表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

冒険記と果実ジャムの炭酸ゼリー

 馬車のキッチンは、本当に設備が整っててやりやすい。

 それだけに手入れしてあげないと、と思ってたけど、驚きの自動洗浄機能つきだったみたい。ほんと、兄さんはすごいものを作ってくれたなぁ。感謝感謝。


「さて、早速作りますか」


 使うのは、安売りされてた果物。

 果物はフレッシュなのが美味しい。ちょっと古くなったら安売りされるのは、どこでもいっしょ。でもその果物もちゃんと使い道があって、美味しくできるんだ。

 僕的にはまだまだ食べられるんだけどね。


 しゅるる、と、エプロンをまいて、手を洗って。


 よーし、作りますか。

 まずは果実を切っていく。半分に切って、半分はミキサーみたいに砕いて、残り半分は角切にして、果実感を残す。

 後は塩をひとつまみして、はちみつをいれて、コトコトと煮込む。弱火でじっくりね。とろっとなってきたら、レモンを少し絞って、できあがり。

 冷蔵庫にいれて常温になるまで冷やしておく。


 これでお手製のジャムの完成。簡単で美味しいんだよね。焦がさないようにするのが大変なので、目は離せないんだけどね。


 これを数種類作る。

 使う果実は、いちご、りんご、マスカット、ブルーベリー、ゆずの五種類。

 それぞれ、はちみつの分量とか煮込む時間とかが違うから注意が必要。素材の味を活かすためだからね。ここは繊細だから注意が必要なんだ。

 全部作り終えたら、この子の出番。


 アガーだ。


 凝固剤っていえばいいのかな。ゼリーとかプリンとか、ものを固めるのに使うんだよ。

 透明度が高くて、ぷるっぷるに仕上がるんだ。

 まずはこれと砂糖と水を入れて、火にかける。

 注意が必要なのは温度。沸騰させたらもちろんダメだけど、固まるのも早いから手早く調理しないといけない。かなり繊細なんだ。


 それと、酸味があるものと一緒に煮立たせると固まらないから、別々にするのがコツ。


 くつくつと温度を大事にしながらアガーをまぜて、火を止める。後は常温になったジャムと炭酸水を入れてよく混ぜる。

 この炭酸水がミソなんだ。ぷるぷるなのに、しゅわしゅわになるんだよね。


「ほう、何を作ってるんだ?」

「あ、おかえりなさい」


 馬車に戻ってきたのは、運動をしてきたフィブリアさんだ。

 動かないとなまるんだって。

 その気持ちはわかる。僕もたまには運動するし。


「ゼリー作ってるんです」

「む? ゼリー? なんか昔食べたことあるような気がするな」

「そうなんですか?」

「人間の国を支配した時、上納品としてもらった気がする。なんか動物の骨とか内臓とか血とかまみれで美味しそうではなかったがな」

「血腥そうですね、それ……」

「部下に食わせたが、食えたものではなかったようだ」


 はは、と僕は苦笑した。

 確かに魔族の人って、何を食べてるか分からないもんなぁ。フィブリアさんから粗食っていうのを学んだぐらいだもん。

 というか、魔族が元々人間だって知ってる人なんてほぼいないんじゃないかな。兄さんはたぶん気付いてる。だから和平協定とか結んだんだろうし。


「まったく。魔族だって味覚は同じなんだがな」

「それはたぶん、カルアリア冒険記の影響が大きいかもしれませんね」

「カルアリア冒険記?」


 きょとん、と首を傾げるフィブリアさん。


「人間の世界で大流行した冒険記です。魔族の世界の冒険を記したものですね。ものすごく面白かったんですよ。僕も持ってますよ。見てみますか?」

「ほう、興味があるな。けど、今は料理作ってるのではないのか?」

「大丈夫ですよ。ストレージに入ってるんで。《召喚》」


 人差し指を立てると、ぽんっと煙があがる。ふわふわと出てきたのは、分厚くて大きい本。挿絵がたくさん入ってるからこのサイズなんだよね。

 本はそのままフィブリアさんの手元へ。

 って、あれ? なんでフィブリアさんぽかーんってしてるんだろ。


「訊くんだが……ストレージっていったか?」

「ええ。いいました」

「それ、亜空間だよな?」

「そういわれてますね。あ、でも兄さんも持ってますよ?」


 あ、ゼリー固まってきた。わぁ、綺麗な色だなぁ。


「……だからアイツは……あの時の戦いで……そっか、ううむ……」

「あの、フィブリアさん?」

「いいか、タクト」


 がしっと、フィブリアさんは僕の肩を掴んだ。

 な、なんだろう、力が強いんですけど? あれ、あれー? フィブリアさん、顔が怖いですよー。ガチな感じですよー?


「このことは絶対に誰にも話すな。いいな?」


 あ、これ逆らったらいけないヤツ。


「あ、はい」

「もし誰かに見つかったら、その瞬間この旅は終わると思え?」


 え、そんなにマズいのかこれ。

 使っちゃいけないんだな。覚えておこう。色々と便利なんだけどなぁ。あ、ゼリーを作らないと。いちごのが出来たから、次はマスカットかな。


「わ、分かりました」

「まったく。お前は本当にびっくり人間だな。油断も隙もない」


 び、びっくり人間って。まぁいいですけど。


「と、とりあえず、本、読みます?」

「そうだな、気になるし。しかし分厚いな」

「一ページあたりの文章は少ないですよ。絵本に近いので」


 説明しつつ、僕は続きを行う。

 さて、マスカットも完成。次々と作っていこう。出来たら冷蔵庫でしっかりと冷やしていく。この時揺らさないようにしないとね。揺れると固まらないことがあるから。

 時間がかかるのが難点だなー。

 魔法を使ったら簡単だと思うけど、氷雪系ってちょっと苦手。使えないことはないんだけど、コントロールが難しくって。失敗すると山一つ氷漬けにしちゃうからなぁ。


 お。


 冷蔵庫になんか面白い機能あるぞ。急速冷蔵。対象物を一気に冷やす、か。いいね、これ。やってみよう。さっそく操作して、と。

 魔力をちょっと吸収するみたいだね。でもこれくらいなら全然余裕。

 ふふ、楽しみだなぁ。


「こ、これはなんだ……!?」


 キッチンのテーブルで本を読み始めていたフィブリアさんが、顔を引きつらせていた。


「どうしました?」

「この冒険記、内容がめちゃくちゃじゃないか。魔族の世界にこんなものはないぞ!」

「こんなもの?」


 たずねると、フィブリアさんは本のページを開きながら見せてくる。


「マグマ風呂とかだ。魔族だって、なんの対策もなしでこんなもので入浴したら溶けてなくなるわ。骨まで溶けてなくなるわ!」

「え、そうなんですか?」

「まて。今素でびっくりしたな? 素でびっくりしたな?」

「ああああ、思いっきり詰めてきちゃダメです、ダメですってば」


 ぐいぐいくるフィブリアさんの肩をなだめながら、僕は苦笑する。

 もう、びっくりだよ。二重の意味で。


「っていうか、これ、宗教の経典を除けば世界一売れてる本なので、たぶん、ほとんどの人たちが知ってますよ。これをもとにしたサーガとかも作られてるくらいですし」

「な、なんだと……?」


 さらに愕然とするフィブリアさん。


「吟遊詩人さんの定番曲にもなってたりしますしね」


 あ、膝ついた。


「……頭が痛くなってきた。これじゃあ誤解生まれまくりだろう……」

「誤解だって普及します?」

「それは勇者に任せる」

「じゃあ手紙にしたためておきますね。東の町についたから、報告の手紙出したくって」

「ああ、頼む」


 よろよろと起き上がりながらフィブリアさんは盛大にため息をついた。

 ああ、テンション落ちちゃったな。

 これはゼリーを食べてもらって元気になってもらおうかな。

 ちらりと冷蔵庫を見ると、ちょうど取っ手の部分が緑に発光した。あれ、どうなってるんだろう。疑問だけど、分解するわけにはいかないっていうか、そもそも僕にはどういう構造なのかも全く分からないしなぁ。


 とりあえずゼリー出しちゃおう。


 冷蔵庫をぱかっとあけて、ゼリーを取り出す。ああ、綺麗に出来てる。

 うーん。ぷるぷるのふるふるだぁ。色も綺麗!

 しっかり半透明に出来てるし、果実の粒々も残ってるから、宝石みたい。すごいなぁ。


「ほう、綺麗だな?」

「はい。味見してみますか?」

「うむ」


 僕は早速お皿に盛りつける。グラスに入れると綺麗だな。あまり衝撃を与えると離水しちゃうのでゆっくり、と。

 そっとテーブルに出して、スプーンを渡す。

 フィブリアさんはそっとすくって、ぱくっと一口。


「んっ、美味しいな、これは」

「そうですか? よかった。初めて作ったから」

「滑らかでぷるぷるなのに、しゅわしゅわする。だからなのか? 甘さがゆっくりくるな。けど、果実っぽさもあるし、食感もある」

「ええ、甘さはしっかりと調整してるので」


 ここが一番苦労したところなんだけどね。

 ああ、でも美味しそうに食べてくれてよかったぁ。


「果実の甘さも酸っぱさもしっかり出てるな。それぞれの違いが分かりやすいし、みずみずしい。とても美味しいぞ。これを販売するのか?」

「はい。これならイケるかなって」

「うーん。確かに美味しいし見た目にも綺麗だから、売れるとは思うが、どうやって持ち運ぶんだ? 柔らかいし、形も崩れやすい。手でつまむには不向きだぞ」

「確かに……器とスプーンを用意したら、そこから動けなくなっちゃいますものね」


 もちろん使い捨ての容器を考えるのも手ではあるけど……それだとコストが高い。値段があがると、売り上げに直結する。

 ここの町の屋台は比較的安価だから、余計にシビアだ。


 だとすると、他に何か……。何かあったような……。

 

 顎をさすりながら記憶を掘り起こしていく。

 何かあったような……ん? あ、あった! あれなら使えそう!

 僕は早速キッチンに向かって、今朝かったばかりの品物から見つける。珍しいからって買ったんだよね。


「どうした?」

「これを使えば、なんとかなるかもしれません」


 僕は袋を取り出し、口を開けてからゆっくりとすくう。


「それは……? コメ、か?」

「はい。もち米です」


 起死回生のアイデアが、ここにある。


冒険記にはもっとスゴイことが書いてあったりします。

炭酸ゼリー、色合いを気にしないなら、ゼラチンでもいいです。アガーは手に入りにくいので……


次回甘いお話です。

ぜひぜひチェックしてください!

応援、お願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よかったらTwitter等で作品のシェア、お願いします! 小説家になろうSNSシェアツール
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです

新連載はじめました! 追放ものです! ぜひ読んでお楽しみください!
料亭をクビになったけど、料理人スキルが最強すぎたので傭兵やることになりました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ