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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第二章  赤銅色の鮮血
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第四部 「赤銅の航海者」 15

    Ⅶ



《スペイン ビルバオ》


 日も昇っていない深夜の三時に榮倉は港まで五人の《戦人》を見送りに行った。

 自身の内火艇で出港した五人を見送り、榮倉は一人で松葉杖を突いてホテルまで引き返す。今日の彼女たちの動向を知るにはテレビなどの一般電波しか方法はない。気にならないかと聞かれれば気になると即答するが、榮倉大和が今最優先でやるべきことはケガの治療と休息だ。

 ただ、その前に済ませておきたいことがあった。

 ホテルと港の中間部にある公立病院。

 ビルバオにある病院では大きい方に部類する病院には昨日負傷した『フッド』が治療のために入院している。

 フッドはどうやって作ったのか『シャーリー・フッド』という名のイギリス人としてのパスポートを持っていたようですぐに治療を受けられた。榮倉の知りうる戦人は紀伊のように籍を持っていないことが多い。今までシャルンは『シャルル・ダットン』というパスポートを使って行動していたようだが、ポスポートを持って街を歩いている戦人は数えるほどしかいない。

 今回参加を許諾した『フッド』以外の全員が無国籍だ。

 榮倉は松葉杖を突きながらエレベーターに乗ると携帯を確認した。

 時刻は朝の六時過ぎ。


「さすがに寝ているだろうな」


 承知で榮倉は受付で事前に聞いておいた病室に向かう。

 無機質な廊下を歩くと杖の音と靴音が交互に響きわたる。

 病室に着くまで音を響かせ、病室の前で止まった。

 病室の前には『シャーリー・フッド』の名前が書かれている。ここで間違いない。

 ドアをノックする。


「フッド?」


 しばらく返事を待ったが帰って来ない。

 まだ目覚めていないのかもしれないと思いドアを開いた。

 直後に言葉を失った。


「……」


 病室には一つのベッドがあり、白いシーツが掛けられていた。心電図を示す電極も伸びており、心拍をしていることを現していた。

 ただ、そこにいるはずのイギリス人の少女の姿はなかった。

 代わりにあったのは冷たい機械だけだ。

 心電図の電極が外れたことが見つからないように巧妙な細工がされており、とても素人が人さらいをするためにやった行動には思えなかった。


「まさか!」


 榮倉は痛む足を懸命に踏ん張らせて急いで受付まで戻った。

 エレベーターを降り、受付に行く。

 最初に聞いた時に受付の彼女は英語が分かることは知っていたので英語で聞く。


「なあ! あんた、俺が見舞いに来る前に誰か来なかったか!」


「……? ええ来ましたけど……。四名ほど」


 やっぱりと思った。

 受付の話では若い男性でスペイン警察の格好をしていたという。榮倉はすぐに日本にいる『国際連合海軍』へ連絡を入れ、状況の報告を待った。

 フッドは少なくとも攫われたのではなく、おそらく、スペイン当局が身柄を確保したのだろう。紀伊やシャルンホルストのように顔バレしていない《戦人》がほとんどだが、中には顔写真が世間に通っている《戦人》もいる。

 ヨーロッパの《戦人》事情に詳しいわけではないがおそらくフッドは顔が割れていた。そうでもなければスペイン当局が外国人の身柄を乱雑に確保するわけがない。

 病院を出て榮倉はタクシーを捕まえて近隣の警察署に行くように伝えた。

 条件はセキュリティが万全で交番のような小さな場所ではないことだ。そういわれると一か所しかないと言われ、榮倉はそこへ向かう。

 時間はすでに七時を回り、近い時間のうちに海戦が始まるだろう。

 榮倉はふと携帯でネットニュースを確認したがまだ更新されていなかった。

 スペインの警察署までは二十分ほどで着いた。

 松葉杖を突きながら門をくぐり、室内に入ろうとすると入口に立っていた警備員に停められる。

 スペイン語で何か言われたが理解できないのでその旨を英語で伝える。

 英語を警備員が分かるか不安だったが首を縦に振って英語で返す。


「悪いけど今は重要な案件以外は別の交番に回ってくれ」


「なんでだ」


「詳しいことは言えないが重要な人物をこれから護送する。それだけだ」


 どうやらこの警察署で間違いなさそうだ。

 警備員は一人も中に入れるつもりはないようで門の前で腰を据えている。


「それで君は何用で来たんだ? 用件だけは聞く」


「人探し、いや、誘拐だ」


 警備員が眉をひそめた。


「ほう、それはどういうことだ? 誘拐された人物の名前は」


 榮倉は少し考える。

 本名を言ったところで追い返されるのは明白だ。


「シャーリーだ。高校生くらいのイギリス人の女の子だ! その子がケガで入院していた病院から姿を消した」

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