせてくれ」
「は、はい」
真顔で詰め寄られて、僕はそう返事するしかなかった。
難題をクリア!
です。あとは食べてくれるかどうか……
次回をお楽しみに。
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