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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第三章  赤銅色の旗
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第四部 「赤銅の航海者」 26

    Ⅳ



 取り乱した甘酸っぱい恋をしている二人が落ち着いたころに食事が届き、食べ終わるころには二人共のいつも通りの余裕を取り戻していた。


「あの、伊織さんはいつもあたしたちをからかいますけど伊織さんは大和さんのことをどう思っているんですか?」


「おやおや? 嫉妬かね?」


「そんなんじゃないです!」


 顔を赤くしながら首を横に振る。

 茶化したが菜月の質問には真面目な顔をして答えた。


「まじめなところ、信用に値する人だとは思うかな。裏表がなくて一途だし、正直昔のことが無ければ菜月ちゃんたちみたいに好きになっていたかもしれないかな。個人的にああいうがむしゃらに頑張っている人を応援するのはずっと好きだったし、嫌いになる部分を探す方が大変な人だよ」


 ほとんど菜月とアリシアの感じていた彼の印象と一緒だった。

 でも、と伊織は付け足す。


「あの人ってはっきり言って強い人じゃないのよね? 強がっているだけであって」


 アリシアも菜月もお茶を飲む手を止めた。


「それでも、私たちは……。あの、その……。大和さんのことは、き、嫌いじゃないんですよ」


 肯定するようにアリシアも頷く。

 二人の強情さと一途さの両方の意味でため息を吐く。


「全く。アリスちゃんも菜月ちゃんも素直じゃないんだから。でもさ、二人が彼の魅力に取りつかれるのは一緒に長い時間いたからだろうけど少ない時間しかいなかった紀伊とかシャルン、ビスマルクはどうして好きになったんだろ?」


「え!? そうだったんですか!」


「……。」


 返す言葉もないくらいに伊織は唖然としていた。


「さすがにアリスちゃんは……って」


 呆然としていた。

 まさか自分の感情にも疎いが前しか見ていないこの二人はアリシアと菜月の二人以外の横の人物は目に入っていなかったようだ。


「ま、まあ、これは傍から見てたあたしの印象だけどね! なんであんなにモテるんだろうな、ってことなんだけど……」


 もう少し取り乱すかと思っていたが菜月は冷静だった。

 アリシアはともかく菜月は薄々感じていた部分もあったのだろう。


「あたしは個人的な意見なんですけど、あの人のそういう実は弱いところも、惹かれてしまうんだと思いますよ。あの人は強がっているときは人間味の薄い人ですけどフィリピンでもロシアでも誰かが危険に陥ると人間らしく焦るし、動揺する。たぶんこの場の誰よりも人間味が強いんです」


 菜月たち三人は一度だけあの男が涙を流したことを見たことがある。

 子供のように感情を吐き出す彼に菜月もアリシアもこの人の支えになりたいと思った。彼女たち本人は自覚していないが女性の誰もが持っている母性をくすぐられたところも少なからずあるだろう。


「羨ましいな。菜月ちゃんとアリスちゃんにそんなに思われている人がいるなんて……」


「えへへ……」


 さすがに恥ずかしくなって赤面させて頭をかく。


「だったら、あたしたちは頑張って大和くんを手助けできるような材料を集めないといけないね」


 榮倉たちが反転海域を鎮めた暁にはスペイン警察との一騎打ちが待っている。彼らとの対決は榮倉対スペイン警察ではなく榮倉艦隊対スペイン警察になる。艦隊が間違っていないことをスペイン警察に思い知らせることができるのなら榮倉がスペイン警察に疎まれるようなことはなくなる。

 榮倉大和のことなので後先考えずにやっているのだろうがそのあとを手伝うのが三人の少女たちの役目のひとつだった。

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