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お茶会シリーズ

CONTINUE!

作者: 土竜児

 ここは何処だ?

 真っ暗で何も見えない。

 そもそもなんで俺はこんな所に居るんだ?

 ……くそッ。何も思い出せない。


「ほう、お客人か。ここにお客人が来るなんていつ以来かな?」

「ッ!? 誰だ!?」


 俺は人の声に驚きながらも周りを見回した。けれど、周りは真っ暗のままで何も見えなかった。


「くそッ! 何も見えねぇ!」


 俺は何も見えないことに腹が立ち、そう叫んだ。


「まぁまぁ、青年。落ち着きたまえ。今、明るくするから」


 そう誰かが言った後、指の弾く音が聞こえた。

 すると、周りがすこし明るくなった。


「……ここは」


 俺は少し明るくなった周りを見回した。


(……何もない場所だな)


 俺はその場所を見て、そう思った。

 あるものと言えば赤と黒の市松模様の床だけ。


「ようこそ、青年」

「!?」


 俺の後ろで人の声が聞こえたので、驚いた俺はすぐに後ろを向いた。


「ッ!? 何だ!?」


 俺は後ろを向いたと同時に周りが眩しい光で覆われた。


「くそッ!? 一体、何なんだ!?」


 俺は必死に前を見ようとしたが、光が眩しすぎて前が見えなかった。

 眩しい光が段々と薄れていくと、光の中で白い紳士服の男性が立っていた。


「人生をやり直せる場所へ」

「はっ?」


 男性の言葉を聞いた俺は男性の言葉の意味が理解できなかった。


(人生をやり直す場所? このおっさん、何を言っているんだ?)

「そして、君の次の人生は……村人だ!」

「はっ? ……はあああああぁぁぁ!?」


 男性はそう叫びながら、右手に持っていた杖を俺に向けた。

 その言葉を聞いた俺は一瞬、何を言われたか分からなかったがその言葉の意味を理解した後怒り狂った。


「おい、おっさん! 誰だか知らねぇが俺の次の人生が村人だと!? ふざけんじゃねぇ! 何でおっさんにそんなことを決められるんだよ!? しかも、何でよりよって村人なんだよ!? 蟻やミジンコよりマシだが、他にもあるだろ!? 何処かの国の王子とかドラゴンを倒した剣士の末裔とかよ!」


 怒り狂った俺は男性にいろいろ反論した。

 ……なんか恥ずかしいことも言った気がするがそれは置いておくことにした。


「……青年。とりあえず立ち話もなんだし、お茶でも飲まないか?」


 男性は俺の話を聞いた後、動じない顔で俺にそう言った。

 俺は男性のその言葉と動じない顔に更に腹が立った。


「ふざけんじゃねぇ! 何でこんな時にお茶を飲まないといけないんだ! だいたいなおっさんがふざけたことを言ったからだろうが!」

「……ふざけていないよ。ただ、事実を言っただけだよ」


 俺が男性のお茶のお誘いを断った後、男性は真剣な声でそう言った。

 その言葉を聞いた俺は少しうろたえた。


「とりあえずお茶を飲もう。もうこんな時間だし。お茶を飲みながら君の質問に一つ一つ答えていくから」


 男性は杖を左手に持ち、胸ポケットの中に入っていた懐中時計を右手に出すと時間を俺に見せながら俺に言った。


「……分かった。そのお茶のお誘いに参加する。ただし、俺の納得のいく説明を言えよな!」


 俺は仕方ないと思いながら、そう言った。


「分かった。それじゃ今から用意するから」


 男性はそう言いながら胸ポケットに懐中時計をしまうと、右手で指を弾いた。

 すると、ティーセットとお菓子とテーブルと二人分の椅子が俺と男性の目の前に現れた。

 それを見ていた俺は少し驚いていた。


「さぁ、君も早く座りたまえ」


 男性は椅子に座った後、また右手で指を弾いた。

 すると、頭に被っていたシルクハットと左手に持っていた杖が消えた。

 俺はそれを不思議そうに見ながら椅子に座った。

 そして、俺が座ったと同時に男性は左手で指を弾いた。

 すると、ティーセットが勝手に動いて、お茶を入れてくれた。


「今日のお茶はカモミールティーだよ。それを飲むと気持ちがリラックスするよ」


 男性はお茶の種類を言った後、そのお茶を少し飲んだ。

 俺もそのカミモール……じゃない。カモミールティーを少し飲んだ。

 何だ、気持ちがだんだんと落ち着いていく。

 あと、このお茶。とても……。


「……おいしい」

「それは良かった」

「!?」


 俺はうっかり男性の目の前で本音を言ってしまった。

 そして、俺の心は恥ずかしい気持ちで溢れた。


「さて、気持ちが落ち着いた所で君の質問に答えよう」


 男性はティーカップをお皿に置き、真剣な表情で俺を見た。


「まずは名前から答えさせてもらうよ。私の名前は……特にない」

「名前がないだと? どういう事だ?」


 俺は不思議そうに男性に聞いた。


「そのままの意味だよ。私も名前がありましたが、何百年も生きていると名前ですら忘れてしまうものだよ」


 男性は清々しい顔でそう言った。そして、男性の話は続く。


「……まぁ、君が私を呼ぶときがあるかもしれないので私のことは……そうですね。ティニーと呼んでください」


 ティニーは両手を組みながら笑顔でそう言った。


「次の質問の答えを言います。なぜ私が君の次の人生を決めるでしたっけ? 確かに私は君の人生を決めている。けれど、それは私が君に選択の道を与えているに過ぎない」

「……どういうことだ?」

「私は君に最初こう言いましたよね。『ようこそ、青年。人生をやり直せる場所へ』と」

「あぁ、言ったな」

「……その言葉の意味、分かりますか?」


 真剣な顔をティニーは俺にその言葉の意味を聞いてきた。

 その言葉の意味だって?

 そんなの分かる訳が無いだろ。


「……その様子だと分からないみたいだね」


 ティニーは俺の様子を見て、そう言った。それを聞いた俺は少しイラついた。


「じゃあ、言い方を変えよう。君は“コンティニュー”と言う言葉を知っていますか?」

「コンティニュー? 確かゲームとかでゲームオーバーになった時に現れる画面のことだよな?」

「そう。プレイヤーにまた同じ所でやり直すかやり直さないか決める画面のことだ。今、君はそれと同じことをやろうとしているんだ」

「?」


 俺はティニーの話がよく分からなかった。

 俺がそれと同じことをやろうとしている?

 全く意味が分からない。


「……これでも分かんないなら、直接言うしかないか」

「……一体、おっさんは何が言いたいんだ?」

「つまり私はここに来た人……死んだ人に人生の選択の道を与えるのが役目なんだよ」

「えっ……」


 俺は一瞬、ティニーが何を言っているのか分からなかった。

 その後、俺はティニーの言ったことを一つ一つ思い出して、ティニーが何を言いたかったのかが分かった。


「……つまりおっさんは俺がもう死んでいて、その俺に選択の道を与えているってことか?」

「あぁ、そうだよ。君はもう死んでいるから、私が選択の道を与えているんだ」


 ティニーは分かってくれたことに嬉しいのかにこやかな笑顔で俺にそう告げた。

 そして、それを聞いていた俺は自分の中で何かが切れる音がした。


「……ざけるな……」

「ん?」

「ふざけるな!」


 怒り狂った俺は椅子から立ち上がり、両手でテーブルを思いっきり叩きながらそう怒鳴った。


「俺が死んだって? おっさん、ふざけるのも対外にしろ!」

「……青年。君は自分が死んでいることを認めないのか?」


 ティニーは怒り狂った俺の顔を見ても何も動じない顔でそう尋ねてきた。


「あぁ、認めない! 俺は死んでいない!」


 律儀にも俺はティニーの質問に怒鳴りながら答えた。


「……そうか」


 俺の言葉を聞いたティニーは悲しい顔になった。

 何だよ。俺が悪いのかよ。

 ……あぁ~くそッ!


「俺はもう帰る! もうこんな所には来ないからな!」


 俺はそう言った後、ティニーの方に背中を向けて帰ろうとした。


「まだ質問の答えを言っていないのがあるのだが」


 真剣な表情に戻ったティニーは俺にそう聞いてきた。


「そんなもん、聞きたくねぇ!」


 俺はティニーの方を向かずにそう怒鳴った。


「……だったら、今度は私が青年に質問するよ。君は何処に帰ろうとしている」


 ティニーは真剣な声で俺に質問をしてきた。


「はぁ? 俺の家に決まっているだろ!」


 俺はティニーの方を向きながらそう言った。


「じゃあ、俺って誰だ?」


 ティニーは俺に続けて訳の分からない質問をしてきた。


「俺は俺に決まっているだろ! 何、訳の分からないことを言ってやがる!」


 俺はティニーに怒鳴りながらそう言った。


「じゃあ、青年! 君の名前は何だい?」


 ティニーは俺の方を指差しながら俺に名前を聞いてきた。


「俺の名前だと? 何で俺の名前を言わないといけないんだよ?」

「さぁ、言いたまえ! 君の名前を!」

「いや、だから何で……」

「さぁ!」

「……」


 ティニーはしつこく俺の名前を聞いてきた。

 ……このパターンだと言った方が早く帰れるな。


「だったら、言ってやる! 俺の名前を!」


 俺はそう言った後、深呼吸をした。

 そして……。


「俺の名前は……あれ?」


 俺は自分の名前を言おうとしたが、なぜか自分の名前が思い出せなかった。


「……やはりな」


 ティニーはそう言った後、ティーカップの中に入っているカモミールティーを全部飲み干した。


「君はもう名前を失っている」


 カモミールティーを飲み干したティニーはティーカップをお皿の上に置いたと同時に俺にそう告げた。


「名前を失っている?」


 俺はティニーの言葉の意味が全く分からなかった。


「そのままの意味だよ。ここに来た人のほとんどが名前を失った人だ。名前を失った人はもう自分が居た場所には戻れない」

「何だと!?」


 俺はティニーの話を聞いて、驚いた。そして、ティニーの話が続く。


「そして、名前を失った人はもう誰でもない存在になる。簡単に説明すると自分だった人物が自分じゃなくなり、自分は誰でもなくなるんだ」


 ティニーは目を閉じながらそう語った。そして、目を開けると同時に俺にこう言った。


「つまり、今の君は誰でもない存在……“無”になったんだよ」

「ッ!?」


 俺はティニーの所まで走り、左手でティニーの胸倉を掴んだ。


「おい、おっさん! いい加減にしろ! さっきから聞いていれば好き勝手言いやがって! それ以上言ったらぶん殴るぞ!」

「……私は事実を言っただけだよ」


 ティニーは胸倉を掴まれても動じない顔でそう言った。


「何が事実だ! ただ嘘を言っているだけだろ!」

「嘘ではない!」


 ティニーはいきなり大声でそう叫んだ。

 それを聞いた俺は少しうろたえた。

 そして、ティニーは大声で叫び続けた。


「青年! 君は自分の名前が言えるか?」

「……そ……それは……」


 ティニーの言葉を聞いた俺は名前を思い出そうとした。

 けれど、名前をいくら思い出そうとしても思い出せなかった。


「言えないだろ! 言えないと言うことは君が誰でもない存在! “無”になったのも事実!」


 俺はティニーの言葉に反論ができなかった。

 確かに名前を思い出せないのは事実だ。

 けど、俺の存在が“無”だって言ったことがとても許せなかった。


「青年! 次の質問だ!」


 俺がそんなことを考えていると、ティニーは次の質問を言おうとしていた。


「本当に君は自分が死んでいないと言い切れるか?」

「それは言い切れる!」


 俺はティニーの質問にすぐに答えた。


「本当か? 本当にそうなのか?」

「だから何度もそう言って……!?」


 俺は死んでいないことを訴えようとした時に思い出した。

 俺は弟の信二をかばって車にはねられたことを……。


「……俺は……死んだのか……あの交通事故で……」

「……青年。やっと思い出したのか」


 気が付くと俺はいつの間にかティニーの胸倉を掴んでいた左手を振りほどき、地面に四つん這いになっていた。


「俺は……俺は……」


 俺の頭は混乱していた。

 自分が死んでいたこと。

 ティニーが言っていたことが全て事実だったって言うこと。

 名前を失った自分はもう自分が居た場所には戻れないって言うこと。

 もう何がなんだか分かんなかった。

 ……名前?


「そうだよ! なんで俺の名前は覚えてないのに弟の信二の名前は覚えているんだ!?」


 俺はなぜ他の人の名前を憶えているのかティニーに尋ねた。


「それは誰でもない存在になる前の君だった人物の記憶だよ。ここに来ても自分だった人の記憶が残っている人は多かったよ」


 俺の質問にそうティニーは答えた。そして、ティニーは左手で指を弾いた。

 すると、俺が飲んでいた方のティーカップとお皿がこっちに飛んできて、俺の所で止まった。


「とりあえず、お茶を飲んで落ち着いてからこれからのことを考えよう」


 頭が混乱した俺はとりあえずティニーの言うことを聞くことにした。




 あれから何時間が立ったのか分からない。

 ただ、今の俺は落ち着いていた。

 そして、これからの選択をどうするか考えていた。

 ……あのおっさんが言っていることが全部正しいなら、俺も選択の道を決めないといけない。

 けど、今の俺じゃどの選択をしたらいいのか分からない。

 ……よし、このおっさんからいろんな情報を集めるぞ。

 その前にまずこのおっさんに言わないといけないことがあるな。


「青年、落ち着いたか?」


 ティニーはカモミールティーの匂いを嗅ぎながらいろいろ考えている俺に聞いてきた。


「……あぁ、だいぶ落ち着いてきたよ」

「それは良かった」


 俺は素直に言った後、ティニーはにこやかな顔をしながらティーカップを置いた。

 そして、俺は最初にやる行動を実行しようとした。


「……なぁ、おっさん」

「何だね、青年」

「……さっきは悪かった。嘘つきって言って……」


 俺はお辞儀をしながらティニーに嘘つきって言ったことを謝った。


「別に気にしていません。いつものことですから」


 俺がお辞儀をしながら謝った後、ティニーは清々しい顔でそう言った。


「所で、聞きたいことがあるんじゃないのか?」


 ティニーが真剣な顔でそう尋ねてきた。

 そして、俺は顔を上げティニーに質問する数を言った。


「……俺が聞きたいことは三つだ」

「ほう、三つもあるんですか」


 ティニーは俺の質問の数を聞くと、興味深そうな顔でそう言った。

 その後、俺はティニーに最初の質問を尋ねることにした。


「……まず、一つ目。ここに来た人達はどう言う選択をしたんだ?」


 俺はまず、最初にここに来た人達はどう言う選択をしているのか尋ねた。

 ……ここに来た人達は一体どう言う選択をしたんだ?


「ここに来た人の選択ですか? いろいろありました。私の与えた人生に素直に進んでくれる人や名前を失ったのに自分だった人の所へ帰ろうとする人。自分の名前を失わなかった人は自分の元に帰って行きましたね」


 ティニーは昔の事を懐かしそうに俺に語った。

 ……なるほど、いろんな選択をしているんだな。


「……二つ目の質問。なぜ、俺の次の人生がなんで村人なんだ?」


 次に俺は何で次の人生が村人なのかティニーに尋ねた。

 ……正直、俺の次の人生が村人なのか分からん。


「それは君がそれだけの器だからだ」

「器?」


 俺はティニーの言葉がよく分からなかった。


「器と言う物はその人に合わないと才能に自惚れたり、才能が発揮できなかったりするんだ。だから、人にはあった器じゃないと駄目なんだ」


 ティニーは俺に器についての説明をしてくれた。


「……つまり、俺の器は村人レベルの器ってことか?」

「そう言うことだ」


 俺が悲しい声でそう言うと、ティニーは頷きながらそう答えた。

 ……なるほど。人によってどう言う器になるのかが違うのか。


「最後の質問。俺の弟……信二の現状だ」


 最後に俺は弟の信二の現状を聞くことにした。

 ……あの後、信二はどうなったんだ?


「あぁ、その子なら無事だよ」

「本当か!?」

「あぁ」


 俺はティニーからそう聞かされるとすこしホッとした。


「……ただ……」

「……ただ?」


 いきなりティニーの歯切れが悪くなった。

 俺はどうしたんだと思いながらティニーを見つめていた。

 そして、少し沈黙になった後、ティニーは真剣な声でこう言った。


「……その子は今、君が死んだことに泣いている。自分のせいで兄が死んでしまったって。もしかしたらもう立ち直れないかも知れない」

「……」


 俺はティニーからそのことを聞いて、信二のことが心配になった。

 ……信二……。

 ……俺はだったらこの選択をするしかない!


「……どうやら決めたようですね」


 ティニーは俺の顔を見てそう言った。

 そして、それを聞いた俺は小さく頷いた。


「じゃあ、言ってください。君の選択を!」


 ティニーは大きな声で俺にそう言った。


「……俺の選択は……」

「君の選択は?」


 ……俺はもう迷わない!


「……俺の選択はおっさんの与えた道に進むことだ!」


 俺は大きな声でそう叫んだ。

 それを聞いたティニーは少し驚いた顔で俺を見ていた。


「驚いた。君なら自分だった人の所に帰ろうとするかと思ったのに違ったか」

「どうしてそう思ったんだ?」


 俺は驚いているティニーにどうしてそう思ったのかを尋ねた。


「君は弟のことを悲しませないために自分は戻らないといけないと考えるはずだと読んでいたよ」


 ティニーは俺が弟の信二のことが心配で自分だった存在の戻ると読んでいたらしい。

 そして、それを聞いた俺はなぜその選択をしたのかを言うことにした。


「……確かに俺はそう考えた。けど、俺はこうも考えたんだ。名前を失った自分がここに居るってことはあの場所での俺の役目が終わったんだと。信二のことが心配だけど、あいつならいつか俺への悲しみを乗り越えて立派な男になってくれると俺は信じている。だから、俺もあいつに負けないくらいの男になるために前に進む!」

「……なるほど。それが君の答えの意味か」


 俺がそう語った後、ティニーは右手の指を弾いた。

 すると、ティニーの後ろに扉が現れた。


「あそこから次の君の人生に行ける。君も立派な男になるために頑張れ」

「……ありがとう」


 俺はティニーにお礼を言った後、ティニーの後ろにある扉に向かった。

 そして、扉の前へと立った。


「あぁ、そうだ。君に言い忘れた事がある」

「あっ?」


 俺はティニーが何か言い忘れた事があると聞いて、ティニーの方を見た。


「確かに今の君の器じゃ村人だ。けど、器と言う物は段々と変わっていく物だ。いつか君も勇者や王子になれる日が来るかも知れない。それだけは忘れないでほしい」

「……あぁ、分かった」


 俺はティニーの話を聞いた後、扉を開いた。

 扉を開けた瞬間、光が俺を包んでいった。


「あぁ、もう一つだけ忘れていたよ。今度の君の名前は……」


 ティニーが何かを言っていたが、俺は聞き取れずに光へと呑み込まれていった。




「……ラニ……グラニ、起きて……」


 何だ?  誰かに呼ばれている。


「起きてってば、グラニ!」

「……何だよ。ルミナ」


 洞窟の奥で寝ていた俺は幼馴染のルミナに起こされた。


「もうそろそろ作戦が始まる時間だよ」


 ルミナはそう言いながら銀時計を見せてくる。

 ……確かにそろそろ作戦が始まる時間だな。


「……あぁ、分かった。すぐに行く」

「早く来てね」


 ルミナはそう言うと、洞窟の入り口まで走っていた。


(……しかし、俺。何かの夢を見ていたような気がするんだけど、どう言う夢だっけ?)


 俺は夢で見たことを思い出そうとした。けれど、思い出せなかった。


「……まっ、いっか」


 俺は夢を思い出すことを止め、立ち上がって仲間の所に向かおうとした。


(言ったはずだろ。君もいつか勇者や王子になれる日が来るかも知れないって。これは立派な男になった君へのプレゼントだよ。受け取りたまえ)

「えっ……」


 俺の後ろで誰かの声が聞こえた。

 けれど、後ろを向いても誰も居なかった。

 そのかわり相当古い懐中時計が落ちていたので、俺はその懐中時計を拾った。


「誰の懐中時計だ?」


 俺は誰のか確かめるために懐中時計を眺めていた。

 ……何だろう。

 この懐中時計を眺めていると懐かしい気持ちになる。


「グラニ~早く~」


 洞窟の入り口の方でルミナが俺を呼んでいた。


「……あぁ。今、行く」


 俺は洞窟の入り口に居るルミナにそう言った後、この懐中時計をどうするか考えた。


(……とりあえずこの懐中時計は俺が持っておくか)


 そう思った俺はポケットの中に誰かの懐中時計を入れて、ルミナと仲間たちが居る洞窟の入り口に向かって行った。

 そして、この後、俺と仲間たちは世界を救った英雄として語り継がれていくのであった。


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