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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第二章  停滞・進捗・追憶・減退
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第一部 「暁の水平線に」 9

   Ⅱ



   Soul_Ships_memory



 太平洋を一望できる潮岬からの眺めは絶好だった。夏の入道雲が水平線の上にかかっており、まさに夏といった空模様だ。

 ただ、夏の日差しは平年以上に強く紫外線がじりじりと肌に突き刺してくる。

 巨大な船体の甲板には比較的小さな艦橋が備わっているが他にあるのはほとんどが飛行甲板で飛行甲板は装甲加工が施されており夏の日差しの熱を吸収して裸足で歩けばやけどするくらいに熱を帯びていた。

 そんな暑苦しい飛行甲板の小さな影に一人の華奢な少女は大量の汗を流していた。


「あっぢぃ……マジであっぢぃ……」


 手には医療用に使うアイスパックを持っていた。

 しかし、中の氷は全て溶けてしまってほとんどが生ぬるい水に変わってしまっている。

 うだるような熱気が鋼鉄の甲板から上がってきて今にも脱水症状を起こしてしまいそうな状況だった。

 そんな少女を気遣うような声がどこからか聞こえてくる。


『信濃。あなたは曲がりなりにも女性なのですよ。もう少し丁寧な言葉遣いをしてくれないかしら? それから水分補給はしっかりしないと死んでしまうかもしれないわよ』


「あぢぃ……ていうか曲がりなりにもってなんだよ。これでも女なのは間違いないだろ。胸だって少しはあるし、タマだってついてないからな」


『はあ……はしたない言葉をまた……。今は良いかもしれないけど今後いろいろな艦が戻ってくるのですからその子たちに見本を見せるためにももっと人間らしくなってくれないかしら?』


「これでも人間らしいと思うんだけどな。飛行甲板はくっそあぢぃし、だからって中に入っていればサウナ状態なんだ。どこでどうしろってんだか……。なあ、一回地上に行ってクーラー買ってきていいか? いなかった分は働くからさ」


『ダメに決まっているじゃない。それにクーラーを買えてもそれをどうやって設置するつもりなの? あれはわざわざ部屋に穴開けて外の室外機に繋げているのよ。そんなの私たちにできるわけないし、仮に電化製品の店が手伝ってくれるとしてもあなたの船まで案内するつもりなのかしら?』


 信濃と呼ばれた少女は汗を拭きながら立ち上がってパイプの上に置いてある大量に水滴のついたペットボトルを手に取るとキャップを開けてグビグビと飲む。

 30分前に冷蔵庫から取り出してきたものだったがまだわずかに冷たいと感じるほどの温度だった。


「あー、生き返る……。だったらもっと大きな冷凍庫でいいやー。それなら氷もいっぱい作れるしさー。今のじゃ一時間に一回は氷を作り直さないと持たないんだよな」


『まったく……。とにかくあなたたちが快適になるように404を買い出しに行かせるからもう少し辛抱しなさい』


「買い出しって金あるのか?」


『さあ? 分からないわ。その辺りは404に任せてあるから。あの子は少し変わり者ですからね』


「ふーん。そうなんだな。それはいいとして世界はどうなっているんだ? あんだけ暴れたのにいまだに大規模な部隊が来る気配はないけど? まさかあれで全力なんて言わないよなー」


『戦闘に飢えているって感じですね。安心してください。近々手ごわい相手がフィリピン海を通過しますよ』


「よっしゃ。楽しみだな。それともう一人400はどうしているんだ? 連絡付かないんだろ?」


『フィリピンでやられたみたいですね。本人は沈んではいないと思いますけど船自体が沈んでいるかもしれないね』


「あのいけ好かない淫乱潜水艦はどうせ沈みはしないさ」


『あなたはもう少し上品な言葉を使えないのですか? もう少し日本人らしく気品を示してくれないと』


「そんなこと言われてもな。やっぱ自分らしさって必要だろ? ま、とりあえず404が持ってくる夏の便利道具が来るまでは沈むわけにはいかないから、というわけで私はしばらく海水浴しているからまた重要なことがあったら連絡してくれよな。ばいちゃ!」


『海水浴ってあなたはまたはしたない格好で海に入るんじゃないんでしょ――』


 これ以上は親の説教のような長い話が待っているだろうというのは分かっていたのでそこで会話を途絶えさせた。

 信濃と呼ばれた少女は一度伸びをして真っ白なノースリーブを脱いでほぼ凹凸のない胸には水着がすでに身に着けられていた。スカートも脱ぐと20メートルほどの高さの海面から甲板までの距離を躊躇することなく飛び降りた。

 手には救命用の浮き輪が握られている。

 海面に少女の身体が着水すると大きな水しぶきが上がって気持ちよさそうな顔をして。


「ひゃー! やっぱ最高!!」


 見た目と相応な無邪気な表情で海水浴を始めていた。

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