選択肢
僕が手にしたのは、ついさっき飲んでいた方。
鮮やかな赤い色、すなわち、自家製のワインだ。
両手で持ち直し、コップを彼女の前に置く。
「うん。やっぱり、こっちの方が大事だと思う」
この選択そのものは、そこまで重要じゃないはずだ。
もちろん、これで終わりでもない。
本番はたぶん、この後のやり取り。
つまり“大事”になるのは、選んだ理由の方だ。
「――その理由は?」
一呼吸だけ置き、僕は答える。
「いつも飲んでるから……かな。あの立派なワインがダメな訳じゃない。あれはとても素敵なものだし、僕も気に入ったよ」
「――なら、いつも飲んでたのがこっちなら?」
ガラス瓶のワインを指し、彼女。
これは正直、むずかしい問いだ。
数秒だけ時間が空き、やがて僕は首を横に振る。
「それは僕に分不相応な習慣だと思う。だから、その仮定には意味がない。とにかく、僕にはこのグルジアワインの方が大事だね……何しろ、ジョゼファが作ってるものだし」
最後は少し余計だったかも知れない。
僕の、恐らくはどうしようもない甘さゆえの。
でも、余計だったかも知れないけど、僕の本音だった。