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7 結成

二話連続投稿です。

 唐突だが、遭遇戦において最も重要な能力は索敵能力だと言える。

 例えどんなに屈強な戦士で全身鎧を纏っていたとしても、相手を見つけることができなければ気付かぬうちに鎧の隙間から短刀を差し込まれて呆気なく倒されてしまうだろう。

 街中、山中、草原。あらゆる場所で「先に見つけ出し、先手を取る」ことが出来るのであればそれは圧倒的なアドバンテージになる。


 もちろん索敵能力単体では敵に傷一つつけることはできないが、効果的な攻撃を可能とする道具や仲間がいるのであれば突出したその力は必ず武器となる。

 なぜこの様な話を始めたかと言うと理由は単純だ。


 「索敵に秀でていても魔物を倒すだけの力がない、と」

 「獣人として恥ずかしい話だがな。…どうだ?無茶な願いだと言うのは理解している、しかし…」


 クオンガロラ、と名乗ったこの黒猫は所作の一つ一つに音がなく、目を瞑ればそこにいるのかすら疑わしいくなるほどに気配が薄い。

 しかしその身のこなしは自分で言うだけあって戦闘に慣れたもののそれではなかった。少なくともライをはじめとした先輩冒険者は勿論、俺と同じくらいの駆け出し冒険者と比べても戦えないことがわかる程度に。

 だが──。


 「むしろこちらからお願いしたいくらいだ。…最低限の自衛手段はあるんだよな?」


 だが、直接戦闘が出来ないことはそこまでの問題ではない。

 討伐依頼をこなすにあたって俺の戦闘回数が減ることにはならないが、孤立した魔物を探し出したり最低限気を引く役目をしてくれればそれだけで戦いはぐんと楽になる。

 ゆくゆくは彼も戦闘が出来るようになってもらうため、一緒に訓練をする予定ではあるが。


 そして件の黒猫はその目を見開いてわずかに動揺を見せた。あっさり受け入れられるとは思わなかったようだった。


 「…あ、ああ。それは勿論だ。しかし良いのか?ヘマをすればお前は足手まといのオレを連れて動くことになる。それに…」

 「組みたいのか組みたくないのかどっちだよ?クオンガロラ…長いな。クオンだけなら安全に逃げられるんだろ?」


 急にデメリットばかりを挙げ始めるクオンガロラを制止する。

 なんとなくだが、彼は余程の大軍にでも追われない限りすぐに視線から逃れて上手く帰ることができそうに思えるのだ。

 そしてその推測は当たったようで、クオンガロラが口角を上げると鋭い牙が覗いた。


 「まぁな」


 オレだけが生き残っても文句は言わないでくれよ、と言いたげに肩をすくめると、踵を返して馬小屋を出て行く。


 「どこに行くんだ?」

 「どこって…ギルドだ」


 それだけを言ってまた歩き出す。

 付いて行くべきか迷ったが、それも一瞬のこと。パーティを組んだのだから余程プライベートな…それこそ寝床でもない限り一緒に行動しても構わないだろう。

 奴はパーティを組む前から俺の寝床に入ってきたわけだが。


 日は僅かに高く登り、あと二時間もしないで正午を迎えるだろう。

 比較的健康的な生活を送っている冒険者達が起きてくる時間帯だ。その為、ギルド内は夕方と比べて遥かに閑散としていた。

 クオンガロラがコートの襟を立てた。顔を隠すかのようなその動きに首をかしげる。


 「…あまり目立ちたくはない」


 気配で察したのか、振り返ることもなくつぶやいた。やはり獣人迫害のようなものがあるのだろうか。それ以上はお互い何も言うことなく、静かに受付に向かった。途中通り過ぎたテーブルで男が顔をしかめるのが見えた。

 街中で奴隷を見かけたりしたことはないので、そこまで酷い扱いを受けているとは思えないが、嫌悪感を向ける人はいるようだ。


 「おはようございます。本日はいかがされましたか?」


 受付嬢は嫌な顔一つせず微笑を浮かべている。ユティアさん、だったか。しょっちゅう粗暴な冒険者の相手をしているにもかかわらず疲れた顔一つせずにいる。すごい人だ。


 「パーティを組んだから報告に来た。リーダーはこいつだ」


 美人の微笑みを見ながらぼーっとしているとクオンガロラが唐突に俺に話を振ってくる。なるほど、パーティ結成の報告のためにって待て待て待て。


 「俺がリーダーなのか?クオンじゃなく?」

 「決まっているだろう、オレが組んでくれと頼んだんだ。それに──」


 言葉を途中で切ると、声のトーンを落として囁く。


 「──獣人がリーダーは目立つ。オレは目立ちたくないからな」

 「…」


 そう言われては頷くほかない。

 何か問題が(どっちでもいい)御座いますか?(からさっさとしろ)、そう言いたげな受付嬢の笑顔も手伝ってやり取りはとてもスムーズに終了した。パーティ名の欄は空欄で出した。



─────



 「何故パーティ名を書かなかったんだ?」

 「急に言われても浮かばないって」


 掲示板に貼ってある依頼書を見ているとクオンガロラが口を開いた。


 「ほう?」


 いや、ほう?じゃないよ。サンタかよ。

 興味深そうに俺の方を見るクオンガロラの方を一瞥する。


 「年頃の男であれば皆自分だけのパーティを組むことを考えて名前に想いを馳せるものだと思っていたがな」


 面白い…。そう呟いて依頼書に目を戻す黒猫。考えてみればここは剣と魔法の世界だ。図書館で見かけた文献にも英雄のパーティがどうこうという話が載っていたし、割とポピュラーな話なのかもしれない。


 「…余裕がなくてね。まぁ考えとくよ」

 「楽しみにしておこう」


 何が楽しみなんだ。もしメンバーが増えるようなことがあったら付けてもいいかもしれないが。

 そうこうしているうちにだんだんとギルド内の人口密度が上がってきたので、俺達は適当な依頼書を手に取ると、パーティを組んで初の依頼に向かうことにした。


 顔見知りの衛士に片手を上げて挨拶すると、街の外に踏み出す。

 何度来ても日本では見ない木々や聞き覚えのない鳥の鳴き声など、慣れることのない異世界感に浮き足立つ。


 「さて、依頼をこなそうか」


 森に向かって歩き出すと、ギルドからずっと無言だったクオンガロラが口を開いた。


 「…何故採取依頼なんだ?」


 俺は笑顔で答えた。


 「討伐依頼に行くには準備が足りないからだ」


 瞑目して肩をすくめるクオンガロラに苦笑する。魔物とやりあうなら最低限の連携訓練くらいはしてからだろう、と内心呟くと目的の薬草を探すために歩みを進めた。

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