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6 始動

 俺がようやくギルドの受付嬢や恩人であるライ達冒険者と会話ができるようになって早三週間が過ぎた。

 やはりカタコトでは伝わらない細かい言い回しは円滑なコミュニケーションを取る上でとても重要なことだと改めて理解する。というのも、ライやその他冒険者と思いの外打ち解けることができたからだ。


 「にしたってお前、ウルフに追われたからってあそこまで焦るかよ!」


 冒険者の一人、ジェームスが俺の肩を叩きながらゲラゲラと笑っている。ジェームスはライ程ではないもののなかなか良い体格をしているため、普通に痛い。


 「うるさいな、新人冒険者なんだから立ち向かわなくて正解だろ!」

 「もう二ヶ月も経つのに新人を名乗るかよ…。…。思い出したら笑えてきたぜ!ははは!」


 こちらが睨み付けると笑いが収まるのだが、そのまま睨み合いをしていると向こうが段々と表情を崩して笑い始める。この調子でジェームスは体感三時間くらいは笑い続けていた。


 「はぁ…。まあいいや、今日は疲れたから稽古はなしで。また明日!」


 腹を抱えて笑う男を見ているうちに、今日何度目かも知れない嘆息が漏れる。俺は一刻も早く休みたいと訴える体に従い、ギルドを出た。後ろから聞こえてくる声は無視だ。

 稽古というのは俺の戦闘訓練のことで、ベテラン冒険者に武器の扱い方や基本的な立ち回りを教わる為のものだ。と言ってもこの世界ではそういった訓練は一般的ではなく、先輩冒険者に指南する新人など初めて見たと言われた時には驚いたが。


 そして俺が戦闘訓練を受けていた理由だが、言葉が通じるようになったから──だけではない。

 毎日のようにクエストに出ていた結果、どうにかギルドのランクを最低のFからEに上げることができたのだ。


 ライと俺のギルドカードの色が違った為に予想はついていたが、やはり冒険者ギルドはランク制であり、上に行くにつれて受けられるクエストの幅が広がると聞かされた。

 それにより俺は採取ではなく討伐、つまり戦闘自体を目的としたクエストを受注することができるようになったというわけだ。


 とはいえ、はぐれゴブリン程度ならどうにかなるなんてレベルではお話にならない。討伐依頼の場合、ゴブリンやウルフ──狼型の魔物だ──のような単体では大したことない魔物ならば5体や10体の討伐が最低条件。今の戦い方ではゴブリンを1日に2体狩れればいい方だし、ウルフに至っては未だに倒せる気がしない。

 一つの依頼に5日も10日も掛けていては、いくら討伐の報酬が割高とはいえ飢え死んでしまうだろう。

 それにだ。

 ギルドには身体能力、ゲーム的に言えばステータスを測るための魔道具がいくつかあり、ランクがEに上がると同時に体力試験のような形で俺もステータスを測ってもらったのだが、力、速度、防御力、体力、魔法力の項目のうち速度以外が最低のF。少しマシな速度もEという絶望的なものだったのだ。


 この世界の同年代の平均と比べても下。下手をしたら10歳の少年にも劣るかもしれない、と言われてしまい、否応無く現実を知る羽目となる。

 あちこちから流れてきた近い年の少年達が毎日のように魔物に殺され、機械的に処理されていく光景。ステータス的には俺より一回り以上強い奴らが勝てない相手にどう勝てというのか?


 簡単なことだ。勝てるまで鍛えればいい。俺の地力が他の新人冒険者や魔物にも劣るのならば、装備や知識を万全に備え、勝てる部分を作り出せばいいだけのことだ。

 そう考えた俺は採取依頼で少しずつ貯金を続けては少しずつ装備を整え、酒場で暇そうにしている先輩冒険者に教えを請い、時には街の外での戦闘を見学したり戦わせられたりして準備を整えている。


 「…とはいえ、パーティは組みたいなあ」


 慣れすぎて臭いすら微かになってしまった馬小屋でひとりごちる。馬が鼻を鳴らす。

 ギルドの馬小屋は偶に宿代を稼ぐまでの繋ぎとして冒険者がやって来る。やって来るが、一週間程度でいなくなる。死んだのか宿に移ったのかは知らない。どちらにしてもそうなるとギルドの酒場では見かけないからだ。


 俺のように宿代をケチって馬小屋に泊まり続けるような奴はパーティを組んでくれると思っているのだが。

 パーティを組めれば効率は格段に上がり、討伐依頼をたくさんこなしてすぐにお金を稼げるらしいし、もし組んでくれる人がいればもうそろそろ討伐依頼に出てもいい、とも思っている。


 「考えていても仕方ないか。暇なときにでもそこらへんの奴を捕まえようかな。…おやすみ、ラリー」

 「ブルゥ…」


 隣で寝ている馬のラリーに声をかけると、こちらを向いて鼻を鳴らす。

 明日からのことを考えていた俺は気付かないうちに眠りに落ちていた。



─────




 「お前がイズミか。…まぁ、神経は図太いようだな」


 翌朝。目を覚ました俺が見たのは馬小屋の入り口にもたれかかり、腕を組んで片目を閉じてこちらを値踏みするように眺める黒猫の姿だった。


 「俺がイズミだ。…どちら様で?」


 正確に言うと人間の体に猫の頭を乗せたような、いわゆる獣人というやつだろう。俺とそう背も変わらないようだが、やけに様になっている。

 ギルドの敷地内であることと名前を知られていることから十中八九ギルド関係者だろう。しかし目的がわからない。魚なんて持ってないぞ。


 「いや、な。説明すべき理由はいくつかあるのだが、ここは単刀直入に言おうか。オレとパーティを組んで欲しい」


 少し逡巡するそぶりを見せたあと、まっすぐにこちらを見て黒猫はそう言った。

 共に戦う仲間を探そうとした矢先にこの申し出。誰かに心を読まれたんじゃないかと言うくらいのタイミングだ。まさに渡りに船というやつだろう。

 だから、俺の答えは決まっている。


 「名前と理由を聞かせてもらってもいいかな」

 「あ、はい」


 いや、タイミング良すぎて怖いからね…。


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