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依頼

 役人さんは、フレッドという、僕より少し年上のお兄さんだった。すごく優しくて、僕らを気遣いながら役場に案内してくれた。

 っていうか、こんな時間でもあいてるんだね、役場って。

 不思議に思ってたら、裏口から案内された。


 そのまま二階に案内される。


 僕がいった時、役場の受付は一階だけしかなかったはずだから、二階は完全に働いてる人とか、関係者専用のはず。あれ、なんだかすごいところに案内されてる?

 ちらりとフィブリアさんを見ると、周囲を見ているだけだった。

 ってことは、敵意とかも何もないってことだよね。本当に何のお願いなんだろう。


「こちらです」


 開けられたドアに入ると、小さい会議室な感じだった。

 奥にいたのは、ヒゲを蓄えた筋骨隆々を体現しているかのようなおじさん。


「こんな時間に呼び出してすまない。ようこそ、タクトくん、フィブリアさん」

「あ、い、いえ」

「私はこの役場の所長をやっている、グランという。お見知りおきを」


 所長?


「この役場で一番偉い人が、一体何の用事かな?」


 首をかしげようとすると、フィブリアさんがさっと前に出ていってくれた。

 すると、グランさんは穏やかに微笑んだ。


「そう警戒しないでくれ。害を加えるつもりなんてないよ。むしろ逆なんだ。フレッド、お茶を出してくれ」

「はい」


 フレッドさんは微笑みながら部屋を後にして、僕らは席をすすめられた。

 逆、ってどういうことだろう。

 単純に考えて、危害を加えるつもりはないってことは、何か利益になるのかな?


「話をすすめよう。まずは新記録達成、おめでとう」

「……新記録?」


 僕とフィブリアさんは同時にきょとんとした。


「あれ? 説明を受けていなかったのかな? 新しく出店するお店は、調査員が派遣されて様子を確認するんだよ。アドバイスも適時可能だし、もしかしたら知らないでちょっとした違反をしてしまうかもしれないし」

「なるほど、そのついでに、集客状況も確認するのか」


 さすが聡明なフィブリアさん。すぐにのみこんで、グランさんの言葉を先読みした。

 嬉しそうにグランさんは何度も頷いて、机の上に置いてあった一枚の紙をすっと僕らの方へ差し出してくる。ちらっと見ると数字が並んでいた。

 時間帯別の、集客状況のようだ。


「驚いた。最初の客がアタリだったのもあるが、どれもこれも新記録だよ」


 グランさんは両手でジェスチャーしながら嬉しそうに語る。


「新人記録が更新されたのは十年ぶりだ。その店は、今や町にレストランを構えて、今も繁盛しているんだよ。それを塗り替えたんだ。本当に素晴らしい」

「十年ぶり……」

「そうだ」

「ずいぶん長い間記録を保持していたんですね。すごいな、そのお店。食べにいきたいなぁ。どこにお店があるんですか? 今からいっても間に合います?」


 すごく気になって、つい前のめりになってしまう。

 あれ?

 なんで視線が微妙に痛いんだろう?

 ちらりと見ると、フィブリアさんは呆れてまたこめかみあたりをさすっているし、グランさんも苦笑を浮かべていた。あれ、あれぇ?


「その記録を破ったのは君なんだけどね……?」

「タクト。お前は本当に……」

「え? あれ? あれぇ?」

「と、とにかく、だ。新記録樹立に伴って、本来ならもう数日はエリアの変更はされないんだが、エリアを移動してもらいたくてな」


 ごほん、と咳ばらいを一つして、グランさんは提案してくる。


「正直なところ、これだけの記録なら、もっと通りに近い方がいい」

「ああ、ベテランのお店が立ち並ぶところですか」

「そうだ。激戦区ではあるが、十分やっていけるだろう。僅か一日でエリア移動、となれば、それだけで宣伝にもなるし、こちらも協力させてもらう」


 なるほど、激戦区ってなれば、それだけお客さんも多いし、目も光ってくる。

 僕としては悪くない提案だ。

 いろんな人を笑顔にしたいから。


「加えて、変なやっかみは受けなくて済む」

「やっかみ、ですか?」


 あれ、そんなの受けたっけ?

 思うけど、グランさんは頷いて一枚の紙を見せてくれた。営業停止リストだ。


「今日、君の店への明確な妨害行為が認められた。以前から、新入の店をカモにして売り上げを伸ばしていた厄介な店だったんだ」

「ああ、隣のか」


 思い出したようにフィブリアさんが手を打つ。


「中々尻尾を見せなかったんだが、すごい売れ方だったからな、ついつい我慢しきれなくて手をだしてきたんだろう。まったく」

「いいのか?」

「相手を魔法で縛り上げたことか? 構わないとも。先に手をだしてきたのは向こうだ。君たちに非はどこにもない。相手に大怪我どころか、かすり傷さえつけていない」

「当然だ」


 フィブリアさんは鼻を鳴らした。


「はっはっは。その類まれ極まる魔法の技術、どこで培ったのか気になるが、本題はそこではなくてね。実は依頼があるんだ」

「依頼、ですか」

「ああ」


 依頼って、なんだろう?

 グランさんの顔色が変わる。不安そうで、心配している。そんな表情だ。

 自分の膝に肘をついて手を組んで、グランさんはそこに額を押し付ける。漏れたのは、大きくて深いため息だった。


「実は呪いにかかっている子がいてな。俺の娘なんだが……」

「呪い?」

「スロスの呪いだ」


 言葉を聞いただけで、フィブリアさんが驚く。言葉こそ出さなかったけど、明らかに動揺していた。でも、それは僕も同じだった。

 勇者の訓練で学んだものの中にあるからだ、スロスの呪いが。


 決してかかってはいけない呪い。


 ごくり、と生唾を飲む。

 グランさんは沈鬱な表情で、水晶を取り出す。姿見の水晶だ。魔力を通せば、対となる水晶からものが見える。

 穏やかな光が灯されて、表示されたのは――。


 すっごいダラけた姿勢でベッドに寝そべり、クッキーを貪りくらう少女。


 ……うっわぁ。部屋も汚い。あ、足の指でふくらはぎあたりをかいてる。あらら、あくびまで。ってクッキーこぼしてるし、あああ。

 隣でフィブリアさんも口元を押さえて、顔色を悪くさせていた。

 なんか、だらしないランキングの上位全部を集めたって感じだなぁこれ。


「この呪いを解くには、特殊な薬が必要とのことなんだが……その……」

「覚醒の劇薬だったな。確か。中々手に入りにくい薬のはずだ」


 そっと水晶から目線をずらしつつ、フィブリアさんがいう。


「さすがだな。その通り。なんとか手に入れたんだがな。しかし……」

「確か、ものすごく苦かったですよね」

「良薬は口に苦し、というんだが……その、絶対飲まなくてな」

「だろうな」


 じ、とフィブリアさんは水晶を睨む。仄かに目が赤く光った。魔眼だ。バレないように隠してるけど。

 たぶん、呪いがどの程度進行してるか確認してるんだろう。

 僕の見立てでは、レベルは四だ。最大で五なので、かなり危険な状態だ。最後まで進行しちゃうと、本当に解呪できなくなるから、もう今がギリギリなんだと思う。


「無理やりおさえつけようにも……」

「普段は怠惰な分、暴れる時はすさまじい力を発揮するからな。スロスの呪いは手強い」


 グランさんは疲れ切った様子で頷いた。


「それで、その薬を使ったお菓子を作れ、というものが依頼の内容でいいのか?」


 ああ、そういうことか。だから僕なのか。

 だとしたら……。


「そうだ。あれだけ甘くておいしいお菓子を作れるのであれば……もちろんこれは、正式な依頼だ。報酬は出す」

「分かりました、やってみましょう」

「って早いな!?」


 グランさんが驚いて顔を上げる。あれ、なんで?

 ちらりとフィブリアさんを見ると、両手で頭を抱えて項垂れていた。あ、ため息。

 あれ、あれ?


「え?」

「まだ報酬の内容にさえ触れていないんだが?」

「え、でも困ってるんですよね?」

「もちろんだ。娘の命に関わる事態だからな」

「だから了承したんですけど」

「なぁフィブリアさん」

「いうな。きくな。コイツはそういうヤツなんだ」


 グランさんが困惑したまま訊ねると、フィブリアさんは全部シャットアウトした。

 あ、あれぇ?

 なんでその反応?

 混乱していると、フィブリアさんはため息をついてから顔をあげた。


「とりあえず、こうなったら止められないのも事実だ。その依頼、受けよう。報酬はどうするか、もうそちらに任せる」

「色々と気苦労しておられるようだな」

「お人好しだからな。仕方ない」


 フィブリアさんは諦めたようにいう。あれ、でもほら、困った人は助けなきゃ。


「とにかく。タクト。引き受けたからには何か策はあるのか?」

「いえ、まったく!」


 ずどお、とグランさんとフィブリアさんが机に頭をぶつけた。うわ、痛そう。


「だ、大丈夫なんだろうか……」

「知らん……」

「いや、たぶんなんとかなりますよ、大丈夫です、うん」


 さて、戻ったら早速色々と試してみよう!



ストーリー編でした。

次回はメシテロ。難題をクリアできるのかどうか、お楽しみに。


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お読みいただき有難うございます
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新連載はじめました! 追放ものです! ぜひ読んでお楽しみください!
料亭をクビになったけど、料理人スキルが最強すぎたので傭兵やることになりました。
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