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特殊執行鬼 ネロ+  作者: 田中志摩貴
1/27

その1 


*

 僕は正義の味方が好きだ。

 物心がついた時にはすでにテレビに囓りついて彼らを応援していた。最初は行儀良く正座していても、興奮のあまりつい片膝を立てて身を乗り出してしまう。懸命に声を張り上げてヒーローの名を叫んだ。劣勢に追い込まれた時には、悔しさのあまり口汚くわめき散らしたこともある。

 悪を成敗するために躊躇なく駆け出し、跳び、変身し、戦い、仲間と力を合わせて難敵を打破する。彼らはいつも強かった。テレビが終わると、僕は地球の平和を確信し、安心して公園へ出掛けたものだ。

 放送上の問題なのかテレビ局との契約が満了なのか、番組が終わる時はいつも悲しかった。彼らとの別離を受け容れたくなかった。

 けど――僕の思いとは関係なく、すぐに新しいヒーロー番組が始まる。

 はじめは新しいメンバーに馴染めず、僕は悪態をついた。こんなのレッドじゃない。ピンクなんていらない。ブルーが目立ってない。顔がヘンだ。キックが弱い。些細な部分に難癖をつけては、ぶつぶつと文句を垂れ流す。

 それも何週か見続けていると、新しい彼らも僕のヒーローになる。そして熱狂する。応援する。彼らの強さに酔いしれる。

 彼らが実在のヒーローではなく、特撮による架空の存在だと知った時は布団をかぶって心から泣けた。

 思えば、僕が大人になった瞬間はあの時だろう。

 サンタはいないと知っていたのに、ヒーロー戦隊は実在すると思いこんでいた。一度もヒーローショウを見学していないのに、なぜ僕は一度も疑わなかったのか。

 裏切られた悲しみで目が曇り、二・三週ほど番組を正視できなかった。膝を抱えて、恨みがましい念をテレビの奥へ送り続けた。だがそれも翌週には忘れていた。


 僕は正義を信じる。

 ヒーローが悪に負けることはない。


 いつしか僕は、自分がヒーローになれる場所を追い求めるようになった。

 僕が憧れてやまない夢の舞台は「司法省」。

 簡単に説明すると、社会秩序を保つことを念頭におく国の行政機関のひとつだ。

 民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法などの基本法制の維持及び整備をする。そして検察、行刑、恩赦、戸籍、登記、人権擁護、人権保護など出入国管理や国の利害に関わる法務も担当し、他にも公安審査委員会に代表される外局も抱えている。

「立法・行政・司法」

 国の骨格とされる権力を大きく三つに分けた国家作用。三権分立を習ったのは何年生の頃だろう。最初は司法という言葉の響きに公平さと強さを感じて、どうしようもなく引きつけられた。

 これが天職かもしれないと閃いてからというもの、僕の生活は司法一色に染まった。

 とにかくがむしゃらに勉強して勉強して、頭がおかしくなるくらい勉強した。おかげで学生時代の青春が欠落したし、一般常識や流行にはさっぱりついていけない。恋愛はおろか友達もほとんどいなかった。

 しかしマイナス面ばかりじゃない。

 この多大な犠牲を払ったお陰で、先日ようやく成果が実る。

 僕――姿見ハル(十六歳)の名が記載された合格通知が司法省から届いた。声を失い、茫然自失となった。周囲は驚嘆したし僕も狂喜乱舞したが、旧司法試験の第一次試験に合格しただけでは、法の番人として司法権を行使することは許されない。

 まだスタートラインについただけだ。

 ただそれだけ。 

 とはいえ、舞台に上がれた満足感と達成感は途方もない至福を味わわせてくれた。努力はいずれ報われる。夢が叶えば、苦労のすべては笑い話になるだろう。

 僕はそう信じて、朝食の席でもせっせと参考書のページをめくる。


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