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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第三章  赤銅色の旗
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第四部 「赤銅の航海者」 20

    *



《フランス パリ》


 17時00分

 直前にフランスからスペインまで飛んできていた伊織は踏んだり蹴ったりな状況だが、榮倉はフランスのパリまで戻ってきた。すでに太陽は沈みかけており、一帯には街を照らす照明が点灯し始めていた。

 ただ榮倉たちの目的は雑踏が溢れている観光街ではなく少し外れたホテル街だ。

 パリでは安い方に入る小さなホテルに四人の少女が宿泊している。

 榮倉はフッドと伊織、さらに葛西から一日だけ預かったシェリーの四人でパリのホテルの一室に入る。

 部屋の中は着替えが散乱していてどうも誰かの訪問を予想していなかったような様子だ。

 ちょうど風呂から上がった様子の菜月と鉢合わせする。もちろん女の子だけの部屋なのでバスタオルなど巻いておらず素っ裸だ。スレンダーな肉体に柔らかそうなお腹と女性らしく膨らんだお尻は水滴を含んでいた。


「えっ……」


 ドライヤーを持ったまま色っぽく黒髪を濡らした少女は固まっていた。

 髪から垂れた水滴が肩を伝って二つある小さな丘の谷間を通過する。

 繊細な美しい少女の肌は目の保養には十分だったが、見られた菜月はそれどころではない。


「あららー。菜月ちゃんったらだ・い・た・ん♪」


 こういう時に火に油を注ぐのが伊織だ。

 伊織に言われて我に返った菜月は一気に耳まで赤くして湯気でも上がりそうな勢いでペタンとへたり込んだ。


「もうお嫁にいけにゃぁいぃぃ……」


 小学生のように泣き出してしまう。

 榮倉の後ろで状況を見ていたフッドがあきれ顔をしていた。


「君の乗っていた『桜』はこんな感じだったのかい?」


「ま、まあ、だいたいは……」


 榮倉は来ていたジャケットを菜月に着せる。


「ほら、別にそのくらいで泣くな。減るもんじゃないだろ」


「でもぉ……。だったら責任とってお嫁に取ってください」


「嫁って……。菜月にはもっと相応しい男を探したほうがいいぞ」


 正直、菜月ほどの美少女が嫁に取れと言ってくれば断るのは非常に残念だ。

 むううと膨れている菜月をよそに後になって風呂から出てきた銀髪の少女、アリシアは準備万端でタオルを巻いてそさくさと着替える。心なしか菜月並みかそれ以上に顔が赤かった気がする。


「菜月さん、嫁はダメです」


「でも……」


 不服なままの菜月を放置してアリシアはベッドに隠れながら下着をつけて、シャツとスカートを履く。


「嫁の件はいずれ決めてもらうとしてどうしたのですか? スペインからわざわざ……。それも伊織さんまで」


「電話した件についてだ。菜月」


「ひゃ! ひゃい!」


 声を裏返らせながら返事する。


「シャルンは?」


「えっと! 奥の部屋です!」


「どういうことなのですか?」


「フッドがシャルンに話したいことがあるから緊急で戻ってきたんだよ」


「それだけですか?」


 いや、とアリシアの質問に答える。

 本当の目的はその先だ。


「えっと。僕はシャルンと話しに行ってもいいのかな?」


「そうだな。俺も行こう」


 あたしも、とすぐに服を着た菜月とアリシアもついてくる。

 伊織とシェリーはベッドに腰かけてテレビをつけだした。


「じゃあ大和くん。健闘を祈るよ」


「未来は君次第」


 榮倉は無言で頷きくと扉を閉める。

 隣室もほとんど同じ作りの部屋でベッドが二つ並んでいるだけの至って普通のホテルの間取りだ。唯一違うところは外に出られるベランダがあることぐらいだ。

 そのベランダに黒髪を風になびかせながらその少女は立っていた。


「あら、艦長。今は戦線に出なくていいのかしら?」


 真っ先に見たのは榮倉の方だった。

 フランスで別れる前よりシャルンは冷静になっているように見える。


「知らない顔もいるようだけど」


「ぼくはイギリス戦艦『フッド』。それだけ言えば『幽霊船(シャルンホルスト)』ならわかるでしょ?」


「ええもちろんよ。『偉大なる(マイティ)フッド』。それでその英国の淑女さまがこの私に何かようかしら?」


 別れた時にはこうして話もできなかったが時間というのは人の心を癒す効果を持っているのだろう。ただ、それで埋められないものがあるというもの事実だ。


「まあ戦線の様子はニュース程度だけど把握しているわよ。そろそろやばいからこのシャルンホルストの手を借りたいんでしょうけどおあいにく様、あなたに頼まれて手を貸すと思うかしら?」


 戦時中のイギリスとドイツの仲は言わずもがなで犬猿の仲だった。今はそのような歴史は薄れているが当時の思想が強く残っているシャルンホルストには二つ返事でやるという答えを導くことはできない。

 ただ榮倉自身から頼めば別だが、それではただの船。あの反転海域を抑えるには《戦人》の協力が不可欠だ。

 榮倉が妥協をせずに頼まないことを知ったうえでフッドは言い切る。


「協力するよ。君は僕たちに協力する。いや、協力しなくてはならない」


「それはずいぶんと自信を持っているようね。まさかとは思うけど私の艦長に頼ませるなんて手じゃないでしょうね? そんなことをすれば私はいくら艦長でも……」


「僕は君が僕に協力するといった。彼じゃない」


「……。へえ。そうなの……。それじゃあ聞いてあげましょうか。あなたが私を協力せざるを得なくさせる常套句とやらを!」


 その場にいた誰もが何を最初に切り出すか注目していた。

 菜月やアリシアは何を話そうとしているかですら理解していないがフッドが何を言おうとしているのかを知っている榮倉は落ち着かない。

 フッドは誰も予想しない形から入った。


「ビスマルク」

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