第三部 「幽霊船の航路」 9
Ⅰ
《北海道函館》
12月31日
駆逐艦『桜』によって無力化された輸送船はアメリカ軍が内部制圧を行った。軍関係者の死者は一人もおらず、いるのは軽傷者だけだ。ただ、輸送船内にいた日本人の若者たちは全員が銃の扱いに関して素人で13人が銃の暴発や操作ミスによって死亡した。
残った43名は『連合海軍』が身柄を確保し、函館まで移送された。その最中にいくつかの情報も流れている。
その一つが輸送していた武器を使う予定だった部隊の集合場所だ。
この一件に関しては日本の機動隊が対応することで決着し、ロシアクーデター未遂事件として名前を残すことになった。
クーデターに関する事件は解決に向かっていたがひとつだけ解決していないことがある。
それが榮倉に協力した三人の《戦人》の処遇だ。
中には武力行使で撃沈させるという意見も上がるくらいに同じ組織にいることを毛嫌いされている。
そんな中で三隻もの戦艦が函館に入港すれば余計な混乱を招きかねない。
それもあって三隻は津軽海峡に船を置くことになった。
目下のところはクーデターに関する対応に追われるだろうが、対『大和』戦で重傷を負った榮倉は函館の病院にいた。
左足首のじん帯損傷に右脇腹裂傷、あばら骨二本にヒビが入っているらしい。
そんな榮倉に向かっているのが菜月だ。
「それで、何か言うことは?」
「なにか、とは……?」
「無茶をしないと言って平気で無茶をする嘘つきに対する言い訳をください」
ぐ、と言葉に詰まる。
「それは……」
「言い訳くらいしてくださいよ……。ばか」
「悪い」
下を向く榮倉のおでこにびしっとデコピンをさく裂させる。
「いでっ」
「謝らないでください。謝罪は繰り返すほどに価値を失うんですよ。だから謝罪を安売りしないでください」
「わる――」
「むぅ……!」
膨れる菜月に思わず口を噤む。
今回に関しては少し無茶をしすぎた感は否めない。
少しは自重すべきかもしれない。
「もういいです。大和さんはいくら言っても聞きませんからこれ以上の言ったところで時間の無駄ですからね」
「そんなに信用ないのかよ」
「当然です」
「……。」
ため息交じりに麦茶を飲む。
「ところでさっきまでシャルンホルストさんとビスマルクさんがいたようですけど何か話をしていたんですか?」
ぴたりと手が止まる。
「まあな」
「そうですか」
ぱたりと会話が止まる。
榮倉は話すべきか悩み、菜月は言及した方が良いのかと悩んだ。
「なあ、菜月は伊織やアリシアと意見が割れたらどうする?」
「唐突ですね。意見が割れると言っても状況に寄りますよ。たとえば夕食の件だったりすれば毎日のように意見は割れますし朝食はパン派のアリシアさんと伊織さんとは毎日決戦ですし、どうすると聞かれても即答できないです」
「そりゃそうだよな」
榮倉は暗い表情のまま顔を俯かせる。
ただ、と菜月は続ける。
「もしも喧嘩したとしても私は二人がどうなってもいいなんて思いません。何かあれば心配しますし嫌いになることはないですよ。だって本当の友人であるのならその程度で嫌いになれるはずがありませんし、何よりその程度の仲なら長い間一緒に居られませんよ」
榮倉は少し気が楽になった気がした。
数十分前のことを思い出すともう少し別の対応もあったのではないかと思うところもあるが、それでも菜月がそう断言できるのなら親友のあの二人が絶交するとは思えなくなった。
「ところで時間は大丈夫なんですか?」
「時間?」
「え?」
「え?」
二人してキョトンとした顔をする。
「今日は大晦日、ですよね……?」
菜月はカレンダーの日付を見る。
隣のデジタル時計も大晦日の十六時三十分を示していた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 忘れてた!!」




