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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第一章  赤銅色の――
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第四部 「赤銅の航海者」 5

    Ⅲ



《フランス パリ シャルル・ド・ゴール国際空港》



 1月6日 現地8時間時30分

 ドイツとの中継地点であるフランスの国際空港、シャルル・ド・ゴール国際空港はすでに飛行機の利用客で溢れていた。

 日本では目立つアリシアの銀髪も雰囲気の中に溶け込んでいる。

 榮倉たちの同行者にもう一人日本では目立つ髪色をした少女がいた。

 ほとんど白に近いプラチナブロンドの髪をしたセミロングの少女は()(おう)()(おり)。飛行機疲れで彼女に膝枕をしてもらっている菜月より一つ年上だ。外見から東洋人には見えないが欧州人にも見えないという中立的な顔立ちをした少女だ。

 伊織は膝の上で寝ている菜月を起こさないようにしながら訊いた。


「それで、これからどうするの。次のドイツの便は四時間後なんでしょ」


 今回の旅行に同伴したのは榮倉を除いて四人だ。

 菜月、伊織、アリシア、シャルンの四人がフランスの地に踏み入った。

 当然空港内のアナウンスは全てフランス語だった。


「シャルンがビスマルクと連絡とってどうすればいいから聞いているからそれまで少し待機だな」


「大和くんってフランス語分からないの?」


「英語ならできるんだがな」


「知ってる。まああたしもできないんだけど、何となくは読めるから少しは頼ってくれてもいいんだよ」


「助かるけどフランスに長居しないだろうからな。とりあえず近くの店で朝飯にしようと思うんだけど」


 伊織の膝で寝ている菜月を見る。


「菜月ちゃん、朝ごはんだって」


 肩を揺するとうつろな目でむくりと起き上がった。


「あ、はい……。……」


 しばらく呆然としてここがフランスだと気付いて目が冴えたようだ。


「フランス! フランスですよ!」


「そうだな」


「フレンチ! フレンチを食べましょう!」


「気持ちは分かるけど朝からフレンチは重いんじゃないか。今は軽くフランスらしいトーストあたりで妥協しよう」


「そ、そうですね! すいません、フランスに来たのは初めてだったので」


 顔を赤くする。

 椅子の横に置いた松葉杖を取って立ち上がる。

 医者的にはまだ車椅子で安静にしていてほしいということだったが榮倉が無理を言って松葉杖で外出することを許可させた。

 荷物をコインロッカーに預けると喫茶店のような慎ましやかな雰囲気の店に入った。一瞬、とんでもなく高そうな店かと思ったがさすがに空港内の店だけあってお手頃な値段ばかりだった。

 数人の欧州人がすでに席に着いていたが榮倉たちは空いている席に座って朝食メニューを注文する。

 メニュー表を店員に返すと携帯とにらめっこしているシャルンに声を掛ける。


「ビスマルクと連絡取れたか?」


 シャルンの表情はフランスに来てからずっと暗い。


「それが……。取れないのよ」


「海外だから繋がらないんじゃないのか」


「いいえ。ここならWi-fiがあるからSNSの通話サービスを使っているんだけど、いくら掛けても呼び出しできませんって帰ってくるのよね」


「ちょっと貸してみ」


 シャルンからスマホを受け取るとビスマルクの連絡先が開いてあった。ただ電話もメッセージも見た形跡が一切残っていなかった。

 メッセージを送れている以上はシャルンのスマホに問題があるようには思えない。

 受け手側に問題がある可能性が高いが以前からこの時間に連絡することを知っていたビスマルクが受けられない状態で待っているとは思えない。


「ほかに連絡する方法はないのか?」


「私の船があれば通信回線で直接連絡することはできるわ。でも……」


「船は日本だからな。だったら最後に連絡付いたのはこっち(フランス)の時間で深夜一時三分が最後なんだな」


「ええ。通話もしたわよ。その時はまだフランスにいたようだけれどどこにいるかは何も聞いていなかった」


「心配だな……。なあ、何かあったという可能性はないのか? たとえば誘拐とか」


「考えにくいわね。桜と紀伊とこの私を見ているから分かるでしょうけど《戦人》の運動神経は並みじゃないわ。あなたのところの『紀伊』は例外のようだけれど護身術程度なら誰もが身に着けているでしょうし、正直ビスマルクに格闘で勝てるのは日本の『信濃(しなの)』くらいじゃないかしら」


「ビスマルクってそんなに強いのか」


「ええ。バリツとジークンドーを合わせた感じの格闘術なんだけどあれはどちらかというと独学のビスマルクだけの各同術みたいな感じだったわね」


「バリツってイギリスの格闘術じゃなかったか?」


「そうよ。だからほとんど使わないしビスマルク自身も好きではなかったみたいね。格闘術は置いておくとして、問題は連絡の方よ」


 榮倉はどうにか連絡する方法はないかと考えを模索する。

 政府に協力を煽ればできないことはないだろうが現在の《戦人》に対する反発心から快く頷いてくれるとは考えられない。

 店員によって注文したモーニングセットがテーブルに並べられ、バターと一緒にトーストを一口食べる。

 榮倉たちの注文で最後だったのか店員は一息つくとカウンターに設置されたテレビを点けた。チャンネルはフランスの国営放送のF2だった。国内の大統領選挙の活動を中心に放映していた。

 長い間見続ける理由もなく榮倉はビスマルクとの連絡方法を探すためにシャルンのスマホを使って考えていた。

 シャルンのアドレス帳には携帯番号も登録されていて試しに掛けようと試みたが電話代がバカにできないので途中でやめた。仮にかけられたとしてもSNSの通話に出ないのであれば通常の電話で出るとは考えられない。

 頭を抱えていた時だった。

 シャルンの手が電池の切れたロボットのように停止していた。


「……。」


 表情も青ざめていてまるで死神を見てしまったようだ。

 ぽとりと手に持っていたバターナイフが床に落ちる。


「シャルン……?」


 彼女の動揺に気付いた菜月と伊織、アリシアも手を止めていた。


「シャルン、どうしたんだよ」


 肩を揺するが、嘘よ、と何度もつぶやくだけで目の前の光景が見えていないようだ。

 シャルンはずっと店員の点けたテレビ画面を見ていた。


「一体何を……」


 テレビ画面を見た瞬間、背筋が凍り付いた。

 榮倉にも分かる英語の翻訳がこう示してあった。


『「反戦人」を旗印に掲げる集団 ビスマルクと思われる戦人を暗殺する』






 すぐに日本にいる自衛隊と『国際連合海軍』に事実確認をするように要請を送った。

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