ふわふわオムレツと開店準備!
――小鳥のさえずり。
僕はゆっくりと目覚めた。んー、まだ眠いな。
むくっとベッドから起き上がって、小鳥のさえずりを耳にする。そっとカーテンを開けると、まだ朝日が昇り始めた頃だった。
朝市ならちょうど始まるぐらいの時間。
「んん、起きないと」
ちょっと肌寒いなぁ。僕はパチンと指を鳴らして、自分の周囲にヒーターの魔法をかける。これなら外気温も気にしなくていいんだよね。
パジャマ姿のまま外に出る。
んー、空気が新鮮だなぁ。
ゆっくりと伸びをしてから、水を呼び起こす。
タライいっぱいに水をはって、顔を洗ってから歯磨き。終わる頃にはしゃきっと目が覚めていた。うん、いい感じ。昨日、ちょっとだけ遅かったけど、よく眠れた。
「……朝か」
「あ、おはようございます、フィブリアさん」
「ああ、おはよう。世界が無事なことをこれほど嬉しいと思った朝はないな」
あ、本心だ。
昨日、僕が使った《創造魔法》の影響のことだろう。
無から有を生み出す《物質創造》は神魔法。完全に世界法則を逸脱するもので、どんな影響が出るかわかったもんじゃない。
うーん、僕は精霊さんから教えてもらった理論を構築して完成させたものだから、たぶん大丈夫だとは思うんだけど、危険なら使わないに越したことはないよね。
フィブリアさんもタライに水をはって朝の準備を済ませる。髪を器用に後ろで束ねる姿が決まってるなァ。ポニーテールってやつだったっけ?
「さてと。朝ごはんにしましょう。今日は朝から気合い入れないといけませんからね」
「ああ、店をオープンさせる日だからな」
「はい!」
そう! 今日は記念日だからね。
僕は腕をまくって力こぶを作り、むふーっと鼻息を鳴らす。
すると、フィブリアさんはおかしそうに笑った。
「ふふっ。店がどれだけ繁盛するかは分からないが、俺も手伝うぞ」
「え、いいんですか?」
「むしろ手伝わない理由なんてどこにもないだろう? 俺もここに住んでるわけだからな」
「フィブリアさんって、本当に優しいんですね」
「魔族にそんなことをいう人間、初めてだ」
優しい魔族も初めてですけどね。
とはいえ、手伝ってくれるなら大歓迎! 状況によっては僕は調理に専念できるから。
うまく繁盛してくれるといいな。
でもその前に朝ごはん朝ごはん。気合い入れるぞーっ!
僕は馬車をキッチンモードにチェンジさせて調理にかかる。へへ、冷蔵庫から取り出したるは……一晩寝かせたパン生地! レシピは基本のパンと変わらないけど、今回のはちょっとリッチに牛乳が入ってて、こねすぎないように注意したもの。こねちゃうとサクサクにならないからね。
あ、後は室内を冷やしておかないとね。
じっくり発酵させたからパンパンに膨らんでるから、まずはガス抜きして。
それからバターを包んで、生地になじませていく。
温かくすると生地がダメになる可能性があるから、手も冷やしながら、と。生地をしっかり冷やしつつ、折り込んでは伸ばし、折り込んでは伸ばしを数回繰り返す。
完了したら、クールタイムを挟んでから生地をしっかりと伸ばして、三角形にカット。後はくるくるっと巻くだけ。
後は二次発酵! 乾燥させないようにね。
それができあがったら、卵液を塗って、オーブンで焼く。焦がさないように火加減だけは注意して、と。
じゃ、その間に次を作っていこう。
冷蔵庫から……大きいベーコン!
市場で買っておいたんだよね。見事な燻製! それに脂と赤身のバランスもいいし。結構お手軽な値段で手に入れられたんだよね。ふふ、市場って最高かも。
今日は贅沢に使おう。
ざくっと厚めに切って、フライパンに乗せて加熱する。
ステーキと同じようにじっくりと温めてから、表面をカリカリになるように焼く。染み出してきた脂からすっごいいい香りがする! これを上手に使うんだ。
まずは卵黄と、牛乳、塩をいれて。
よーくかき混ぜる。
それから卵白だけでメレンゲを作る。一気に高速で泡立てるのがコツだよ。
しゃかしゃかしゃかっ!
うん、きれいにふっくら。
完成したら卵と混ぜていく。さっくりと切るようにして混ぜるだけで、しっかり馴染んでくれる。後はこれを焼くだけ。
ベーコンの脂はしっかりとあるので、風味付け程度にバターをちょっとだけ入れて、中火で溶かして混ぜてから、卵を注ぎ入れる。そっとね。
後は蓋をして、待つこと数分。
「よし、いい感じ」
蓋をあけると、ふわっふわのオムレツ! これを二つに優しくたたんで、お皿にサーブ。
厚切りのベーコンと、レタスとトマトを添えて。後は粗熱の取れた――クロワッサン! 後は牛乳を注げば、ちょっと豪華な朝ごはんのできあがり!
「フィブリアさん、できましたよ。すぐに食べましょう」
このオムレツ、時間が経つとしぼんじゃうからね。ふわふわの内に食べないと!
さっとテーブルに並べて、イスに座る。
「これはまた美味しそうだな」
「はい。間違いないですよ」
「じゃあ、いただきます」
フィブリアさんは手を合わせてから、オムレツにスプーンを入れる。
見るだけで驚くような柔らかさでスプーンが入った。フィブリアさんも「おおっ」と小さく声を出してる。
うんうん。我ながら上手に出来たから、その反応は嬉しいなぁ。
「すごいな……ふわふわで、すぐに溶けた。なのに、舌にはしっかりとオムレツの風味が残る。一体なんなんだ、これは」
「はい。オムレツですよ。作り方がちょっと特別で、南欧の郷土料理でもあるんです」
「郷土料理?」
「南欧は食材が豊かなんですよね。だから、こういう料理も発展してるんです」
だから、この旅でもいく予定なんだ。見たこともない郷土料理もあるかもしれないし!
嬉しい気分になりながら、僕もオムレツをすくう。
手応えがあったのは最初だけ。それも本当に少しで、さくっと切ると、後は抵抗らしい抵抗なんてない。鮮やかな黄色は見た目にも美味しそう。
「あーんっ」
ん、んん、んんん~~っ。
ふわしゅわっ! すぐに溶けちゃうよー!
美味しいなぁ。
火加減が本当に大変なんだけど、これは大成功だね。
「このベーコン分厚いな」
「はい。いいベーコンなので、ステーキみたいに仕上げてみました」
「うむ。肉が綺麗なピンク色だ。燻製してあるから、肉の匂いがぎゅっと詰まってるし」
「すごく香ばしいですよ」
僕もナイフで切り分ける。
じゅわ、と、切り口から脂がしみだしてくる。すごいなぁ。よだれが溢れちゃうよ。
ざくっ。
表面はカリっと、中はふっくらジューシー! 噛むだけ凝縮された肉の旨味が炸裂するって感じだぁ! 肉の美味しさが残ってる間にレタスを、と。
シャクシャクと歯切れがいい。サッパリと瑞々しさが肉の脂と混じり合って、新しい美味しさに変化する。ふふ、たまらない。
「おおっ、このパン、なんだ! パリパリだな!」
「クロワッサンっていうんです。ちょっと作るの難しいんですけど、その分美味しいですよ。牛乳とすごく合います」
「うむ。パリパリ、さくさく。香ばしさとバターの芳醇な風味が口の中に広がって、じわっと甘くなってくる。この時に牛乳を一口したら、倍増だな!」
「語りますねぇ」
こぼれるくらいの笑顔だ。
「なんだかグルメになった気がする。しかし、グルメな魔族って、どうなんだかな」
「いいじゃないですか。もう平和になったんだし」
「それもそうなんだがな」
何より、美味しいものの前に誰もが平等ですからね。
っていうか、いいながらフィブリアさんしっかり完食しちゃったし。おそまつさま。
後片付けを完了させて、僕は開店の準備を始めておく。
ゼリーはいっぱい作っておかないとね。ジャムから作らないとだから。
三口あるコンロを全部使って、一気に作っていく。
分量はもう機能で全部調整できてるからね。
朝ごはんをスレイプニルさんにもあげて、町の入り口近くまで馬車を運んでもらう。大通りなら馬車も通過できるんだけどね、屋台通りは進入できない。
だから近くには厩がたくさんある。でもスレイプニルさんをそこに繋げるのはちょっと、と思ったから、入り口近くまで。
後は森で好きなようにしてもらう。
自由な方がいいだろうしね。
馬車にはちゃんと、人間がひけるようにもなっている。
「よいしょっと」
「よしまて」
あれ、早速ストップがかかった?
フィブリアさんは大きくため息をつく。
「お前な。この馬車は少し大型だ。並の人間なら、この馬車の前方にある取っ手を握って、両手でぐっと押してやっと動かせる程の重さだ」
「詳しいですね」
「人間の運動能力は研究しているからな。そうじゃなくて。そんな人差し指一本で動かそうとするな。怪しまれるだろうが」
「あらら、そうなんですね」
「お前はまったく……ほら、見せてやるから。こうやるんだ」
というフィブリアさん指導が入って、僕らはやっと開店場所まで辿り着いた。
出店場所は、大体エリアで決められている。出店回数や人気の具合によってエリアが割り振られるシステム。ベテランのお店となると定位置みたいなのが決まるみたい。
僕らは新人だから、一番ざっくばらんとしたエリアだ。
つまり、早い者勝ちってこと。
ちょっと早めに着いたつもりだったけど、もう何店かが準備を始めていた。
すごいなぁ。
「屋台で生計を立てているものも多いだろうからな。これぐらいは当然だと思うぞ」
感心していると、フィブリアさんがそっと耳打ちしてくれた。それもそうだね。
「じゃ、ここで設営しますか。っていっても、看板立てて、丸イスを幾つか並べるくらいですけどね」
馬車は対面式のカウンターにもなってるから、注文の受付も会計も受け渡しも、全部ここで出来ちゃう。だから他の屋台みたいに、テントとかを設営する必要はない。
便利だなぁ。
「他に用意するのは、メニュー表くらいか?」
「はい。木彫りのやつを用意してあります。ちょっと不格好になっちゃいましたけど」
「これくらい大丈夫だろう。手作り感があって逆にいい」
フィブリアさんは髪をまたまとめ、エプロンをつける。
「俺は受付と会計をするから、お前は受け渡しと調理に専念しろ」
「はい。よろしくお願いします」
事前の打ち合わせ通りだね。
開店許可の時間まで、後二十分くらいかなぁ。あ、お隣さんも設営した。
こっそり観察してみよう。
タオルでおでこあたりを巻いた店員さんが、手際よく設営していく。組み立て式だけど、簡略化されてる。強度もしっかりとありそうだ。ということは、長年やってるのかな。だとしたら、このエリアで出店なんてちょっと意外、かも?
設営と同時に簡単なキッチンも作られる。鉄板と、大きい鍋だ。
ほとんど同時に調理も開始。
本当に効率化されてるなぁ。あ、いい匂い。
「肉の匂いだな」
「いいお肉ですね。鉄板で焼くといい感じですね」
役所の人に、隣同士は挨拶するものって教えてもらったからね。
僕は調理をしながら指示を出している、リーダーらしき人の前にいく。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「おう。よろしくな。見ない顔だけど、今日からかい?」
「はい。今日からです」
「そうかそうか。俺はマルタ。この店はゼールって店の二号店なんだ。一号店だけだと間に合わないからさ、増設みたいな感じだな」
なるほど、そういう事情なんだ。勉強になるなぁ。
「一号店からは離れてるから、あまりお客こないんだけどな。それでもお昼くらいになると行列できちゃう時があるんだ。がんばって整理して迷惑かけないようにするけど、もし足りてなかったら遠慮なくいってくれな」
「わざわざありがとうございます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、丁寧にありがとうね。そうだ、他の店にも挨拶しにいくのか?」
「はい」
「それなら、反対の隣の店には注意しろよ」
マルタさんはちょっと険しい表情を見せながら教えてくれる。
「あの店は、あまりよくないから」
「え、そうなんですか」
「ああ、気をつけろ。えげつないからな」
このオムレツも再現可能ですよ。火加減に注意!
次回もおいしいご飯のお話をお届けします。
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