第一部 「暁の水平線に」 13
Ⅵ
《フィリピン ルソン島 サンタ・アナ》
8月6日12時45分
昼食を食べ終えると船に戻るまで少し時間があったので喫茶店で食後のコーヒーを飲みながら英語で放映されているフィリピンの情報番組を眺めていた。異国のフィリピンでも日本の不明艦のニュースは大きく取り上げられていた。
「ところで榮倉さんは英語が分かるのですか?」
喋りながら同じようにテレビを見ていたアリシアはコーヒーに砂糖を大量に入れる。もうコーヒーと言うよりコーヒー牛乳に近いくらいにミルクと砂糖を入れるとおいしそうに一口飲んだ。
「ネイティブ並とはいかないけどビジネスができるくらいは勉強したな。自衛隊でも合同演習とかでアメリカ兵と一緒になることがあったしけっこう便利だったな。君は分かるのか……。って元々はイギリスとベルギーのハーフだったな。それと君の作ったコーヒー牛乳見ているだけで甘ったるいんだけど」
渦を巻いている薄茶色い液体の入ったカップを指差す。
「コーヒー牛乳ではありませんよ。れっきとしたコーヒーです。ためしに飲んでみますか?」
ずいと自分の飲んでいたカップを榮倉の前に差し出す。
小さな手で握ったスプーンでミルクを混ぜる。
もう色合いはコーヒー牛乳にしか見えない。
「遠慮しておくよ……。胃もたれしそうだ」
「そうですか。残念です」
本人が納得している味にいちゃもん付けるのは気が引けるし何よりすっきりするはずのコーヒーで眠くなってしまいそうなくらいに甘そうだった。
会話も途切れまたテレビニュースの音声が流れる時間が続いた。
カップに残ったコーヒーを飲み干し席から立とうとしたときにアリシアの持っていた携帯端末から着信音が響いた。
基本的に携帯端末を使って連絡してくることはないと聞いていたので榮倉もアリシアも不思議そうな表情だった。アリシアは端末に表示された番号を見て発信主が菜月だということが分かった。
「とりあえず出たらどうだ? 急な要件かもしれないだろ」
「そうですね。少し待っていてください」
アリシアはそう言い残して先に喫茶店を出る。残された榮倉はレジで会計を済ませてから喫茶店を出て車に戻る。
車に戻ると先に助手席に座っていたアリシアが通話をしていた。
ただその表情はどこか険しかった。
「あの……? 菜月さん?」
今までの柔らかいムードとは打って変わってピリピリとした緊張感が張りつめている。
「どうしたんだ」
「それが……。船がどうかしたということは聞こえるのですけど雑音がひどくてほとんど聞こえないです……」
船?
アリシアと菜月が関係する船と言えばパラウィ島で停泊している駆逐艦『桜』くらいしか思いつかないが何があったのか見当がつかない。
「ちょっと貸してくれ」
「はい」
端末を受け取って耳を傾けるとほとんどがブラウン管テレビの砂嵐のような耳障りな雑音だけだったがその雑音が途切れる一瞬に人の声が聞こえる。
「……。」
聞こえたのは菜月の声で聞こえたわずかな単語から連想される答えは焦燥感を覚えるものだった。
「アリシア! 戻るぞ!!」
「……。はい」




