さぁ、開店!
「えげつない?」
「そこそこの人気店なんだけどな……ここに客が集まりやすいからって、別のエリアに移動しようとしないんだ。出店日とか、時間帯とかを調整までしてな。だから、慣れてない新人の店が隣にくるとな、こう、すごく不利なんだよ」
へええ。そうなんだ。
でも人気店ってことなら美味しいんだろうな。気になるなぁ。
美味しいなら、別のエリアにいっても売れそうなものなのに。どうしていかないんだろ。そんなにこの辺りの景色とかがお気に入りなのかな?
とか考えていると、マルタさんが話を続ける。
「移動できるなら移動した方がいいんだけど……」
「もうある程度集まってきちゃいましたね」
僕は周囲を見渡して答えた。
いつの間にかいっぱい来てるんだよね。ちょうど時間みたいだ。なんかお祭りの準備って感じがして、空気がわくわくしてる。
「残ってる場所は屋台を開いても、あまりよくないトコばっかだな。ううん」
「いえいえ、頑張ってみます。色々とありがとうございました」
「いやいや」
お互いに会釈してから、僕はもう片方の隣の店に挨拶へ出向く。
こっちも設営が早い。慣れてるって感じだなぁ。手際がすごいや。
「あの、すみません」
「あぁ?」
声をかけると、ヒゲの生やした体格のいい男の人が顔を向けた。あれ、調子でも悪いのかな。それともマズい時に声をかけちゃった?
それなら、手短に済ませた方がいいかな。
「今日、お隣でお店をやらせていただきますので、ご挨拶にと思いまして」
「あぁ? お前見ない顔だな。初めてか?」
「はい。初めてです」
「そうかそうか、はっはっはぁ! そいつぁいいぜ。よろしくな!」
「はい、よろしくお願いします」
あれ、機嫌よくなった。なんでだろう。
まぁいいか。
僕は会釈してから店に戻った。キッチンの中では、フィブリアさんがぶすっと顔をしかめている。あ、あれぇ。機嫌が悪くなってる?
「フィブリアさん? どうしました?」
「いや、隣のヤツの態度が気になってな」
「隣?」
「ついさっき挨拶にいった方だ。観察していたが、こっちが初出店だと知ったら態度がコロっと変わった。おそらく、俺たちをカモにするつもりだぞ」
「カモ、ですか?」
訊き返すと、フィブリアさんはまだ険しい表情のまま頷いて、顎をさする。
あ、コーンスターチの粉がついた。
「おそらくだが……初出店となれば、俺たちは当然それをウリにするよな?」
「もちろんそうですね」
僕は肯定する。
折り畳み式の看板にも、初出店! って書くつもりだし。まずは目に止まってもらわないと、意味がないもの。これだけ屋台があると、尚更だよ。
「お客は目新しいから、ある程度は集まると予測がつく。ヤツはそれを狙ってるんじゃないか? こう、横取り的な感覚で」
「狙うって……どうやってです?」
「ほら」
フィブリアさんは鼻を何度か鳴らして、僕にも匂いを嗅ぐよう促した。
くんくん、とするまでもなかった。
ぶわって勢いで、すごく濃厚な匂いが漂ってくる。
「すごい、香ばしいお肉の匂いですね」
「燻製か? ベーコンみたいだな。一種類だけじゃなさそうだ」
ちらっと様子見をすると、フィブリアさんのいうとおりだった。
目立つようにベーコンの塊をつるして、鉄板の上でジュージュー焼き始めてる。それだけじゃなくて、風が起こるようにしてるのかな? 少しだけど魔力を感じる。
フィブリアさんも気付いたようで、大きくため息をつきながら鼻をつまんだ。
「どうやら、匂いで釣って、こっちの客を奪うつもりだな」
「ええ、そんなことしなくても美味しそうなのに。ちょっと濃そうですけど」
あ、醤油の匂いもしてきた。
うーん、とっても濃厚。醤油でベーコンを焼いてるのかな。だとすると味が濃そうだなぁ。舌が塩辛くなっちゃいそう。
「追い打ちだな。よく見ろ。醤油は鉄板の端っこにしかかけてない。完全に匂い誘導だ」
「よく見えますね、フィブリアさん」
「これくらいは当然だ。それにタクト。お前だって見えてるだろう」
「そりゃそうですけど」
うーん、生き残りに必死なんだなぁ。
関心してると、フィブリアさんが軽く小突いてきた。
「少しは迷惑そうにしろ。明らかな嫌がらせだぞ。まったくお人好しにも程がある」
「でも、そうと決まったわけじゃありませんし」
「……くう、眩しすぎるっ!」
フィブリアさんは下唇を噛みながらちょっと悔しそうにする。
いや、うーん。だって。
そこを気にするよりも、なんとかお客に気付いてもらえるようにしなきゃ。だって、色んな人を笑顔にしたいじゃない。
僕は頬を撫でながら考える。
んー。匂い、は盲点だったなぁ。
僕が今回用意したものは、仄かな甘い匂いがする。見た目はフィブリアさんが改良してくれたおかげでとってもいい感じなんだけど……。
……そっか、それなら。
僕は棚を開けて、目的のものを見つける。うん、これなら大丈夫。
それと、あったあった。後は鍋を用意しよう。
「どうしたんだ。パンなんか出して。お腹空いてるのか?」
「いえ、ちょっと試したいことがあって。もしかしたら、これで対策できるかなって」
「どういうことだ?」
訝しく首を傾げるフィブリアさんに、僕は準備しながら説明する。
「ジャムをいくつかお渡ししますので、焦がさないようにコトコト温めてください。そうしたらあまーい匂いが広がりますので。それで、お客さんがきたら、このカリっと焼いたブレッドに塗って、食べてもらってください」
そう。ジャムなら匂いが出る!
でもそれだけだと二番煎じだから、もう一つ工夫を加えよう。
「本当に一口サイズだな。料金は幾ら取るんだ?」
「いえ、試食みたいなものなので、取らなくていいです。けど、その代わり――」
「なるほど、店頭に誘導するんだな?」
「はい。このゼリーを展示しておきますから、視覚的にも訴えられます」
なるほど、とフィブリアさんは顎を撫でながら、にやっと笑った。
「それならいけそうだな。よし、そうと決まれば早速いくか」
「あ、でも、フィブリアさん」
「ん?」
「顎、粉まみれで真っ白です」
「ふぇっ!? あ、はっ……! か、顔を洗ってくる……」
鏡を見せながら教えると、フィブリアさんは耳まで真っ赤にしながら水場へ向かった。
うん、反応がかわいいなぁ。
フィブリアさんの準備が終わるまでに、僕は外にテーブルを用意しよう。赤と白のチェック模様のテーブルクロスもかけて、と。
鍋を温める魔法石を並べて、ジャムとブレッドを準備。ブレッドはカリカリに焼いて、一口サイズにカットして、と。
用意したジャムは、いちご、ゆず、りんご。
よし、これでオッケー。
後はフィブリアさんにお願いしよう。僕はお菓子作りだ。
いっぱい売れてくれるといいな!
「待たせたな」
「それじゃあ、お願いします」
「任せろ」
フィブリアさんは親指を立てて、外のテーブルに向かった。
ことこと、と、ジャムが温められて、ふわりといい香りを広めていく。呼応するように、濃厚な肉の匂いが薄くなっていった。
うん、これならいけるかも。
屋台のオープン時間になると、人々が次々とやってくる。
わぁ、なんかお祭りの開催! って感じだなぁ。わくわくしちゃう!
一気に周囲が賑やかになっていく。
「あら、いい匂い」
「珍しいね、甘い香りなんて」
早速二人の女の人がやってくる。若そうだけど主婦って感じ。
「よかったらおひとついかがですか?」
すかさずフィブリアさんが勧める。わぁ、見たことない笑顔。
爽やかで嫌味のない笑顔に釣られたか、二人の女の人がさらに近づいてくる。お鍋の中身を見えるようにしながら、フィブリアさんはバケットにジャムを塗った。
「試食サービスです。甘くておいしいですよ」
「あら、サービス! いいわぁ、いただきます」
「ここはジャムを売っているお店なのかしら?」
話しかけながら女の人はバケットを口へ。
さくっ、さくさくっ。
気持ちいい音がして、女の人は同時に顔を見合わせて顔をほころばせた。よし、あの表情は手応えありだ!
「あら、とっても美味しいね!」
「うんうん、いい甘さ。でも後味はスッキリなのね」
「このジャムを使った、もっと美味しいものがありますよ」
フィブリアさんはさっと手を店の方にやる。タイミングをあわせて、僕はさっとお菓子を作って、差し出す。
二人の目の色が、はっと変わった。
「「綺麗っ!!」」
うん、僕もそう思う。
フィブリアさんがデザインしてくれたことで、このお菓子は別人のように綺麗になった。
ゼリーを求肥で包むんだけど、その求肥に細工をする。
円形の求肥を折り畳んで、端っこを斜めに切ってから広げてると、花びら型になる。これを絞るように包んで、一枚だけめくって半分切る。
こうすることで、ゼリーの綺麗な面も見えるし、ステキなんだ!
さすがフィブリアさんだよね。
きゃいきゃいとお客は話ながら盛り上がる。うんうん、いい感じ。
「いらっしゃいませ。いちごと、マスカット、りんご、ゆず、ブルーベリーの五種類がありますよ」
「そうなの。じゃあ私はいちごで」
「ゆずを貰おうかなぁ」
「ありがとうございます。お代は……はい、確かに。こちらになります」
代金はちょうど渡してくれた。ありがたいありがたい。
二人は早速、ゼリーを食べる。
「あむっ。んんんっ、もちもち、ぷるぷる、しゅわしゅわ~~~~っ」
「ほっぺが落ちそう~~~~っ!」
うん、大成功!
「やだナニこれ、初めて食べる食感!」
「すごく瑞々しいゼリーなのね、甘さもすごくいいわ!」
「果実感もあるわ、粒々がいい~~~っ、幸せの味だわ!」
目をキラキラさせながら褒めてくれる。嬉しいなぁ。幸せの味、いい響き。
僕もフィブリアさんも思わずニコニコしちゃう。
この二人は、いい呼び水になってくれた。
あっというまにお客が集まってきて、僕たちは大忙しになった。
結局、お昼をちょっと回った頃には作る方に手が回りきらなくて売り切れちゃって、休憩ってことでいったんお店を閉めるハメになった。
うん、大繁盛! って感じ。ちょっと疲れちゃったけどね。
「追加の果物と材料、買ってきたぞ」
「ありがとうございます、フィブリアさん」
三口コンロだけじゃ足りないから、魔法石の加熱を使って作ってると、フィブリアさんが戻ってきてくれた。
っと、そろそろお昼にもしないといけないな。
そうだ、あれを使おう。
「そろそろお昼にしましょうか」
「ああ、そうだな、そうしてくれると助かる」
よーし、腕によりをかけちゃうぞ、と。
大繁盛しまくり。
次回はお昼ご飯です! 美味しい美味しいメシテロがまってますよ。
どうぞお楽しみに。
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