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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第三章  哀史の末に
20/92

第一部 「暁の水平線に」 20

    Ⅳ



 甲板に出た榮倉たちは空を見上げた。


「どうだ。見えるか?」


「いえ、月明かりだけじゃ暗すぎて見えません」


「だよな。どうするんだよ。これじゃあ確認しようがないぞ」


 必死に目を凝らして視認しようとするが月明かりしかない海上で空を飛ぶ航空機なんて見つけられなかった。今まで小さな明かりしかなかった機関室にいたからと言って多少は夜目が聞いているはずだが見えそうにはない。


「だいじょうぶ。みえる。みぎげんにじほうこう」


「なに? ちょっと双眼鏡貸してくれ」


 アリシアが使っていた暗視機能の付いた双眼鏡を借りる。

 その方向を見るとそこには確かに四機編隊を組んだ複数の航空機が見えた。


「マジか……。20機近く入るんじゃないか」


「榮倉さん。私にも」


 双眼鏡をアリシアに渡す。


「よく分かったな。桜って目がいいのか?」


「ううん。わたしはにんげんよりよめがきくだけ。かんちょうしじを」


 航空機との距離は十キロもなかった。このまま航行していれば確実に捕まる。

 艦橋に慌てた様子がないことから見張りたちは完全に気づいていない。海面ばかりに気を取られているようだ。

 これに榮倉の乗ってきた潜水艦伊400の影響なのかもしれない。

 同じように航空機を発見したアリシアが双眼鏡を返してくる。


「合計24機です。うち8機は直掩機に見えました」


「残りの16機は全部攻撃機ってことかよ」


「そうですね……。こちらには援護できるような戦闘機はありません」


「……。」


 援護なしでの航海。

 坊ノ岬の戦艦『大和』のような状況だった。援護の飛行機は一機もなくただひたすら波状攻撃してくる航空機を撃ち落とすだけの作業だ。そんな状況で生き残れるほど戦争は甘くない。大和を含んだ巡洋艦1隻、駆逐艦4隻が海の藻屑となった。

 その時ほど絶望的な状況ではないかもしれないが似たような状況だ。

 嫌な汗が流れる。


「……。取り舵だ。徹底的に距離を置くぞ」


 今できることをやるしかなかった。

 援護なしの状況で航空機の攻撃を十六機分避けられる保証はない。だったら十六機分も避けなければいい。難しいことは百も承知だがこの海域を航空機が離れるまで徹底的に戦闘を回避する。

 そうしたかったが桜は首を横に振って拒否した。


「だめ。シナノはもうきづいてる」


「……っ」


 奥歯を噛みしめる。

 先手を取られた。


「高角砲を二時方向に」


「りょうかい。……?」


 頷くとすぐに後部の高角砲は旋回を始めたが前部の主砲塔だけが動かない。


「どうした」


「かんせいけーぶるがきれている」


「艦橋での一括操作を可能にするケーブルです。それが切れているとなると前部主砲は手動でしか動きません……」


「トラブルかよ……。まあ仕方ないだろ。それより気づかれているなら遠慮する必要はないよな。桜。ぶちかましてやれ」


「りょうかい」


 刹那。

 後部二基の高角砲が火を噴いた。

 一瞬だけオレンジが瞬き、砲弾が発射された直後に黒煙を吐き出す。

 艦橋にどよめきがあった。

 榮倉は気にせずに続けさせる。


「続けてくれ」


 再び二発目が発射される。

 数秒の遅延があり上空でロケット花火の爆発音を大きくしたような音が聞こえる。

 上空にオレンジの炎が見えた。


「一機撃墜! 攻撃部隊分散しました!」


 双眼鏡で見ていたアリシアが叫ぶ。

 直後に三度の砲撃。

 さすがに連続では命中しない。


「もうすぐきじゅうしゃてい」


「射程に入り次第撃て」


 こくりと頷く。

 四度目の砲撃が艦上を照らす。

 分散した航空部隊は一時方向の高角度に八機。三時方向からは戦闘機や上空にいる航空機より低い位置にいた。何より他に比べて多少足が遅い。


「右が艦攻隊か! 八割の機銃をそちらに向けるんだ! 残りは全部上空の爆撃機を撃ち落とせ!」


「やってみる」


 数秒の間を置いて機銃掃射が始まった。

 火炎によって何度も艦は照らされる。


「榮倉さん! 敵機直上!!」


「くそぉ!! 面舵いっぱい! 避けろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 機銃掃射されているが爆撃機には命中しない。

 急降下してきたと思った瞬間。

 艦が転舵を始めた。

 水柱が真横で上がった。大量のシャワーのように降り注ぎ海水が甲板を濡らす。

 転舵が数秒遅ければ確実に爆弾は命中していた。


「第二撃来ます! 艦攻隊、攻撃態勢に入りました!」


「アリシア! 伏せろ! 桜! 取り舵いっぱいだ!」


 榮倉はアリシアと桜を強引に伏せさせる。

 航空機の機銃掃射が駆逐艦を襲った。


「っ!」


 二度目の爆撃も運よく回避した。

 そして三回目の爆撃が準備されていたがその航空機は機銃が撃ち落とす。

 火を噴いた航空機は100メートルほど先の海上に着水し爆発した。

 そこに日の丸が書いてあったことから日本機であることは認識できた。


「榮倉さん! これじゃ空が観れません」


「黙っていてくれ! ここでお前を死なせるわけにはいかないんだ!」


「……。」


「甲板の乗務員は真っ先に狙われる。気づかれるわけにはいかないんだ」


 ため息をついたアリシアだったがすぐにため息をついている余裕はなくなる。


「榮倉さん! 艦攻隊雷撃体制に入りました!」


 血の気が引くのを感じた。

 機銃掃射は続けているが精度がない。

 自動制御の弊害なのかもしれない。


「ちくしょう!」


 榮倉は近くの機銃席に座った。


「榮倉さん何をやっているんですか!」


「らちが明かない! このままじゃ間に合わない! 俺が仕留める」


 榮倉は単装機銃のハンドルを回し照準を合わせる。

 丁寧に合わせている余裕はない。

 すぐにトリガーを引いた。

 12.7mm機銃の反動はそこらのアサルトライフルとは比べ物にならない。いくらかは台座が受け流しているがかなりの反動だ。それを抑え込み榮倉は必死に照準を合わせる。


「桜! 面舵いっぱい!」


 機銃の掃射音で桜の返事は聞こえなかったがすぐに転舵した。

 数発の機銃弾が正確に燃料タンクと主翼の骨組みを撃ち抜いた。雷撃体制に入っている四機のうち一機が主翼の片翼をまき散らしながら海面に崩れた。

 コンマ数秒後に航空魚雷が海に落とされる。

「間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え!間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合え! 間に合えぇぇぇぇっ!!」

 汗が流れる。

 機銃席にいる榮倉には魚雷線が見えた。

 このままの速度では艦首に直撃する。


「機関減速!!!!」


 ガタン! と無理な操艦をしたせいか艦が揺れる。

 だがその甲斐あって魚雷は駆逐艦『桜』の左舷をかすめるようにすり抜けた。

 榮倉はそれを確認すると機銃席から降りて二人の元にもどる。

 機銃掃射の音の中でアリシアの表情はどこか怒っているように見えた。


「無茶しないでください! あなたが無茶をしてどうするのですか!」


 いや、怒っているようだ。


「悪い。あれしか思いつかなかったんだ」


「二度と危険な真似をしないでください!」


「……。ああ」


 榮倉の知っているアリシアは無愛想で無表情だったので彼女の怒っている姿に言葉を返せなかった。そこらの不良少年に怒られるよりもタチが悪い。


「こうくうきはんてん。きとうしている」


 ひとり上空を見続けていた桜が冷静に告げた。


「諦めたか?」


「たぶん」


 桜は頷いた。

 さすがに24機で出撃して3機も撃墜され半分近くの攻撃を外してしまえば撤退も仕方ない。榮倉は少し安堵した。

 だが艦橋を見て再び緊張が走った。


「桜。もう撃つ必要はない。すぐに機関室に戻るぞ。二人が心配だ」


 アリシアもこの船が榮倉たちの支配下になかったことを思い出した。

 そして支配している三池忠久はこの桜と言う少女が全機能を使える特殊な人間であることを知っている。だとすれば押さえに来てもおかしくない。

8月6日23時57分 『信濃』による攻撃


     第一次攻撃 失敗  

   第二次攻撃 発艦準備

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