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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第二章  赤銅色の鮮血
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第四部 「赤銅の航海者」 17

「戦場の英雄さんよー!! らしくねえなあ!!」




 若い男の声が署内に響き渡ると数秒後に窓ガラスが割れる音が聞こえてきた。

 ガラスの割れる音に混じって爆発音まで聞こえる。


「おい! 何事だ! 状況を把握しろ」


 署長も状況を把握できていないくらいに唐突な出来事だった。

 すぐに警報装置が作動し、緊急の隔壁が下ろされる。

 最上階の署長室は特に厳重な箱で囲まれた。


「まさか、侵入者なのか……」


 シャッターが閉まり携帯が使用できなくなり、署長は備え付けの内線を掛ける。


「くそっ! うんともすんとも言わねえ!」


 投げ捨てるように受話器を置く。

 榮倉も状況の変化についていけていなかった。

 そんな榮倉を導くような声が聞こえた。


「ばっきゃろー! もうちっとシャキッとしやがらないとこっちの調子が狂うんだ!」


 刹那、署長室を仕切っていた隔壁が爆発した。壁を効率的に破壊する爆弾を使ったのか破片はほとんど飛んでこず土煙と同時に若い小柄な男が入ってきた。

 両手にはモデルガンでよく見るようなアサルトライフルを握り、腰には数多くのグレネードがぶら下がっており背中には軍事用のリュックサックをからっていた。見るからに軍人のようだが、榮倉の受けた印象は軍人と言うよりは秘密裏に行動し、目的を果たす暗殺者に見えた。


「あんたとは初めましてだな。俺は葛西哲也だ」


「あ、ああ……」


「まあそういう訳だから。ちょいと手を貸すぜ」


「手を貸すって……。いったいどういうつもりで」


 困惑している榮倉をよそに同じ部屋にいたディマーニが侵入者の葛西を排除しようと胸に入れた拳銃を抜いた。

 さすがに反撃を予想していなかった葛西は気づかない。

 無理だ、と結論付けた瞬間、土煙の中から別の銃声が聞こえてきた。


「なにっ!」


 ディマーニの取り出した銃は土煙からの銃撃によって弾き飛ばされ、宙を舞う。


「悪りぃ。また世話になったな〝シェリー〟」


「問題ない。フッドは三階。もうすぐ時間だから早く」


 無機質な声が聞こえ土煙の中から日本人の少女が出てきた。


「という訳だ。とりえずこれを使え。これがあれば足首のじん帯を使わずに歩ける。走ることはできないだろうが、少しは移動も早くなるだろ」


 葛西はそういって独特な形をしたギプスを渡す。義足にもよく似たギプスを葛西に言われるがまま装着する。最初は違和感を覚えたがすぐにまるで自分の足のようにフィットした。


「よし、さすが理解度が早くて助かるな」


「それより、あんたらは何をしに来たんだよ。こんな無茶苦茶やって」


「心配するな。無茶苦茶なところが俺の取柄でな。それに、今回だけはそこのシェリーが手助けは必要だって話だったからな」


 葛西に案内されながら階段を降りると長い廊下があり突き当りのドアをシェリーと呼ばれていた少女がぶち破る。

 どうやら部屋の中は医務室のようだ。ほとんどのベッドが空いていたが一つだけ使用されているベッドがあった。榮倉はそのベッドに横たわっている人物を見てすぐに歩み寄った。


「フッド!」


 電極が張られた胸には包帯が巻かれており、わずかに血もにじんでいた。

 おそらく最初にフッドを病院で治療してから一度も包帯を取り換えていないのだろう。長時間血の付いた包帯を巻き続けると化膿して皮膚が壊死する可能性もある。包帯を変えたい気持ちは山々だったが榮倉には医療知識がない。

 奥歯を噛みしめ、自然と拳を握りしめていた。

 榮倉の状況を察したように肩に手を置くと。


「落ち着け。治療ならシェリーができる。それよりもうすぐ迎えが来るから準備しろ」


「迎えってどういう―――」


 聞くより前に答えが目の前に現れた。

 割れた窓ガラスの前に巨大な鉄の鳥が姿を見せた。黒塗りのヘリがホバリングしておりドアを開けて乗れるように橋を架ける。

 榮倉は葛西たちの行動に一つの言葉しか浮かばなかった。


「ホントに……無茶苦茶だな……」

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