第四部 「赤銅の航海者」 30
――司令はもしも私が動けない状況になったら私を信じて前に進んでくれるかな?
そんなことは考えたくもないな――
――じゃあこれは私の約束にしようか。私は司令が帰るまで沈まないからさ。司令は私が沈む前に帰ってきてくれ
なんだよそれ。それなら撤退した方がマシじゃないか――
――そうだけどさ。それでも前に進むのをやめたらもう一度行きたくなっても二度とそこにいけないことだってあるんだ。だから、私は司令が帰ってくるまで、いやそこまでの自信はないから……。司令が目的を果たすまででいいかな。それでまでは沈まないからさ。司令は絶対に前に進んでくれないかな
まったく……。そんな状況には絶対にさせないけどな――
――〝保険程度に〟約束してくれるかい?
約束するよ――
これほど結んだ約束を破りたいと思ったことはない。
フィウメは全員にはっきりといった。
「私はみんなが、司令が戻ってくるまで沈まないから。そう約束したから!」
フィウメは血反吐を吐き出しながら叫ぶ。
「だから! 早く前に進むんだ! それでも国を代表する船なのか!」
「……っ!」
他の戦人に発破をかける叫びだったが自然と榮倉にも発破がかかる。
『大馬鹿イタリア人が……!』
『そこまで言うならイタリア人の誇りを見守ってあげるよ! 司令官にウソを吐いたら許さないからね!』
『どこまでも似ているわね……。ホントにむしゃくしゃしてくるわ!』
『そういわれて引き下がる日本人はゆとりです。何より日本の誇りが二隻もいてそんなことを言われた手前に、はいそうですかと撤退するのは大和撫子の魂が許しませんから』
「あたしは、あなたが沈むところは見たくない。だから、絶対に沈んじゃいやだからね!」
「フィウメ……。絶対、絶対すぐに戻るから!」
噛みしめる唇からは血がにじむ。
戻って彼女を助けたいという感情を押しこらえて榮倉は前を向く。
「かん、たい……」
もう榮倉の表情はぐちゃぐちゃになっていた。
たくさんの感情が入り乱れた。
すべてを吐き出すように叫ぶ。
「前進っ!! 行くぞ!!」




