第四部 「赤銅の航海者」 24
たった一隻のイタリア艦を除いて
狙われた『サセックス』の前に入った『紀伊』に擦り付けるようにイタリア巡洋艦がさらに前に割り込む。
「バ――!!」
刹那、砲弾はフィウメの甲板を叩いた。
甲板装甲を撃ち抜き、爆発するかと思った砲弾は威力のあまりに右舷から左舷まで過貫通を起こし、紀伊の船首に少しだけ傷をつけた。
……。
『うわぁ……。あっぶなかったー』
当事者は誰よりも軽い口調でそう言った。
「危なかったじゃねえぞ! 二度とこんな真似するな!」
『う……。司令……。そこまで怒っちゃうのかよ』
「当たり前だ。さっきは運がよかったがもしもの時もあるんだぞ!」
『でもさ。あのままだと舷側に当たっていたよね』
「……。」
思わず、言葉に詰まってしまう。
いくら戦艦とはいえ巨大な砲弾を船の重要な区画である舷側に命中されれば、沈みはしないとしても航行に少なくない影響が出る。例えば左前に被弾すれば右に転舵した際に、負荷がかかり艦首が折れる可能性も否定できない。
この戦場での『紀伊』の行動制限は作戦内容に多大な影響を与える。
フィウメはそれを理解していた。
だから受け止め切れるかも分からない砲撃を受けた。
膨大なリスクを孕んだ行動だったが結果的に作戦の影響を最小限に抑えることには成功した。
「……。次はないからな」
『わかっているって。二度としないよ』
フィウメはお気楽な声で言う。
「サセックス! 消火は終わりそうか」
『大丈夫だ! 今終わった』
サセックスの艦上からオレンジの炎が消えていた。前の主砲と甲板は火災の影響で黒焦げていたがそれ以上の被害はほとんどないように見える。
「被害報告を頼む」
『甲板が焦げて装甲が脆くなった以外に航行および戦闘に影響はない』
最小限の被害で済んだのは奇跡に近い。
榮倉はすぐに艦隊陣形を整えさせる。
「もう一度進撃陣形を形成! 一気に突き進むぞ!」
『サー。アドミラール』
「どうした?」
『助かったよ。あんたのおかげで前に進める』
「礼を言うならフィウメだろ」
『そうだな。イタリア人。助かった』
『や、やめろ! 英国淑女! 気持ち悪い』
スピーカー越しに顔を赤くしている姿が予想できた。
このフィウメという少女はどこまでも素直じゃないようだ。榮倉たちがサセックスの援護をするといった際にも反対はしたが前に進むべきだとは言わなかった。なんだかんだでサセックスのことを心配していた。
人として当然のことだ。
感謝などされると考えていなかっただろうがフィウメの行動は感謝に値するものだ。
榮倉は彼女がそこらの人間よりも人間らしいと思った。
ほとんど接触している『紀伊』と『フィウメ』は先に『紀伊』が動き出した。遅れて、『フィウメ』が動く。
『……あれ?』
「どうした。何か問題でもあったのか」
『あ、ごめん。ちょっと引っかかっただけ』
「……?」
引っかかったという表現に違和感を覚えたが、航行に影響はなさそうだった。
直後に最深部からの砲撃が起こったが何も問題なく艦隊は回避した。




