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ワイン
玄関の扉が開く。
僕一人の食卓に、“辺境の魔女”が舞い戻る。
「お待たせ」
普段通りに手下のワイン、ただし今日は2本を引き連れて。
1本は陶器製、1本はガラス瓶だ。
もちろん、食事時のワインは珍しくもない。
なにしろグルジアは、世界最古のワイン生産国なのだから。
食事で供されるのはごく普通のこと。
宿に泊まれば、当然のように飲み物として注がれる。
ほぼ無料で出てくるのもあって、僕もだいぶ飲み慣れていた。
この辺り、よく僕の故郷で出されていた緑茶を思いだしもする。
改めて席に着いた彼女に、僕は問いを投げかける。
「――それは?」
食卓に置かれた2本。
僕はその内、ガラス瓶の方に目を向けていた。
グルジアでは陶器のワインが当たり前のなか、ガラス瓶のそれは珍しい。
封のコルクにしても、熟成期間を反映してか、かなり長い。
銘柄は分からないけど、かなり大切なものに見える。
「まだ秘密」
言って彼女はワイン2本を並べ、僕らのコップを確認する。
いつものように飲み干し、食後は綺麗に空だ。
何はともあれ、今から飲むことになるのだろうか。




