じゅーしー照り焼き!
「そうだ。もち米を買ったら、こんなものを貰えたぞ」
早速調理にかかろうとしたら、フィブリアさんが瓶をもってきた。黄金色の液体だ。
ふわっとアルコールの匂いがして、お酒かな、と思ったけど……これって。
「もしかして、みりんですか?」
「ああ、そうそう。そういう名前だった。店主がくれたんだ」
「すごいです! 貴重な調味料ですよ」
いつか作ろうと思ってたヤツだ! まさか手に入るなんて!
これでアレが作れるぞ。
「そうなのか。俺は単なるお酒と思ってたんだがな」
「アルコールなので、お酒みたいなものなんですけど、甘みが強いので、色々な料理に使えるんですよ。いい調味料なんです」
「ほう」
僕は早速瓶のふたをあける。
うん、いい香り。間違いなく本みりんだ。よし、そうと決まれば気合いを入れよう。
用意するのは醤油と砂糖。後はお酒。
醤油、みりん、お酒は二に対して、砂糖は一の割合。
全部混ぜ合わせる。砂糖が溶けにくいから、丁寧に混ぜ合わせて、と。うん、これでテリヤキのタレの出来上がり。
「早速使わせてもらいますね。お昼は期待していいですよ」
「ほう。それはいいな」
「へへ」
調味料を馴染ませている間に、スープを作ろう。
一時的にコンロを解放しよう。
森で採集した乾燥キノコを戻す。時間がないので、魔法で《加速》して、と。
じゅわっと戻し汁が出た。
三種類のキノコからとったこの出汁。これだけで美味しいんだけど……。
ここに野菜を入れて、砂糖と塩を少し入れて味を調えて、圧力鍋で煮込む。
さて、次。
冷蔵庫から取り出したのは、じっくり熟成させた、ホーンラビットのお肉。
このお肉は、もも肉が特に美味しいんだ。大きいのもあるんだけど、ホーンラビットはももの部分に栄養を蓄えるようになっていて、鶏肉のように脂がのってるんだ。
熟成させてるから、濃厚な味わいだよ。
ざくざくっと切り分けて、残りの肉はシチュー用にまた置いておく。
まずはもも肉の下処理。
筋張ったところや、くどくなりそうな脂は取り除いて、と。
後は、なるべく肉の厚さが均等になるよう、切り目を入れて、と。よし、綺麗になった。そうしたら皮目にフォークを刺して、穴をあける。
ちょっとメンドーだけど、ここがすごく大事なんだ。
あ、あんまり穴をあけすぎてもダメなんだよ。適度が大切。火が通りやすくするためだからね、この作業は。
よし、こんな感じ。
塩を少しと片栗粉を混ぜてからまんべんなくまぶして、と。
「えーと、確か……あったあった」
サラダ油をフライパンにいれて熱してから、肉を皮目から焼いていく。
じゅ、じゅじゅ――――っ。
おお、一気にいい香り。
パリパリに焼き目がついたら裏返して、火をちょっと弱くしてから熱を通していく。七割くらいの時点で、脂がいっぱい出てるから、これを拭き取って、タレを回し入れる。
こうするとタレがよく絡むんだよね。
一気に甘い香りが広がる。
後は煮込むように火を通して、皮にもスプーンでタレをかけて、味を染み込ませる。
タレが七割くらいなくなった具合で、完成。
うーん、美味しそう。
てりてりの濃い色がついてる。
さっとお皿に入れて、丁寧に切り分ける。
スープも出来上がってるね。パンはあるからこれをトーストして、後は付け合わせにキュウリを切って軽く塩もみして、と。
「できました!」
「さっきからとんでもなく美味しそうな匂いがしていたな」
「はい。もも肉の照り焼きですからね。絶妙な美味しさですよ。どうぞ召し上がれ」
「うむ。早速」
フィブリアさんはくるくるっとフォークを指先で回転してから、照り焼きを一切れにぷすっと入れた。
じゅわ、と肉汁がしみだしてくるのが見えた。
あ、あれ絶対いい感じ。
「はぐっ」
ぷるっ、と肉が弾けるように、あっさりと噛み切られた。
「ん、んんん、これは、すごいな!」
「たまらないですよねぇ」
「うむ! この甘辛でコクがあって、ああ、とろみがあるのもいいな、肉にこれでもかというくらいに合う」
フィブリアさんは一気にひと切れめを食べちゃう。
うん、この濃い目の味がやみつきになるんだよね。僕も食べよっと。
「はくっ」
ん~~~~っ!
お肉がぷりっぷり! 弾力があるのに柔らかい! すっごいジューシーだ!
すごいなぁ!
脂がじゅわーっと口の中に溢れてくる! それなのに全然しつこくないし、お肉がしっかり旨味を持ってて、照り焼きのタレとうまく合ってる!
「これはスゴいな。皮もパリパリで食感が楽しい」
「うんうん、上手く焼けましたね」
脂が上質っていうのもあるんだけど。
「スープが優しいな」
「照り焼きってすごく味が濃いから、あっさりしたものが合うんですよ」
「うむ。すごく美味しい」
「このタレ、パンにもすごく合うんですよね」
すっと脂とタレをすくうようにして、パクっと。
美味しい~~~~っ。
フィブリアさんも早速タレをパンに染み込ませて頬張る。そして、ふふふっと微笑みながら頬をなでた。あ、口の端にタレついてる。
それをぺろっと舐めとって、フィブリアさんは昼ごはんをあっという間に平らげた。
おっと、僕も食べて準備しないと。
お客さんたちが広めてくる! っていっぱいいってくれたから、午後からもお客さんの入りが期待できるんだ!
ささっと食べて、僕は後片付けを始める。
どがしゃーんっ!
外で盛大な音がしたのはその時だった。
な、なんだろう?
慌てて外をのぞくと、男の人が何人か何かに巻き付けられて転がっていた。
「あれ?」
「罠に引っ掛かったか」
「罠?」
フィブリアさんはゼリーの確認をしながら、なんでもないように頷いた。
「忙しくて見ている余裕なかったんだろうけど、隣の屋台の奴等、相当こちらを睨んでいたぞ。まるで向こうに客が流れなかったからな」
「そうだったんですか?」
「それで、嫌がらせをしようとしてきたんだろう。おそらくやると思っていたが、本当に安直な連中だ」
へぇ、あの忙しさの中、そこまで観察してたなんて。フィブリアさんは凄いなぁ。
思いながら外を眺めていると、男の人たちを縛っていた何かが蒸発したように消えた。慌てて逃げていくのを見送る。
ああ、そっか。
僕は理解した。
きっとあれは短時間拘束するだけの魔法なんだ。人前でもあるし、ちゃんと大騒ぎにならないように配慮してくれたんだ。本当に優しい。
それにしても、なんでそんなことまでしてきたんだろうなぁ。
深く考えないようにしよう。
今はお菓子を売ることだけを考えなきゃ。
「午後からはジャムの試食はどうするんだ?」
「そうですね……」
正直、僕一人じゃあ手が回り切らない。
「希望の人にはテイスティングという形をとってみましょうか」
「ああ、それはいいアイデアだな」
「じゃあ用意しておきますね」
よし、これで準備オッケー。
「それじゃあ、オープンといくか」
「はい!」
僕は早速外に出て、カウンターをオープンして、看板に掲げていたクローズの札を取って、って……え、えええ?
なんかすぐにお客さんがいっぱい寄ってきた!?
「待ってたよー!」
「次はマスカットが食べたくなっちゃって!」
「私はりんご! いっぱい連れてきたからね、いっぱいうっちゃって!」
先頭にいたのは、最初に購入してくれた女の人たちだった。
え、いや、え、えええええ。
あっという間に行列ができちゃった!?
「は、はいっ! いっぱい用意してますから!」
僕はついつい返事をしちゃって、慌ててキッチンへ戻った。
すぐにフィブリアさんが対応に当たってくれたけど、もう大変だった。
「私はいちごー!」
「ゆずください、ゆず! 二つね!」
「ブルーベリーがいいなぁ、キレーだもん!」
「ママー! わたしリンゴがいい!」
結局、お客さんは途切れることなく、陽が落ちるまで僕らはお菓子をたくさん売った。
疲れたけど、みんなが笑顔になってくれてよかった。
なんか、幸せだなぁ。
移動屋台『ワタリドリ』の初出店初営業、大成功!
明日もたくさん売れるといいな。
なんて思いながらお店の後片付けをしていると、役所の人がやってきた。とても物腰柔らかそうな人だ。
「あの、少しお話があるんですが、いいですか?」
「お話?」
「はい。その、少しお願いがありまして。役場までご足労願ってもいいですか? あ、もちろんお店を片付けた後で。お待ちしていますから」
「ええ、構いませんけど……」
お願い?
なんだろう。
僕とフィブリアさんは顔を向けあって、お互いに首を傾げた。
照り焼きは日本の心ですね。
じゅわっと美味しい……
次回はストーリーなお話です。
どうなっていくのか……? お楽しみに!
ぜひ応援、お願いします!





