僕の転換期
ノリで作りました
僕は今日という日を忘れることはないだろう。
何の取り柄もない僕の小さな出会いにして、世界のどこにもない僕だけのストーリーを。
12月24日、たくさんの人々がクリスマスイブという一大行事でキャッキャウフフしていた時に僕こと犬飼達也は会社のデスクで一人寂しく一心不乱にキーボードを叩いていた。
なぜ僕がクリスマスイブにもかかわらず仕事をしているのかというと、仕事熱心だからではない。
これは今日の昼のこと
「おい達郎は今日は一日中暇だよな?」
「いえ今日はちょっと用事があるの…」
「まあお前に今日は用事がないよな。何せクリスマスイブだからな」
こんな風に達也に話しかけているのは同僚の英二だ。いつも自分の面倒くさい仕事は俺に押し付けてくるやつなんだが、周りにはうまく立ち回るためなんだかんだで先輩受けもいい。
「まあとにかくこの仕事頼むわ。俺今日飲み会なんだよね〜。その仕事明日までだから進められるところまでやっといてよ。」
これは遠回しに全部やっといてくれという意味だ。
「何でそんな仕事を残しておくのさ?」
達也は苛立ちながらも聞いてみた。
「いやー朝、部長から頼まれてさ。断るわけにもいかないじゃん。だけど俺にも用事があるからお前に任せたってわけ」
何の悪びれもなくそんなことを言う英二に僕はきれそうになるのを必死に抑えていた。
「そんなわけだいつものことじゃないか。」
そんなことを言いながら俺の肩をポンポンと叩いてくる。そういつも僕は英二の尻拭いばっかりしてきた。おかげであいつは先輩達からの信頼も厚くちかじか出世するらしいと噂に聞くことがある。そして僕はそんな達郎に助けられているかわいそうなやつという立ち位置だ。
「ねえねえ、英二早く行こうよ。もうすぐ集合時間だよ。」
「そうそうそんなやつほっといて早く行こうぜ。」
「あー、分かった。今行く今行く。じゃっそういうことで後頼むわ。明日俺のデスクの上に置いといてくれればいいから。」
そう言って英二は若いグループの子達と部屋を後にしていく。
「何で僕ばっかりがこんな目に合うんだろう。せっかく今日は彼女との初のクリスマスだったのに。」
でも達也にやらないという選択肢は存在しない。なぜならこれをやらなかった日には英二から会社に達也の悪口が伝言ゲームのように回るからだ。
「はあーなんて日だ。過去最悪の日に違いない」
そうこの日は過去最悪の日であると達也が言うのも確かだった。
そうこれは夕方の3時くらいの出来事だった。
「まずい。このままだと6時までに仕事が終わらない。」
達郎は焦っていた。今日はクリスマスイブせっかく彼女がいる達也は是が非でもこの日は彼女といたいのだ。しかし時間は無情にも過ぎていき、書類が半分できたのは実に5時頃だったのだ。もう彼女に連絡することを決めスマホのパスワード解除しようとしたその時だった。
ピコンと音がなったのだ。
その一文は彼の心を折るにはこれ以上ないものだった。
「ゴメン。もうあなたと別れたいの。前の彼とよりを戻そうと思って、そういうことだからさようなら。」
「は?」
達也は固まってしまった。
いったい何が起こったのだろう。
この文章はなんなのか?
そんな考えがよぎりわ消えていく。
それからすぐに彼女に連絡しようとしてスマホのロックを解除しLINlを開いた。
しかし彼女の名前はすでに画面に無く、誰もおりませんの一文字がそこにはあった。そして名前から再び会話をしようとしてもロックされており、連絡がつかない。
電話番号、メールアドレスも全部変わっていた彼女に連絡する手段は完全に消えてしまったのだった。
そして思考が完全に止まってしまった。
そして今に至る。
誰もいない会社の中で一人やっと完成した書類を英二の机の上に置く。
そして達也は会社を出ようと思い、鞄を手に取ろうとした。その時目についたのは彼女と初めて買ったおそろいのストラップ。
みんなに笑われると思った達郎はこのストラップをつけずにいたのだが、肩見放さず持っていた。
しかしもう彼女はいない。今思えば付き合って半年彼女がストラップをつけているのを見たこともなかった。やるせない気持ちをためていた達也ははとうとう自分のデスクを蹴り上げた。しかし重いデスクは浮かぶこともなく足の指にジワリと鈍い痛みが広がった。
「なんでだよ。俺の人生はどうしてこんなことになってるんだよ。人並みの幸せすらおれには与えられないのかよ。」
そんな声をかき消すようにクリスマスの音が外から聞こえてくる。
「バカバカしい。こんなもう人生は嫌だ。」
彼はそんなつぶやきとともに何かを一心不乱に書き始めた。
午後10時、未だに鳴り止まない音楽が聞こえてくる屋上に達也は立っていた。
足元には靴と遺書が綺麗に並べられている。
「散々な人生だったな。」
達也は自分の人生を振り返った。田舎で過ごした学生時代。あの時は自分の居場所はここじゃないと思い、農場なんてつぎたくなくて東京の大学に進学。夢見て上京してきても何も変わらなかった大学生時代。そして厄介ごとばかり押し付けられる社会人。
どれを見ても残念の一言しか存在していない。
「ああ、おれの人生はなんだったのだろうか?」
自傷しながら飛び降りようと決意した時のことだった。
「そんなところでなにやってるんですかーー?」
下の方から声が聞こえてきたのは。
「危ないですよーーー」
彼はそんな声に返事をした。
「今から自殺するところなんだよーー」
もうどうでもいいやと思っていた彼は自重などしないで声を張り上げた。
「そんなことダメですよーー。何があったか知りませんけどこんな彼氏に逃げられた私だって生きてるんですからそんなことしちゃダメですよーー」
「俺も今日彼女ににげられたんだよーーー」
そんな風に返してみると。
彼女は笑いながら
「じゃあ一緒ですねー。バーにでもいきませんかーーーー?」
と大きな声が返ってきた。
それからなぜか下にいた女性と一緒にバーにいる。
「ここは隠れた名店なんですよね〜、あっ適当に何かくれませんか〜?」
彼女は笑いながらグラスを磨いているおそらく店長に話しかける。
「ここでは店長がその時々で客にあったものを提供もしてくれるんですよね〜。」
「へ〜そそうなんですか。」
こんな風にほんわかに話している彼女の名前は本田巡理。
まさに死のうとしていた達郎はなぜか彼女とバーで酒を飲んでいる。あの後なぜか笑いながら手招きする彼女を見ているとなぜか自分の行動がバカバカしくなって結局彼女の招きに応じてしまった。この巡理も今日彼氏に別れ話を持ちかけられたらしい。
「私もですね、何言ってるんだろうこの人はと思ったわけですよ。だってこの日に言います?クリスマスですよ。」
(俺何で彼女の別れ話なんて聞いてるんだろう?)
そんなことを思いながら名前も知らないカクテルをひと飲みする。
「まあ普通ありえないよな。クリスマスに別れ話なんて持ってくる人」
そんな風に適当なことを返す達也。自分も同じ状況なのになぜか慰めていた。しかし次の一言で一気に覚醒した。
「もう本当にこれで7回連続クリスマス別れ話ですよ〜」
「えっ?これで7回目なの?それはさすがに多すぎない!」
「本当に何でなんでですかね?私ってそんなに可愛くないですかね?」
そんなことを達也に尋ねてくる。達也も死のうとしてた手前全然巡理のことを見てなかったことに気がついた。
よく見てみると容姿端麗であり何でもできるキャリアウーマンという感じのパーフェクト女性なのだ。スタイルも良く誰が見ても美人という分類になるだろう。話し方のほんわかさとは全く違う。
「そんなことはないですよ。誰から見ても美人に思われると思いますよ。」
「ウフフ、ありがとう達也くん〜。お世辞でも嬉しいわ。」
「お世辞なんてとんでもない。本当のことですよ。」
急に顔が熱くなる。心臓もばくばくなり始めた。
(よくよく考えてみると彼女と別れたクリスマスに巡理さんに会えたことは奇跡にも近い。別れた彼女と付き合い始めてから半年を考えてみるとほとんどを貢がされていた気がする。)
そんな達也の気持ちなど知らずに巡理は愚痴り始める。
「というか今の男性は草食系なんですか?全くこっちがアピールしているのに全く襲いもしないんですよ。って聞いてるんですか?」
「…………!聞いてましたよ!!」
実際には聞いていなかったが達也は何となく答えてしまう。
「むうー、本当ですか?」
そのこと訝しみながらも巡理は達也に今までの彼氏についての愚痴を再開した。そのことから分かったのが、
(あー巡理さんは積極的すぎるのね。)
巡理さんが彼氏にベタベタしすぎなのが原因だったのだ。それに比べて草食系の彼氏はみんなひいてしまう。
例えば周りの人がみんな男だらけの場所でも普通にイチャついてくるなど並の精神力では耐えられないことばっかりなのだ。
「なるほどね、巡理さんは積極的すぎるんですよ。もっと自重しましょう。」
「そうかな〜?全くそんな気はないんだけどな〜。」
巡理さんはそんなほんわかな返し方をしてくる。
「じゃあ、私の愚痴はおしまい。次は達也くんが何で死のうとしているのか話してね。」
いきなり自分の話になって達也は焦ってしまい。
「実は・・」
と今までの経緯を話してみたところ。
「そんなこともあるよ。気にしちゃいけない、私だって会社でそんな目に何度もあってきたんだから。」
巡理さんもその美貌と仕事の出来から先輩社員から嫌がらせに近いことをされていたらしい。
「でどうしたんですか?」
達也はその解決方法を聞いてみると
「私がみんなの代わりに全部仕事をやってやったのよ。おかげでみんな呆れて何にもしなくなったわ。」
どうやら力でねじ伏せたらしい。達也は自分は真似できないなと思いながらも勇気づけられた。
それから閉店間際になって店を二人で出ることにする。
「今日はありがとうございました。おかげで明日からまたやっていけそうです。」
達也は憑き物が落ちたように巡理に感謝した。
「いえいえ私も彼氏と別れて暇だったんで感謝なんていいですよ〜〜。」
そんなことを言いながらも若干照れている。
「巡理さんまたここに来れば会えますかね?」
達也は巡理さんにダメ元で聞いてみると、
「私たちの仲なんですから週に一回はこの店にいますしいつでも会いましょう。」
笑顔とともにそんなこと言った。
10年後
「今日はクリスマスだね〜。達也くんは覚えてる〜?。」
「覚えてるに決まってるじゃないか。僕の人生の転換期だよ。」
「あの頃の達也くんはネガティヴだったからね〜〜。でも今や社長じゃない出世したよね〜。」
「全てを君のおかげさ。」
「達也くん!」
「巡理さん!」
僕たちはそうして抱き合った。
あれから真面目に頑張って仕事を全部こなして英二よりも先に出世し、いつも愚痴り合う巡理さんにプロポーズし結婚。今でもラブラブの夫婦として近所でも有名だ。
そんな僕があるのもあの日のおかげ運命のおかげだっただろう。
誤字脱字あったら感想に書いてください。
作者はメンタル弱いのでお手柔らかにお願いします。




