92/350
赤と赤
「はい」
コップの片方が差し出される。
このまま、水を飲めと言うことだろうか。
「ん」
お手本はすぐに提示された。
彼女はコップの水で口をすすぎ、そのまま飲み干す。
抵抗はあるけど、外に水を吐くのも不格好に思える。
少し遅れて僕も、コップをとり真似をする。
あまり味わう暇はない。
年を通して一定な、十数度の冷たい井戸水。
水は、いつも通りに水だった。
空になったコップがふたつ。
そこに今度は、陶器ワインが注がれる。
ここでようやく納得がいった。
きちんと飲み比べるなら、水が必要だ。
こうして何種類も並べるなんて機会、なかなかない。
今度のワインも同じく、ふたり分、なみなみと注がれていく。
ただ、名前が同じワインと言うだけだ。
見た目も風味もかなりちがう。
「これも飲んで」
言われて、僕はコップを受け取る。
ぶどうの色が素直に出た、若いワインに見える。
先程のワインに比べれば、漂う匂いの方も控え目だ。
本当は飲むまでもないけれど、コップを持ち直し、中身を口にする。