第二部 「ベーリングロスト」 3
Ⅱ
《イギリスロンドン ハマースミス・アンド・フラム・ロンドン特別区》
イギリスの首都ロンドンの西部に位置するチェルシー地区は一帯が高級な住宅街になっておりまさしくイギリス紳士の街並みだった。隙間なく並んだ石製の住宅が立ち並ぶ地区を進むと次第に地域カラーがブルーに染まっていく。
ブルーの住宅街の中心点に行くと大きなスポーツスタジアムがあった。
門の前には『Match Day V Monaco SOLD OUT』と書かれた看板が立っている。
さらにブルーのユニフォームを来た熱心なファンが選手のフェンスアートの前で記念写真を撮っていた。
ここはサッカースタジアムだ。
そんな大勢の人が集まるスタジアムの中に一人のドイツ人の少女が混じっていた。
いちファンとして応援しに来た少女は正面スタンドから応援のチャントを歌う。
「Blue is the colour, football is the game. We're all together and winning is our aim. So cheer us on through the sun and rain. Cos Chelsea, Chelsea is our name!」
少女だけでなくたくさんのファンの大合唱の後に審判のキックオフの笛が鳴り大歓声と共に試合が始まる。試合は早々に動いた。
エースがドリブルでサイドをえぐるとストライカーが見事に決めて幸先のいい先制点を挙げる。
歓声が一層増しスタジアムは揺れているかのような感覚すら覚える。
少女も同じように喜んどいた頃にポケットに入っていた携帯電話が震えた。
「誰かしら……」
携帯を取るとそこには見知った番号が示されていた。
通話ボタンを押す。
「ビスマルクじゃない。どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ! あなた何しているのよ! 何でロンドンにいるのよ! 船はどうしたわけ! それに何でサッカー観戦なんてしているのよ!』
「ビスマルク。そう叫んでははしたないわ。それじゃあイギリスを脅かしたドイツ戦艦の名が廃れるわよ」
『そんな名誉はどうでもいいわよ。それに連合国のライバルだったイギリスのチームを応援しているあなたには言われたくないわね』
「スポーツに国境も連合国もないわよ。オーストラリアのピーターノーマンを見習ないなさい」
『私はそこまでは言ってないわよ。それより質問に答えなさいよ。とりあえず船はどうしたのよ。まさかドーバー海峡に置きっぱなしじゃないでしょうね』
「そうよ? 何か問題でも?」
『ないと思っているのかしら! さっさと通過しなさいよ!』
「この試合終わったらね」
『シャルン……。あなたは少し緩んでいるんじゃないかしら? あなたに沈まれるとこの私にも迷惑がかかるから少し牽制入れておくから! 明日までにノルウェーに行く準備するのよ!』
「分かっているわよ。それよりあなたのチームは今日の試合どうだったの?」
『ちゃんと二点差で勝ったわよ』
「お、カウンター!」
シャルンと呼ばれた少女は立ち上がってプレーに見入る。
スタジアム内にシュートを撃てというコールが響く。
ボールを受けたストライカーはワンタッチでキーパーをかわすと見事にネットを揺らした。ネットが揺れると同時に怒号のような歓声が上がり決めた選手がセレブレーションを披露する。ちょうどシャルンの前に着た選手はポルトガル語で何かを叫ぶ。
「今のカウンター観たかしら? すごくない? ゴールキーパーのスローからたったの五回のパス交換でゴールだったわよ!」
『観たわよ! 憎たらしいくらい見事だったわね! それよりちゃんと話を聞け』
「ああ、悪かったわね。それで何の話だったかしら?」
『……』
電話越しにため息を吐いている声が聞こえる。
『明日までにノルウェーに行けってことよ』
「そっちだと少し遠くないかしら? グリーンランド通った方が早く着かないかしら?」
『バカね。冬序盤とはいえ北極は普通に凍結しているのよ。それにあっちは商船の出入りも少ないから割れた氷の航路もほとんどないわよ。日本の戦艦が一人で北極を南下していると聞いたけどあれは日本の変態技術だから参考にならないのよ』
「その話本当なの? シェリーの情報だから信じていないわけじゃないんだけど、常識的に信じられないわ」
『さあ? それはベーリング海まで行けば分かるんじゃないかしら?』
「それもそうね」
『それじゃあ私は忙しいから切るわよ。それから来週までにちゃんとノルウェーまで上がってくるのよ! いいわね』
「分かっているって」
話が長くなるのも嫌なのでシャルンは電話を切って残りの試合に見入った。




