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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第四章  赤銅色の二重奏
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第四部 「赤銅の航海者」 35

    Ⅰ


 艦橋でビスマルクを見つけた時は衝撃を受けた。

 金髪美人のドイツ人の面影はどこにもなく色素がすべて抜けたような真っ白な髪をした姿はまるで幽霊のようだった。

 しかし、彼女は幽霊ではなく肉体を持った人でこうして生きている。

 正直、ビスマルクが生きているという可能性を低く見ていた榮倉にとってはこれ以上ない再会だった。

 ビスマルクはひとしきり泣き叫ぶと榮倉に肩を貸されて艦橋を降り、内火艇で『紀伊』に乗り移った。


「なあ、本当に艦橋を破壊すればこの海域は消えるんだろうな」


「自信はないわ。でも私の感覚はそれで止まると感じているわ……」


「じゃあ、やっていいの」


 戦艦『紀伊』の巨砲が艦橋を捉える。

 この砲撃で戦艦『ビスマルク』は海へと再び還る。


「頼む。シャルンも紀伊に任せていいんだな」


『もちろんよ。私にはできないから……』


「分かった……」


 紀伊は頷く。

 ただ表情は暗かった。榮倉は紀伊の小さな手を掴む。


「大丈夫だ。俺がいる」


「……。うん」


 直後。

 巨砲が轟く。

 艦橋を正確にとらえた砲弾は艦内の内側まで入り込むと信管が作動し、二トン近くもある砲弾はさく裂した。

 誘爆したように他の部分が破壊を始め、海へと還る。

 艦が海に還るたびに反転海域は晴れていった。

 数秒後には反撃を繰り返していた砲台も砲台艇も航空機も動きを停め、消失していく。一つの世界が崩壊するような感覚すらあった。榮倉と紀伊、シャルンは『ビスマルク』の最期を装甲板の一枚が沈みきるまで見届けた。


「私の船……。沈んでしまったわね……」


「ああ」


「もう《戦人》じゃなくなったのね……」


『そうね……』


「呆気なかったわ。結局、私の最期なんてこんなものだったのね」


 ビスマルクはすでに真っ暗になった夜空を見た。

 夕日はとっくに沈んでいた。





 反転海域が消失してすぐに榮倉たちはフィウメの下に最速で向かった。

 月明かりだけを頼りに来た道を帰っていく。

 その先にフィウメが待っている。

 待っている。

 そこでずっと待っている。


 待っていたはずだ。


 だが、そこに残っていたのは無数の金属片と一枚の女性用の軍服だけだった。海を漂っていた軍服を拾うとポケットにアルミ製のたばこ箱のようなものがあった。フィウメはたばこを吸わない。中を開いて榮倉は言葉を失った。





『司令

  ごめん  先に逝くね』





 たったそれだけだった。


「くそ……。こんなのってねえよ……。なんでだよぉ」


 ガン! と壁を叩く音が響いた。びりびりと壁を殴った拳が痛んだ。


「約束、したじゃねえか……。一緒に帰るって……」


 艦隊には勝利を祝福するような元気はなかった。

 全員が涙をこらえ、必死に強く在らんとしていた。

 同胞のトレントはもう泣き崩れ、立ち上がることすらできなかった。

 状況を知ったビスマルクはもう放心状態だった。意識の有無は問わない。自身の手で人を殺した。トレントの友人を殺してしまった。もう、フィウメと言う少女はどこにもいない。


「ごめん、なさい……」


 それしか出てこなかった。


「なんで、謝るんだよ……。ビスマルクは何も悪くねえ……」


「じゃあ……」


 ビスマルクは涙で顔を濡らしながら真っ白な髪を振り乱して榮倉にすがりつく。


「じゃあ! 誰が悪いのよ! 私が悪いとあなたが言えばそれで私も! フィウメも! この場の誰もが納得するでしょ……!」


「そうじゃねえよ! 違うだろ……。フィウメもお前も……。俺も、この場の誰も悪い奴なんていないんだよ……。そうだ」







――誰も悪くないんだよ

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