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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1895年、グルジア
9/350

食物

 ほどなく、頼んでいた昼食が来た。

 注文通り、僕はトマトと肉の香辛料煮(オーストリ)、彼女はプレーンチーズピザ(ハチャプリ)だ。

 お互い、昼に食べる量はそう多くない。必然、食事の時間そのものは短くなる。

 いつも通りに、僕らは静かに、食事に専念する。


 僕の頼んだスープはと言うと、辛口のビーフシチューに近いだろうか。

 たっぷりのトマトをベースに、玉ネギ、にんにく、そして香辛料。

 そこに牛肉を、筋や骨も含め荒くぶつ切りにして煮込んである。

 かなりの辛さはあるけど、とても荒々しく、素材そのものが活きる味だ。

 スプーン一口ごとに歯応えが違っていて、それが楽しみでもある。


 ひとしきり頬張り、食べ終わるとデザートが運ばれてくる。

 ワイン、パンと並ぶここの郷土食、ヨーグルト(マツォーニ)だ。

 砂糖もゼラチンも入っていないそれは、控えめな酸味と牛乳由来の甘みが絡まっている。

 ジャムはもちろん、パンやシチューともよく合わされている。

 どちらかと言えば、生クリームみたいな扱いのものと考えると近いだろうか。

 大量に作られる訳ではないから、たぶん菌や作り方が味に反映されるのだろう。

 家によって味が微妙に違い、自家製のヨーグルト(マツォーニ)同士が交換されたりもする。

 たとえば発酵を長く取ると酸っぱく、短く取るとまろやかにと言った風に。

 僕はと言うと、この食堂とジョゼファのものとがお気に入りだ。


 もっとも、正直に言って、僕の故郷でこれに「カスピ海」とつけた人のことはよく分からない。

 事実として、グルジアはカスピ海に面してはいないのだから。

 海に接しているのはアジャリア地方やアブハジア地方、それも黒海の方だ。

 この街、ゴーリーからカスピ海に向かうには、お隣のアゼルバイジャンを通るしかない。

 もちろん大コーカサス山脈を抜ける手もあるけれど、好きこのむ人はそういない。

 歴史上ヨーロッパとアジアを隔ててきた山脈を、わざわざこえたい人は。

 少なくとも、向こう20年ほどはそのはずだ。

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