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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第三章  赤銅色の旗
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第四部 「赤銅の航海者」 28

 フィウメの図太さもだが寛容さに榮倉はすっと力が抜けた。

 彼女のような姉貴やシャルンや紀伊のような妹がいてくれれば前に進める。

 紀伊が閉じていた榮倉の回線を開いた。

 寒気のする海域に響き渡る砲撃音は鳴り止むことはない。

『紀伊』の艦首からもたびたび太い音が轟いている。

 艦橋の窓を突き破りかねないくらいの空気の振動が続く。


「中央までの距離は」


「20キロを切ってるよ」


『アドミラール、このまま突っ込むのか?』


「ああ、全艦前進強速」


 中央部が明確に姿を見せていた。


『あれは……。船が刺さっているのか?』


 塔のように見えたそれはどうやら船が突き刺さっているように見えた。その船には『シャルンホルスト』にも刻まれているドイツのエンブレムがあしらわれている。しかし焼け焦げたように真っ黒な船体には依然見た悠然さなどの威厳と呼べるものはなく、代わりに存在していたのはおぞましさと冷たい惨たらしさだけだった。

 塔を囲むように覆われた砲台がどうやら榮倉たちを攻撃し続けた主のようだ。


「紀伊。砲台を狙おう」


「……」


 無言で紀伊は頷くと砲身を回し、角度を合わせると長距離射撃を敢行する。

 続いて『シャルンホルスト』も相手の手数を減らすために攻撃する。

 榮倉とシャルンには敵意のわかない相手を攻撃するのにはたくさんの壁があった。


『ごめんなさい……』


「謝るな」


『わかっているわ。わかっているのよ……』


 それでもシャルンにはかつての思い出がよぎる。

 反撃するように中央部の砲台が火を噴いた。

 回避できないと察した艦隊は砲弾を弾けない『フィウメ』と『サセックス』だけを回避させ残りは甲板で受ける。


『つぅ……さすがはビスマルク号ってところだね』


 被弾したフッドが汗をぬぐう。

 かつて一発で撃沈された思い出がある彼女には砲弾を受けるのは恐怖があるだろう。

 しばらくして陣形を崩して回避していた二隻の巡洋艦が元の位置に戻ろうとする。

 その時だった。

 最後方のトレントがイタリア語で何かを叫んだ。


「Suono iniezione d'acqua da sinistra! Si prega di essere evitato!!」


 すぐに榮倉たちは言葉を理解できなかったが唯一言葉を理解したフィウメだけが先に行動していた。

 トレントの代わりに状況を全員に分かる言語で伝えたのは大鷹だった。


『左舷より潜水物が魚雷を装填! 発射しました! すぐに回避してください!!』


 榮倉はすぐに魚雷線を探した。

 しかし見当たらない。


「くそ! 誰か見つけられるか!」


 同じ左方向を航行している『長門』は首を振った。


「こうなったら見えなくても避けるしか……」


 そこまで言って榮倉は魚雷の泡を見つけた。

 距離は約3000メートル。

 本数にして6本。中核の『紀伊』を狙っている。全弾が他の艦には当たらずに『紀伊』だけに当たるように照準されていた。


「悪い……。紀伊。遅かった」


 被弾を悟った榮倉が謝るが紀伊は首を横に振る。


「大丈夫だよ、不沈艦は沈まないから」


「頼んだぞ」


『アドミラール! 来ているぞ! 回避行動を!』


『司令官! 何をやっているんだい!』


 避ければ『紀伊』の被弾はなくなるかもしれないが当たらなかったが魚雷が後ろにいる『大鷹』などの空母に当たってはただでさえ低かった勝算がそれこそゼロになる。

 魚雷はすでに目前まで来ている。

 榮倉はそれでも魚雷を見なかった。

 前だけを見据える。

 前に進むことだけを考えた。

 前だけを見た。

 見た。

 前だけを。

 だから。









――――気づけなかった。








『紀伊』の真横に巡洋艦が横付けしてきた。


「フィウメ!?」


『司令……。ごめん』


「何をやっているんだ!! 今すぐ舵を切れ!! 今からでも巡洋艦なら避けられる!! フィウメ!!」


 のどから血の味がするくらいに叫んだ。

 榮倉は艦橋の扉を開けると真横にいるフィウメに直接叫ぶ。


「頼む!! そんなことをしないでくれ!!」


「……。」


 フィウメの姿が見えたが彼女は何も答えなかった。

 申し訳なさそうな笑みだけを浮かべていた。

 魚雷はもう巡洋艦でも避けられる距離を下回った。







「フィウメえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」

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