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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第四章  赤銅色の二重奏
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第四部 「赤銅の航海者」 32

    Ⅱ


 それ以来、フィウメからの通信は行われなかった。

 戦艦『紀伊』から見える『フィウメ』はいまだに砲撃を続けている。崩壊を続ける船体のことなどお構いなしに砲が鳴り止むことはなかった。

 遅れていたトレントが合流し一歩を踏み出す。

 彼女への意思伝達は今までフィウメが行っていたがこれからはフッドが請け負ってくれた。イタリア語ができるわけではないので信号旗による昔ながらの伝達方法になる。言葉で伝えたほうが伝わるのは事実だが背に腹は代えられない。


『艦長。急ぐわよ』


「そうだな」


 すでに目的の最深部は20キロを下回り、全艦艇の射程範囲内に入った。


『右舷前方から敵戦闘機!』


 サセックスの声の直後に発艦していた航空母艦の戦闘機が動く。

 砲台艇の密度は増しているが進めないほどではない。

 距離も近いこともあり戦艦の四隻は数発の被弾を受けているがどれも有効弾に至っていないのはせめともの救いだ。


『でもどうするつもりなんだい? あの船を壊せば僕たちの勝ちなのかな』


『何か違う気もするんだよな』


『じゃあどうするのよ。ここで無限に増殖するあの砲台艇をいつまでも相手にしていたら弾薬が底をつくわよ』


 一日中撃ち尽くした砲弾の残量はすでに二割を切っている。最終決戦には心許ないが、ここで撤退することはできない。


「どこかにいるはずだ……」


『いるって誰が』


「ビスマルク」


『アドミラール?』


『司令官、大丈夫ですか』


「艦長?」


 全員が心配の色を見せるが榮倉は至って冷静だった。

 葛西から少し可能性の話を聞いていた。

 ビスマルクが殺害されてからしばらくしてフランス警視庁で預かっていたビスマルクと言う少女の遺体が紛失している。生命活動の停止は医者が確認しているということで死亡の確率は非常に高い。ただ仮死状態からの蘇生という話は聞かないことではなかった。

 シャルンホルストがあれをビスマルクだと思うのなら、あれの核をなしているのは彼女のはずだ、とそんな突拍子もない見解を示された。

 彼女が生きているか死んでいるのかはその時になるまで何とも言えないが彼女の身体はそこにある、とまで断言した。


「シャルンと紀伊で突っ込む」


『なっ!?』


『アドミラール! 気は確かか?』


「冷静だから安心しろ。ここまで来て中核はどう見てもあの船だ。あそこに行けば答えが見つかるはずだ。だから、他のみんなには突っ込む手助けをしてほしい」


『突っ込むってどうやるつもりなんだい? 中核の船の周りには砲台がいくつもあるんだよ。あんなところに突っ込めばハチの巣にされるよ』


「その前に砲台を破壊する」


『難しいぞ。砲の精度もそうだがあの砲台はかなりの装甲厚をしている。簡単に貫けるものとは思えないんだが』


『航空魚雷を落としてみるのはどうでしょうか。あとは急降下爆撃も不可能ではありませんよ』


『微妙だな。あんたのところの艦爆は二五〇キロだったな』


『私でなくて「信濃」さんなら五〇〇キロもありますけど換装が必要になります』


『正直、上から急降下しても貫通できるか不安だ。二トン近い「紀伊」の砲弾は別だけどな。ただ突っ込む側なのだから「紀伊」は当てにしない方が良い。フッド。君の砲撃で貫ける自信は?』


『七対三で自信がない方が大きいかな』


 頼みの綱である長門型の二隻は貫く自身はあるが一発では不可能だと主張する。全問斉射で一基破壊できるだろうが突っ込む『紀伊』と『シャルンホルスト』を守れるほどの数を一度に倒せるかとなると話は別だ。

 一基破壊したとしても別の砲が狙う。

 ならば一基一基を順番に倒せばいいと考えるがそれも不可能だった。

 砲台艇と同様に時間経過で再び姿を見せる。

 手段はないように思える。


『どうするんだよ。八方ふさがりじゃないか』


「大丈夫だ。そっちはシャルンと紀伊で何とかする。それより問題なのは至近距離での砲撃だ。いくら重装甲の『紀伊』でもさすがに十キロを下回れば装甲を貫かれるから、どうにか注意を散発させたい」


『それこそうちの長門型の出番ではないですか。あの砲台は破壊されると新たに補填されるまで攻撃してきませんから「長門」たちが破壊した隙に全速力で接近して至近距離からの「紀伊」と「シャルンホルスト」の砲撃で良いんですよね』


『至近距離って! 司令官は正気なのかい』


『無茶ではないのか? そもそもあの船に乗り込むのならある程度速度を落とさないといけないだろうからそんな速度で突っ込めば止めれないはずだが……。ちょっと待て。アドミラール、まさか……』


 サセックスは榮倉の考えていることを察したようだ。


「反対か?」


『……。反対したいところだが……。可能性としては「紀伊」と「シャルンホルスト」なら不可能じゃないからな……。でもなあ……』


 サセックスは意図を察して相当苦悩しているが、反面にフッドは榮倉の意図が読めずに呆然としていた。当然だがこれからやるのは現実でありハリウッド映画ではない。思い描いているように上手くいく保証はどこにもないが、理論上では不可能ではない。

 ただ失敗した時は最悪の場合は艦首が折れて現有戦力で最高クラスの二隻の戦艦を喪失しかねない。

 リスクの大きさはサセックスも理解している。


『いや、やっぱりアドミラールを信じることにする。簡単に言うことじゃないが、アドミラールが私やフッドだけじゃない、この場の《戦人》全員を信用してくれているのなら、それに報いる。アドミラール! やってきてくれ』


 作戦は決定した。

 太陽はすでに水平線に浸かって海域は夜のトバリが降り始めていた。

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