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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第二章  停滞・進捗・追憶・減退
7/92

第一部 「暁の水平線に」 7

    *



《日向灘沖 北緯31度28分東経132度05分》


 8月5日17時30分

 アメリカ政府は日米安全保障条約に則り今回の不明艦の制圧と確認のために原子力空母ジョージ・ワシントンを中核になす空母打撃群を日向灘沖に送っていた。空母一隻、ミサイル巡洋艦・駆逐艦それぞれ一隻、潜水艦一隻、補給艦一隻による艦隊はすでに戦艦『日向』を射程に捉えていた。

 数分後にはミサイル巡洋艦による超遠距離攻撃が見舞われ、追撃するように原子力空母の戦闘機が確実に仕留める―――



―――はずだった。




「おい! こんなの聞いてねえぞ!」


 アメリカ原子力空母ジョージ・ワシントンの航空機部隊長ルディ・ハワードは機体を左に旋回させながら横の様子を見た。


「バカみたいな話だ! 何が簡単な作戦だよ!」


 後ろに乗っている搭乗員が吐き捨てる。

 彼も見たのだろう。

 ちょうど雲に隠れていて見えなかったが戦艦の上空に航空機が大量に向かってきていたのだ。しかも10機や20機といった目測で数えられる数ではない。感覚で数えて200機を優に超えている。

 慌ただしく管制塔の空母から通信が入った。その通信もよほど慌てているのか暗号化も傍受を阻止するような素振りも一切なかった。


『ルディ! 指示を待て! それまで近づかれないように旋回するんだ』


「わかっている!」


 原子力空母から発艦した50機もの航空部隊はそろって旋回を開始した。演習を見ているような見事な連携で全航空機は統率された動きを見せる。

 200機を超える敵航空部隊は旋回に移った様子を確認するとすぐに追いかけてきた。問題なのはただ連携もなくがむしゃらに追いかけてきているわけじゃないことだ。あの航空部隊はかなりの練度だ。

 ルディも空軍でかなり長い年月の訓練を行ってきたが敵航空部隊はその連携力、飛行技術に匹敵、いやそれ以上の飛行技術を持っている。

 何より恐ろしいのはマッハ一で飛行する航空部隊を敵航空隊はほぼ同じ速度で追尾していることだ。


「ちょっと待て! あの機体に見覚えがあるぞ!」


『奇遇だなルディ。俺もだ』


 そうだとしたら現代の航空機を追い掛け回せるということが信じられないが、実際に追われている以上信じざるを得ない。


 

「あの前時代的なフォルムに前部に着けられたプロペラからかすかに聞こえるあの駆動音、緑色の機体、そして両翼の日の丸は……」






「『ゼロファイター(ゼロ戦)』」






 自分で言ったことがこれほど信じられなかったのは人生でこれが初めてだ。

 ルディが今操縦している機体はアメリカでも最新に最も近いスーパーホーネット。最高速度はマッハ1.6。対して零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦はせいぜい580キロ。ルディの機体を追いかけることはできないはずだ。

 現実は後ろのゼロ戦部隊はルディたち攻撃部隊を追いかけている。


『信じられねえ。こりゃもしかしたら真珠湾(ハワイ)の再来かもな?』


「日本が裏切ったということか?」


『さあな。だが、俺たちを追いかけているのは間違いなく日本機だ』


 どうすべきか悩んでいた時だった。

 空母本体から通信が入った。


『艦長のジョン・オシェイだ! 航空部隊は全員無事なのか!? 無事だったらすぐに帰還しろ! 問題が起きた!』


「艦長! ルディ・ハワードです! 問題とは?」


『新たに5隻の不明艦が浮上した! おそらく空母だ。お前たちを追っている戦闘機はその不明艦から発艦したものとみて間違いない! 状況の整理と攻撃隊の再編成に入るからすぐに戻るんだ!』


「了解! 振り切って見せます」


    報告  第一次攻撃には失敗した

        第二次攻撃の予定はなし

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