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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第一章  赤銅色の――
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第四部 「赤銅の航海者」 4

    Ⅱ



 昼食を食べ終え、正月らしくソファでくつろいでいると二階に上がっていた四人のうち二人が戻ってきた。照明すら照らし返すくらいに輝いている銀髪の小柄な少女と彼女より少し背の高い日本人らしい体系をした黒髪の少女だ。

 銀髪の少女は妹である結の同級生になる。


「大和さん、さっきのメールの大事な話ってなんですか?」


 黒髪をした少女、高谷菜月はかけていたメガネを外してケースに入れるとポケットにしまう。キッチンに向かって冷蔵庫を開けると中からオレンジジュースをコップに注ぐ。


「菜月とアリシアはドイツには行ったことがあるのか?」


「ドイツ、ですか。さすがに欧州はないですね。行ったことがあるのはエジプトとイスラエルくらいですから」


「そりゃまた珍しいことで」


「父の仕事の都合で小さいころに行っただけなんですけどね」


「アリシアはどうだ?」


 真っ先にソファで隣に居座った銀髪の少女に聞く。

 うまい棒を齧りながら振り向く。


「私はイギリスに暮らしていましたのでドイツとは無縁でした」


「食いながら喋るな。あと菓子ばっかり食っていると太るぞ」


「イギリス人は太りませんので大丈夫です」


 アリシアはスレンダーな身体を見せびらかすような格好でうまい棒を飲み込む。


「あの、ドイツってシャルンさんの母国ですよね? それがどうかしたんですか」


「いや、せっかく二月まで動けないんなら来週あたりからドイツに観光にでも行くことにしたから。出発の準備は各自でしておいてくれたまえ。あ、ちなみに是非もないぞ」


 菜月は絶句していた。

 榮倉の怪我の具合は彼女が一番と言って良いくらいに詳しい。二月までに完治する見込みなのに海外旅行なんて不安材料の多い場所に行けば余計に治癒に時間がかかってしまう。

 黙って麩菓子を食べていたアリシアの手もぴたりと停止している。

 そして、榮倉の正面に回ってソファに押し倒し、上乗りになると顔を近づけながら。


「バカなのですか?」


 ド直球に言ってきた。


「今回はアリシアさんに同意します。大和さん、フットボールをやっていたのならじん帯損傷って治すのに何が重要か知っているはずですよね? そんな状況でドイツ旅行なんて断じて許しませんから」


「そこを何とか許してくれ将来のお医者さん」


 両手を揃えてアリシア越しに頼み込む。


「あの、私も許していないのですが」


「アリシアも頼む! 土日も含むからイギリスにも行くんだ。チケットも用意できるって話だったからチェルシーの試合も見られるんだぞ。行きたくないのか? ちなみに俺はすごく行きたい」


「う……。それは」


 ちょろいと内心で考えてしまいながらも平静を装う。


「見たいだろ? だから頼むよ」


 不服そうにしながら菜月はコップを流しに置いてソファに腰かける。


「どうしてそこまでしてドイツに行きたいんですか?」


「実は……」


 寸分の偽りなく理由を話した。

 ビスマルクの誘いであることから榮倉自身が以前から菜月たちを旅行に連れて行きたいと考えていて二月からは時間も余裕もないので今のうちしかないこと。

 菜月たちはフィリピンや『国際連合海軍』の都合でロシアに行ったことはあったが、観光するような余裕はなかった。数少ない休息の日をリフレッシュに使うことは悪いことではないだろう。

 黙って事情を聴いていたアリシアと菜月は一通り理解すると大きなため息を吐いた。


「分かりました……。今回だけですからね!」


 しぶしぶ同意してくれた。

 アリシアも似たようにしていたが黙って榮倉の上から退いてテレビを点けた。

 正月らしく特番ばかりが組まれており駅伝など正月スポーツも満載だった。アリシアはテレビを適当なチャンネルにして画面を眺める。

 菜月はテーブルのみかんを一個とる。


「それで、シャルンさんと結ちゃんはどうしたんですか」


「買い物」


 みかんを半分に開いてから皮をむく。


「どこに」


「ショッピングセンター」


「旅行の買い出しとかですか」


「あと夕飯も」


「へー」


「あ、俺にも一個みかん取って」


「ん」


 菜月はみかんを一節咥えながらテーブルのみかんを一個手渡しする。


「さんきゅ」


「ところで朝からどこに行っていたんですか?」


「シャルンと散歩。港まで」


「雪が降っているんですから出歩かないでと言いましたよね」


「言ったな……」


 榮倉はみかんの皮を剥いてゴミ箱に投げ入れる。


「あ、入った」


「物を投げないでください。あと分かっているのなら一日くらい家に居てください」


「たまにはいいだろ」


「たまにはじゃなくて毎日じゃないですか」


「良いだろ別に」


 みかんを一切れ食べる。

 今年のみかんは全体的に甘みがあって美味い。


「良くないですって」


 夫婦間の会話のような調子の二人を見ていたアリシアは不服そうな顔でテレビの前で何かごそごそとすると会話に割り込む。


「ゲームをしましょう」


「急にどうしたんだ」


「フットボールのゲームがやりたくなったので榮倉さん、相手をしてください」


 小学生のような理由でアリシアはソファから立ち上がるとテレビの下に置かれたゲーム機を接続してゲームを立ち上げる。

 コントローラーを二つ持ってくると一つを榮倉に手渡す。


「ちょっと待ってろ。みかん食い終わってからな」


 アリシアはエキシビションのモードを選択してすぐに自分の好きなチームを選んでいた。


「またチェルシー使うのかよ」


「一筋なので。私はゲームでもストークやアトレティコなんかに浮気はしません」


「しょうがないだろ。同じチームだと面白くないし」


 体を起こしてテレビ画面に見向いてチームセレクトする。

 榮倉たちがゲームに没頭し始めたころには時間はすでに三時を回っていた。

 程なくして買い物に行っていた結とシャルン、紀伊の三人も帰り、残りの同居人にもドイツ旅行を知らせた。

 無論、反対されたが菜月が承諾していることを知ってからは呆気なく付いて行くことを決定した。

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