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大和桜の舞う頃に  作者: 有佐アリス
第三章  哀史の末に
16/92

第一部 「暁の水平線に」 16

    *



    Soul_ships_memory


 真夏の太陽を真っ向から浴びた飛行甲板は渋谷の十字路並みに熱を帯びていた。海の上だというのに「盆地かよ」と突っ込みたくなるくらいに風も吹かずうだるような熱気の中で貧相な体を気にすることなく水着になって寝転がっている少女がいた。

 彼女の横には子供用の家庭用プールが置かれていた。


「あづいっ!!!!」


 吐き捨てるように信濃と呼ばれる少女は叫ぶ。


『ちょっとぉ信濃ちゃんびっくりしたでしょー! 冲鷹ちゃんはおしとやかなんだからもうちょっと気遣ってよお』


「るせぇい。これだからあたしは夏が嫌いなんだよ。暑いし暑いし暑いし熱い! よし、北上しようか。ベーリング海あたりに行けば涼しいだろ」


 駄々を捏ねる小学生のような言い訳をしている信濃に答えたのはまた別の声だ。


『せっかく四〇四が買ってきてくれたプールを使えばいいではないですか。それなら移動しながらでも涼めるでしょ?』


『日向さん。さすがに子供用プールじゃあの信濃さんでも無理があるんじゃないですか?』


「浦風……。あのってなんだよあのって!」


野分(のわき)は信濃さんなら大丈夫だと思いますよ』


「こらこら二人そろって何を言ってんだ。そもそもプールのサイズ云々じゃねえよ。これ完全に温泉だっつうの。涼むどころか暖まっているじゃないか」


『そっちでしたか。うちは小さすぎるから文句を言っているのかと思いました』


『そうでしたか。信濃のためを思っていたのですが』


「あたしを思ってくれるんならとりあえず扇風機くれよ」


 答えたのは気ままな振る舞いで話す駆逐艦『野分』。


『扇風機を使うには電力とこんせんとがいるんですよ』


「なんだよこんせんとって」


『知りません』


「だろうな! とりあえずそのこんせんとというやつと一緒に404に買ってきてもらえないのか?」


『おそらく無理ですね。あの子は今パラムシルですし、ベーリングにそのあとは向かう予定なので』


「マジかよ。あいつ居心地のいい場所ばっかりまわってないか?」


『りあるらっくというやつではないですか?』


「野分。どうせ404に教えてもらったんだろうけど意味の分かっていない単語を無理して使おうとすると馬鹿に見えるぞ」


『日本語のなっていない信濃さんには言われたくありません』


「ケンカ売ってんのか」


『まあまあ。お二人とも。護衛対象と護衛艦の仲なんですから落ち着いてくださいね』


『ところで日向さん。今後の動きはどうするんですか?』


 少しの間黙っていた浦風が聞く。


「あと400はどうしているんだ。沈んだわけじゃないだろ?」


『あの子は誰かを乗せているみたいですね。彼女がどうするかは自由です。あなたたちはルソン海峡から少し北上した場所に移動しておいてください』


「やっと戦闘か。400は潜水艦の中でも随一に勝手な奴だからな。沈むなんて腑抜けたことはしないだろ。ルソン海峡って言えば冲鷹も行っているんじゃないのか? あいつと艦隊を組むのは勘弁してほしいんだが。あいつの突貫グセが苦手なんだよ」


 ロープで繋いだバケツを海に落とす。

 ざぱんと海面に落ちるとある程度海水をすくって甲板の上に置くと子供用プールに入っていた水をこぼす。熱したフライパンのような音が鳴り水蒸気が上がりそうな勢いだった。


『今回は彼女とは組みませんよ。あなたは後方からの遠距離支援をお願いしたいのです。彼女の特攻癖は分かっていると思いますが』


『だったら野分たちは信濃さんの護衛をすればいいのでしょうか?』


『いえ、彼女に護衛は必要ないです。といいますかそんな余裕は今ありませんから。お二人は冲鷹さんの護衛をしてください』


『了解です』


『冲鷹ちゃんは突貫なんてしたことありませーん!』


「うるさい。少し黙ってろ」


 プールに再び海水を入れて再びバケツで水を汲む作業を数回繰り返した水風呂のようになったプールに浸かる。


「ぬ……。ぬるい」


 想像以上に冷たくなかったことに肩を落とす。


「日本海のほうはどうするんだ? あっちにも危険分子があるかもしれないだろ?」


『そっちには雲龍と神鷹の二人に任せてありますよ。護衛には坊ノ岬組と防波堤組の五人を呼んでいますから大丈夫です』


「そん中の矢矧とか貸してくんねえのかよ。大和でもいいぜ」


『起き抜けの矢矧に無理はさせられないですよ。それに大和は私には従わないでしょうから』


「まあ、あたしが日向に従うのも考えることが面倒だからだからな。大和が何を考えているかはあいつにしかわからないからな」


『何より彼女はしばらく出てこないと思いますよ。彼女のことは良いとして今夜にはルソン海峡近くには移動しておいてくださいね』


「あいよー」


 気のない返事を返すとほとんど日の落ちた空を見上げた。


「あの日は朝焼けだったな」

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