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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第三章  赤銅色の旗
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第四部 「赤銅の航海者」 22

    Ⅰ



《フランス ブレスト》


 フランスの最西端にある街、ブレストは人口が約14万人とフランス国内では多い方から数えたほうが早い都市だったが、つい二時間ほど前までいたパリに比べるとかなり衰退している街だった。

 この街に来た時に石垣が多いと印象を感じたが歴史を調べるとはるか昔の三世紀から四世紀にかけてローマ人が城塞を築き、中世になるとブリュターニュ公国の領地になり、百年戦争ではイングランド軍が上陸したという歴史を持っていたことが要因のようだ。


 フランス領土になってからは古くなった城塞をフランス人が要塞化したようだ。

 太平洋戦争時はドイツの潜水艦基地となっており、今でも要塞は残っている。

 今の時代でも使おうと思えば要塞として役目を果たすことができるだろう。

 そんな要塞都市に集まったのは十人の《戦人》たちだった。

 フランスのブレストに戦人艦隊が停泊していることはすでに世間に知れ渡っているようで怖いもの見たさにたくさんの野次馬で港はごった返していた。

 状況のこともあって榮倉たちのところに入港した《戦人》たちが来られるはずもないので直接出向くことになった。


 パリまで付いてきていたシェリーも役目は終わったとばかりに葛西と合流すると言って姿を消した。艦隊の全員を『シャルンホルスト』に集め、フッドと考案した明日の突入作戦の案を提出した。

 批判が出るかと思ったが、満場一致で即決だった。

 早々に《戦人》たちは各艦に戻った。

 榮倉は『紀伊』に乗艦することになる。

 食事も終えて就寝するだけだったが榮倉は今日の戦線を支えた二隻の巡洋艦のもとに向かった。

 イタリアの巡洋艦では珍しい速度よりも防御力を重視した重装甲艦である『フィウメ』は流石というべきか、数発の被弾はあってもすべてを弾き返していたようだ。甲板にはいくつかのへこみがあり攻撃を受けた証拠だ。

 そんなイタリアの重装甲艦『フィウメ』にある近代的な作りの艦橋の上にフィウメは立っていた。


「フィウメ。そんなところにいると危ないぞ」


 葛西からもらったギプスのおかげで松葉杖を使う必要がなくなり歩いて艦橋に上がる。フィウメは何か作業をしていたように見えたが榮倉の姿に気付くと手を止めて声を上げる。


「司令か。どうしたのさ?」


「さっき言い損ねていたから、今日のことだよ。戦線の件、大変だっただろうけど。ありがとうな」


 唐突な感謝の言葉にフィウメは足を踏み外して落ちそうになる。慌てて艦首に向かってかけられたワイヤーに掴まることができたので事なきを得た。


「ど、どうしたのさ! 急に」


「それより大丈夫かよ」


「大丈夫! 問題ないさ」


 フィウメはさっきの件があったからか慎重にはしごに足をかけると安全な場所に立つ。


「話なら中でする? 寒いし」


 さすがに欧州の冬というだけではなく海上という条件もあって相当冷え込んでいた。外で話をするには最悪な条件だ。

 フィウメに促されるまま艦橋に上がる。

 艦橋内は寒さ対策に暖房が効かせてあり相当暖かかった。


「それで、司令はあんな礼を言うためだけに私のところまで来たのかな?」


「まあそうだな。あとでサセックスのところにも行く予定だ」


「節操がないね。君は」


「そういうことじゃないって……。フィウメと一緒だ。お礼を言いに行くだけだ」


 それを節操がないって言うんだよ、と呟いたがちょうどストーブの運転延長をしろという音が鳴って聞き取られなかった。

 フィウメはため息を吐くと真剣な顔になった。


「司令。さっきは賛成したけどさ。個人的に司令の言った作戦はどのくらいの確率で成功すると思う? 私は七対三で失敗の確率が高いと思う……。正直、博打すぎる」


 フィウメの率直な感想に榮倉は少し笑みを見せた。

 単純だ。彼女と同意見だからだ。


「でもさ。可能性があるならやらないと後悔するだろ? やらないで後悔するのが俺は一番嫌いなんだ。たとえ三割の確率でしか成功しなくてもやらなきゃ成功しない」


「やっぱり司令もそう思っていたんだね」


「なんでそう思ったんだ?」


 フィウメは月夜の空で声を上げて笑うと。


「私と司令がよく似ているから、って言ったら怒るかい」


 首を横にふる。


「昨日のフィウメの判断は正しかったからな。それに俺が無理をして出ていたらフッドの誘拐に気付けなかった」


「そ、それは偶然さ! いくら私でも国を挙げてフッドを拘束しようとするなんて想像しないさ」


「そうだとしても感謝しているよ。それに紀伊のことも」


「なんでさ……。私はあの娘とは喧嘩しかしなかったぞ」


「紀伊は今まで喧嘩になったことがほとんどないんだ。ましてや初対面の人にあれだけものを言ったのは初めてだ。紀伊は分かっていないだろうけどフィウメなら紀伊の友人になれるからな。よかったら紀伊の友人になってくれよ」


 フィウメは顔を俯かせる。


「ま、まあ! 司令がそういうなら考えてやってもいいけどね!」


「さんきゅー」


 きゅー、と顔をリンゴのように赤くしたフィウメは艦橋の窓際まで歩いていく。

 顔を見られたくないとばかりに隠しており両手で自然と上がってしまう口角を下げようとしていた。


「ねえ、もしもの話なんだけどさ……」


 フィウメは改まって様子で言う。


「……?」


「もしもこの艦隊の誰かが司令のところに行きたいと言ったらさ……。受け入れてくれ来るかい?」


「なんだ。そんなことかよ。当然受け入れるに決まっているだろ」


 フィウメは夜の寒空に光る月を眺めながら。


「そう。まあ司令ならそういうだろうとはおもっていた」


「それで、そんなこと聞いてどうかしたのかよ。もしかして……」


「だ、大丈夫! ちょっと気になっただけだから! それより司令! あの英国淑女のところに行くつもりなんだろ。早く行って来た方がいいんじゃないの?」


 時計はすでに九時を回っていた。

 明日が明朝出港なのを考えると遅い時間だ。


「悪いな。遅くまで付き合わせて」


「いいよ」


 フィウメは月明りを背に笑みを見せる。

 煌びやかなイタリア人らしい笑顔に思わず息をのむ。


「司令。最後に聞いていい?」


 ああ、と言うとフィウメからの質問に、いや正確にはフィウメからの願いを聞いた。

 正直その答えに至るような状況にはなってほしくない。

 だが、その時が来るのなら。





「約束するよ」





 艦橋を降りると『フィウメ』接舷しておいたボートでサセックスのもとへと行った。フィウメ同様で訪問には驚いていたが今日会ったことを話しているうちに時間も遅くなったので明日に向けて就寝することになった。

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