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君主制
「と言っても、もう言葉を覚えればいいってだけじゃないからね」
「王宮じゃ人材は足りない?」
ここはもう、率直に言うべきだろう。
「うん。人材と言うか……いや、とにかくそれ以前の問題だね」
おそらく、人は足りていない。
けれども、もっと足りていないのは。
「人材が足りない、てだけならいいんだ。一応、見つくろうことで何とかできるからね。でも――今の制度が、ね」
さすがに、言いよどむ。
「専制君主制?」
一方で、彼女の切り込み方は容赦がない。
苦笑いしつつ、僕はうなずく。
「うん。分権、て言えばいいのかな……もう、一人で一国全部をどうこうできる範囲は、とうに超えてるんだ」
2000万㎡、1億人。
ベテルブルクを首都にした巨大な版図。
……そこでようやく、僕は思い出す。
ロシアの首都は、まだモスクワじゃなかったことを。
機能がモスクワに移るのは、あまたの血が流れたら、のことだ。
これはさすがに、後で話すことにしよう。
「サンクト・ペテルブルクから一人で治めるには、今のロシアは広すぎるんだ」