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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1895年、グルジア
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飲物

 グルジアへの予期せぬ旅から1年と少し。

 まだ僕は、自分のこと、将来にあるはずのことを言い出せないでいた。

 元の――僕が暮らしてた――日時に戻れる目算も全くない。


 そんな僕が何とかやって行けてるのは、雇い主、ジョゼファの優しさと、グルジアの気候だ。

 19世紀末。ロシア帝国の版図はあまりに広かった。

 中にはほとんどアジア圏に等しい、温暖な気地域もあるほどに。

 北をロシアと大コーカサス山脈に、南をトルコに。

 東をカスピ海に、西を黒海に挟まれたグルジアは、そんな地域でもあった。


 雇い主に連れられ、食堂へ入る。


「いらっしゃい、ジョゼファちゃんユーリくん。何にする?」

「あたしはプレーンチーズピザ(ハチャプリ)ぶどうウォトカ(チャチャ)。ユーリは?」

「僕はトマトと肉の香辛料煮(オーストリ)紅茶(チャイ)

「はいよ」


 注文を済ませひとまず飲み物を受け取り、テーブルにつく。

 ワインもビールも、ここでは昼間からが珍しくない。

 僕、ユーリはと言うと、アルコールではなくもっぱら紅茶なのだけど。


 ユーリ・アリルーエワ。それがここでの、僕の名前だった。

 1年と少し前、とっさに口をついたあだ名。

 小型機械(スマートホン)の電池が切れた今となっては、この名前だけが唯一、元の世界と僕をつなぐように思われた。


「じゃあ、乾杯ね」

「乾杯」


 インドのそれとはまた違う、黒みがかったストレート紅茶(チャイ)

 僕はそれを、陶器製の小さなカップから飲み干す。

 風味を楽しむそのたび、元の世界の記憶が薄れていく気がした。


 ともあれ、まずは分かったことがある。

 壊れない限り人は、どんな生活にもやがて慣れるものなのだ。

 たとえそれが、郷里を遠く隔てた異国であったとしても。

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