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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第一章  鉄血宰相と幽霊船
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第三部 「幽霊船の航路」 3

 榮倉は自らの耳を疑った。

 真っ先に反応したのは伊織だった。その男には三人の中で一番因縁が強い。


「なんであの男が! あいつはまだ武蔵野刑務所に拘留されているんじゃ!」


「ええ。でも彼らはとっくに別の手段を用意していたみたいよ。ところで彼の目的は何かわかるかしら?」


 ビスマルクは寿司に醤油を付けると一口で食べる。


「フィリピンで聞いたことは第一に戦争を起こすことだって言っていた」


「なるほどね。それで次は?」


「国の指導者になることだ」


 ふふっと今度はシャルンが笑う。


「やっぱり無理ね。彼の計画は壮大で世界を変えかねないかもしれないけど、どう考えても不可能なようで笑っちゃうわね。国の指導者なんてなろうと思って簡単になれるものではないし、何より犯罪者として名を馳せた以上その目的は果たせそうにないわ。それに、今のままじゃ戦争は起きないもの」


「ど、どうしてですか?」


「日本人には難しかったかしら。一昔前は一国同士の戦争が主流だったけど、グローバル化が進んだ現在となっては一国対世界になってしまうの。それが何を表しているかくらいは分かるわよね」


「勝てない戦争はしない、と……?」


「そういうことだ。どこの指導者も負ければ責任に追われる。戦争というのは莫大な費用と資材、人材を食べて太っていくものだからね。そこのビスマルクのように好戦的だと丸々となるわ」


「シャルン。それは関係ないわよね。これでもモデル体重よ!」


 ビスマルクは毒づくが話は真面目に続ける。


「特に今の指導者なんて命あっての指導者じゃない。諸葛亮公明のような軍略なんて今では意味がない。情報はほとんど筒抜けだからその命が亡くなれば国の反発力はなくなり、あとは蹂躙されるだけの日々よ。それに今の日本政府が戦争すると思う? 対戦人となれば状況は別だけど日本には対戦人で戦争を煽っても対抗手段がないし、作ることも許されない。今の状態ならね」


 最後の言葉でぞっと寒気がした。

 現状に不満なら何か行動する。三池忠久はそのためなら手段を選ばない。


「あなたたちも何となく察したようね。ここからは本題。三池忠久がやろうとしているのは『クーデター』よ」


「っ!」


 まさかというのが最初の印象だった。

 しかし、三池忠久ならやりかねないと思う。


「はい、そこの銀髪貧乳。クーデターを起こすために必要なのはなんだと思うかしら?」


「……。貧乳じゃないので」


「こうも頑固にされると話が進まないわね。まあいいわ。あなたなら分かるかしら?」


 明らかに不機嫌なアリシアに変わって隣の伊織に視線を向ける。

 伊織は一瞬の迷いもなく。


「武器と人質、そしてたくさんの人材だよね」


 ビスマルクとシャルンは正解が返ってくるとは思っていなかったのか目を丸くして驚いていた。


「あたしの出身は日本じゃないからね。この名前は後付されたものだし」


「詳しいことは聞かないでおいた方が良いわね」


「それ良いから。クーデターの話に戻ってくれない」


 ビスマルクが先に答える。


「そうね。クーデターの準備はもうほとんど済んでいるわ。あと必要なのは大量の武器だけよ」


「ほとんど!? だったらすぐに!」


「焦らなくても大丈夫よ。武器がなければ彼らは動けない」


「じゃあどうするんだよ。待っていてもじきに動くんだろ?」


 ほとんど発言していなかったアリシアがふと聞く。


「ですけど、クーデター程度で政権が奪えるのでしょうか」


 ビスマルクは頷く。


「ごもっともな意見ね。現在の治安や警備隊の力は圧倒的だからただ一般人に武器を持たせる程度でクーデターが成功するとは思えないわ」


「だとすれば無視することもできるのではないでしょうか?」


「いや、クーデターが起きたという事実だけであっちには成功に等しいと思うぞ」


「アリスちゃん。たとえば反戦人のデモ運動もそうだけどもしも彼らがデモ行動をしなければ私たちは身の回りの人間が戦人の存在を否定していることを知らなかったでしょ?」


「はい……」


「クーデターも一緒。成功するかしないかは問題じゃない。起きたという事実があればそれを皮切りに指導者への道の一歩になるの」


 ビスマルクは最後の一貫を口に入れると満足したように水を流し込む。


「さて、とりあえず話は港に帰りながらしましょうか」


 榮倉たちは席を立つとカウンターで支払いを済ませる。

 腹いっぱいになった一行は寒い雪国を歩きながら乗ってきた車に乗り込む。

 シャルンとビスマルクも同じように榮倉の運転する車に乗り込む。


「なあ、クーデター以前の質問をしていいか?」


 シャルンが返事をした。


「なによ。藪から棒に」


「どうしてドイツ人なのに日本のことに首を突っ込むんだ?」


「これは私たちの間だけの契約なのよ……」


 榮倉は御大層な理由を想像した。

 国家間の契約や戦人と何者かの秘密裏な契約、といったものを想像した。

 だが。




「フットボールの試合に影響が出るからよ」

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